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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき
第7章 暁の楔

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第7章 暁の楔(クネウス・アウローラエ)Ⅱ ~ それぞれの思惑

「……そうじゃな。端からルミナ嬢は、そう申しておった。居てくれれば心強いのは確かじゃが、それは我らの我儘というもの。感謝しつつ見送るのが筋というものじゃろう」


 オルクスが重々しく口を開いた。低く響くその声は、場に微かな緊張をもたらす。


「ランバート。お主が今ここで息をしておられるのも、ルミナ嬢のお蔭ということを……忘れてはおらぬな?」


 その言葉は、ルミナリスの旅立ちに異を唱えようとする者への牽制でもあった。実際、彼女が限られた者たちに旅立ちの意志を伝えた際、それを快く思わぬ声が一部から上がっていたのだ。


~本文より

「ここを出て旅に出るというのは本当でしょうか?」


 ランバートは、ルミナリスに出来るだけ穏やかになるように心掛けながら、慌てて尋ねていた。

 大魔法は使えないとはいえ、魔法の解析・運用・効率において群を抜いており、アルゲントルム人としての資質を誰もが認めていた。王都脱出の要でもあり、シルヴァ・カストラの人々の避難に大きく貢献したのも彼女である。少女のような外見に反して、アルカヌム・カストルムにおける中心的な戦力であり、今後さらに重要な役割を担ってもらうつもりでいたその矢先の話だったのだ。


 合議の間と定められたその広間は、岩を削って造られた古代の楕円形の円卓が据えられており、壁は厚く、外界の音も遮る。主だった各方面の影響力ある人物たちが顔を揃えていた。

 ランバートとルミナリスのほか、守護剣聖オルクス、王国の影ヴァンセイル家の侍女長フレイヤとルルリア、銀狼族のロアン、そして、アルカヌム・カストルムから脱出してきた王国に忠誠を誓う守備兵団の団長レオポルド、そして規律を重んじる王都憲兵機甲兵士長ヴェルナーが着席し、ルミナリスの言葉に耳を傾けていた。


「はい。当初より申し上げていた通り、私には果たすべき使命があります。侯爵様の御命により、これまでお手伝いさせていただいておりましたが……差し迫った危険は去ったと判断いたしました。これよりは、本来の使命に取りかかる所存です」


 ルミナリスの声音は冷静で、揺らぎのない意志を感じさせた。


「……そうじゃな。端からルミナ嬢は、そう申しておった。居てくれれば心強いのは確かじゃが、それは我らの我儘というもの。感謝しつつ見送るのが筋というものじゃろう」


 オルクスが重々しく口を開いた。低く響くその声は、場に微かな緊張をもたらす。


「ランバート。お主が今ここで息をしておられるのも、ルミナ嬢のお蔭ということを……忘れてはおらぬな?」


 その言葉は、ルミナリスの旅立ちに異を唱えようとする者への牽制でもあった。実際、彼女が限られた者たちに旅立ちの意志を伝えた際、それを快く思わぬ声が一部から上がっていたのだ。


 だが、オルクスの言葉をもってしても、その場の空気が和らぐことはなかった。

 厳つい体躯の守備兵団団長レオポルドが、低く唸るような声を上げた。


「ルミナリス殿。オルクス様のお言葉が有れど、我々にとって、あなたは軍事的にも情報的にも、もはや必要不可欠なお方です。今後の組織づくりの計画においても、その知識と解析力を必要としている。そんな中、"使命"という曖昧な言葉だけで、外界に出るというのは—— 余りに軽率では?」


 その言葉に続くように、隣にいた王都憲兵機甲兵士長ヴェルナーも無表情に告げた。氷のように冷えた声である。


「我々はまだ、あなたの知り得る"すべて"を掌握していない。重要な記録なり知識なりを貴女が意図的に伏せている節がある……それは如何ですか?」


 ルミナリスは目を伏せることなく、ふたりの男の視線をまっすぐに受け止めていた。しばしの静寂の後、落ち着き払った声音で口を開いた。


「お二人の疑念はごもっともです。ですが、私はあなた方と敵対する意思も、逃避する意思もありません。今までの協力は偽りなく、最大限尽くしてきたと自負しております」


「ならばなぜ出る必要がある? 君がここにいれば、より多くの命が助かるかもしれないのだぞ!」


 レオポルドの声がやや荒ぶった。

 それでもルミナリスは冷静に、静かに、しかしはっきりとした口調で返す。


「ここに残れば確かに、いくつかの戦術的優位を得られるかもしれません。しかし、私の使命は—— 未来の可能性を開く鍵を探すことです。それは、"この場に留まる"という選択肢では、成し得ないものです」


 軽く左手を掲げ、掌を伏せるようにしてゆっくりと円卓を撫でる。


「初めてここに来た時、ランバート様やオルクス様、フレイヤ様と幾度も言葉を交わし重ねました。ここも……この場所も護りたいものの一つです。ただ……"私自身"が動かなければ届かないものが、守らなければならないものがある。その先にこそ、王国やこの戦争で傷付いた皆様を救うための真の道筋があると、私は確信しているのです。だからこそ、ここには留まれません」


「……確信、か」


 ヴェルナーが唇を引き結んだ。彼は感情を見せることのない男だが、その目にはわずかな焦りと、不信の色が揺れていた。


「信頼していただけないのであれば、それもまた致し方ありません。ですが——」


 ルミナリスは言葉を区切り、会議の場を見渡した。


「私は、アルゲントルム人としての誓いに従い、最後まで〈理の均衡〉を守る者として生きます。この身が外にあっても、その誓いに違えることはありません。貴方方が王国の盾であるのなら、私は闇のその先を照らす灯火でありたい。他の誰かが、私自身もですが道を違えることの無いように——」


 静まり返った会議の間に、ルミナリスの宣言が、重く確かな響きとなって落ち、しばしの沈黙が場を支配する。

 そんな中で、椅子の背にもたれていたフレイヤが、ふっと笑った。


「まったく……ヴェルナー殿もレオポルド殿も、どうしてそんなに怖がるのです?」


 声に棘はなく、けれど毒を含んだ甘い響きだった。


「ルミナリス様が何をなさろうと、それはすべて王国のため。いいえ、戦に泣いている人々の為でしょう。それに、この方が裏切りを為すというのなら、とうにこの古城は灰となっていたはず。……王城で私たちを自らの危険を顧みず導きお助けいただいてから、常にお傍にいて見守っていた私が言うのです。少しは信じてみてはいかがですか?」


 目を伏せていたヴェルナーがわずかに目を細めた。


「フレイヤ殿。貴女が信じると言えば言うほど、私は警戒を強めたくなるのです。ヴァンセイルとはいえ貴女が何らかの術中に落ちていないとも限らない」


 フレイヤは肩をすくめ、長い髪を払うと、長椅子のひじ掛けに身を預けたまま、いたずらっぽく口を尖らせる。


「それは光栄の至りでございます。それほど気にかけて頂いているとは思いませんでしたわ」


 ルルリアがそのやり取りを見て、静かにルミナリスに近づいた。


「ルミナちゃん……聞いても?」


「ええ、どうぞ」


 いつものようにからかうような雰囲気だが、瞳は真剣そのものだった。


「今回の旅の目的は……貴女の記憶に関係していること? 先日、避難民とのやり取りのあと、少し……様子が違っていたからさ。気になっちゃってさ」


「別に隠しているつもりはありませんが、王都陥落の前の記憶が不明瞭で、余りにも思い出せないことが多い……ですが……今回の旅の目的は違います。自らの命を引き換えにしてまで託された願いを—— 私は叶えなければならない。それが使命です」


 オルクスは腕を組みながら、苛立ちを隠さず、言葉を吐いた。


「良いか、皆聞け。ルミナ嬢に加護を与えておられるは、生命の女神シレンシオ。そして、死しても尚、ルミナ嬢を守り導き、使命を与えたはソラデア・アルクス—— 太陽の乙女その人じゃよ。我が魔剣アシュラムに誓って、嘘偽りはない」


 一瞬、円卓の空気がざわついた。シレンシオとソラデアの名前は強力であった。

 ルミナリスは微かに目を伏せてから、静かに頷き、オルクスの言を肯定する。


「ええ。けれど、使命は私が為すべきこと。どなたも巻き込むつもりはありません」


 ルルリアはしばらく考え込むように沈黙したが、やがてこくりと頷いた。


「……わかったよ。記憶も戻らないまま、この世にはもういないソラデア様のお手伝いなんて、怖いよねぇ。だけど、どんな些細なことでもいいからさ。手伝って欲しいことが有ったら遠慮しないで言って。それが貴女の道を護る盾となることもあるからさ」


 明るく声をかけて、否定的な意見を封殺する空気をルルリアはあったという間に創り出していた。流石は商会のもと密偵だ。会話のそつのない誘導の仕方にフレイヤも満足げににっこりと笑った。


 と、その時、重々しい声が、場の空気をさらに深めるように響いた。

 銀狼族、ロアンは立ち上がり、ゆっくりと円卓を見渡すと、その青色の瞳をルミナリスに向けている。


「……ルミナリス殿。貴殿は、『星降る指先の印』ヴァリエル・ノータに導かれているのだな」


 その名を呼ぶ声は、獣の咆哮にも似ていたが、そこに怒りはなく、ただ確かな"重さ"が宿っていた。


「皆も知っているだろう。ヴァリエル・ノータに導かれるものが進む道の先には、数多の困難が待ち受けているという。つまりそれは我らも巻き込む運命の奔流があるということだ」


 静かに、だが鋭く息を吐く。


「星の印は誘い導く。何者であろうと邪魔建てはしてはならない。そして、貴殿が何を秘していようと、それが“正しき道筋”であるなら、俺は支えよう。だが、“歪んだ理”を臨み運ぶことが有るのなら、それが何者であっても、必ずこの手で滅ぼす。それだけだ」


 その言葉に、ルミナリスは真っ直ぐロアンを見返し、わずかに笑んだ。


「……だからこそ、頼りになります。ありがとうございます。ロアン様」


 こうして会議の場は、緊張のまま、しかし徐々に静かな決意に満ちていった。

 ルミナリスの旅路が—— 新たな局面へと踏み出そうとしている。


次回 ランバートが抱える思いと覚悟を描きます。


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

大変うれしく思います。

丁寧に書いていきますので、感想などあれば頂けると嬉しいです。

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