第6章 焔の刃Ⅰ ~ ベルセクオール、侵攻
「全ては狙い通りだ。死神野郎と腐肉漁りどもがきたぞ、各自は指示があるまで、全員待機だ。露払いの邪魔はするな」
そう告げると古代樹からするりと飛び降り、長腕隊の前に躍り出た。
長腕隊は皆魔人種で構成されている。躰から立ち昇る強い魔力が、薄暗い蜃気楼のように揺らいで、日の光すらゆがめ、暗い影の中にいるような魔人種の中でも悪魔により近いと言われる魔人の一団。
薄気味悪くて気分も悪くなる奴らだ…・・・妖霊と何も変わらん。
~本文より
『隊長、姿を隠す気もなくぞろぞろぞろぞろ、長腕のみなさんがこちらを目指しています。どうします?』
帝国の探査機「エーテリア・ロクス」を覗き込んでいるセリオの声が喉輪から流れ込んだ。
ゼイロスは、大樹の高い枝の陰から、隠形と隠蔽の魔法具を駆使しつつ、覗いていた。すでに「赤眼」により、長腕隊の活動と、その後を追う黒牙隊の動きは捕えている。
「そのまま丁重にお迎えしろ。根拠となる座標軸も伝え忘れるなよ」
ゼイロスは一息つくと、喉輪の通知を三度鳴らす。予定通りヴァルタの精神感応での返答が、直接頭の中に響いてきた。
『黒牙も順調に後ろについています。思考制御の網は、万事予定通りです』
ゼイロスの眼が獲物を狙う肉食獸の爛々と輝く眼に変わる。
「全ては狙い通りだ。死神野郎と腐肉漁りどもがきたぞ、各自は指示があるまで、全員待機だ。露払いの邪魔はするな」
そう告げると古代樹からするりと飛び降り、長腕隊の前に躍り出た。
長腕隊は皆魔人種で構成されている。躰から立ち昇る強い魔力が、薄暗い蜃気楼のように揺らいで、日の光すらゆがめ、暗い影の中にいるような魔人種の中でも悪魔により近いと言われる魔人の一団。
薄気味悪くて気分も悪くなる奴らだ…・・・妖霊と何も変わらん。
と心の中で毒づくゼイロスは、様子をおくびにも出さず、声を掛けた。
「相も変わらず、ぞろぞろ引き連れているんだな。ヴァルケイン。消耗品の隊員の補充も大変だろう?」
夜の名を冠する魔人、ヴァルケイン。
その輪郭は黒い炎のように揺らぎ、声は底の見えぬ井戸から湧き上がる。
くくく、と喉の奥で笑うたび、闇が波打った。
「偵察と物理攻撃しかできない貴様らの尻ぬぐいだ。手数は多いほうが良いだろう? 司令部の指示も出ている。つまらんことを企んでいたようだが、手柄はもらうぞ。ゼイロス」
と自信たっぷりに返答を返した。
ゼイロスは長い尻尾を大地に打ち付けながらも、穏やかに答えた。
「ふん。貴様らの手を借りるのは癪だが、ウチはまだ立て直し中だ。隊員を死なせることが前提の作戦で、数を減らすわけにはいかんからな。足跡の痕跡の位置情報はロクス探査機に送ってある。見ておけよ」
「ああ、今回はその礼に、お前の隊は誰も殺さずに見逃してやろう」
「つまらない冗談はいらん。さっさと行け。俺がお前らを殺し始める前にな」
ゼイロスは冷たい殺意を放ち、ヴァルケインは、死神に例えられる黒い容姿と長身の躰を、微動すらさせず、
「それはそれで面白い。殺しに来るなら、何時でも来い。構わんぞ、いつでも、な」
と、哄笑してその場を離れ、長腕隊の面々に移動するよう促した。
ベルセクオール部隊の中でも一目置かれる部隊『長腕隊』は、その残虐性でも他部隊と一線を画しており、血と粛清を好む物騒な部隊である。魔法と魔術に長け、直接戦闘も獣人種に引けを取らない。どこにいる獲物にも必ず手が届くとの評判が故に「長腕隊」と言われるようになったのだ。
そして彼らは敵を排除する為なら、味方がいてもお構いなしで攻め立てる。
魔眼部隊も広範囲攻撃の巻き添えで、かなりの数の隊員に犠牲者が出ており、ゼイロスはそのことを忘れてはいない。
天敵の伝説の守護剣聖、精霊人がお前たち魔人種の相手だ。上手くやれよ。
長腕隊の背が森の闇に溶ける。
ゼイロスの口元に、久しく忘れていた笑みが浮かんだ。
それは、人が笑う時の笑みではなかった。
次回、侵攻に備えて避難民とともにルミナリスがガイルの覚悟を垣間見ます。
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