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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第5章 隠し砦 シルヴァ・カストラⅧ ~ 「祈りの唱」

「貴様らっ、それでも栄えあるマクシュハエル王国騎士団の生き残りか!」




 その声は怒りに満ち、兵士たちの心を震わせた。




「皆を思って散った者たちの思いを踏みにじり、生き残った同胞相手に鬱憤を晴らそうというのなら前へ出ろ。この俺が相手してやる!」




 ガイルの怒気に応えるように、その体から沸き起こる焔が大剣へとまとわりつき、炎の柱となって空気を震わせる。


 その姿はもはや人ではなく、焔の魔神そのものだった。彼の口元からは小さな焔が漏れ、騎士団員たちは恐れすら覚えるほどの迫力に気圧された。


~本文より

「皆さん、落ち着いて。僕の話を聞いてください」


 ランバートの必死の声も、砦の大広間に集まった、焔鳥の刃騎士団と生き残りの兵士たちの耳には届いていない。

 ランバートから、今後の事を踏まえた、旅の扉についての説明を巡り、時折怒号を交えた激しい議論を交わしているのだ。声が荒れ、不満の声が飛び交う。何もかもが失われた今、古代の大魔導という、わずかな可能性に皆縋りつきたいのだ。


 だが、その焦りがランバートをつるし上げる形になり、場の空気は紛糾していた。


「そんなすごい魔法を何故隠していたんだっ」

「さっさとその旅の扉とやらを、新しく組上げろ!」


 旅の扉という古代の大魔導で造られた移動魔法があると聞いて、絶望が色濃かった城塞内の空気は一変した。

 希望も湧いたが、同時に、その魔法がもっと早くわかっていたら…………亡くした家族の名前を叫び、助かっていた筈だとの涙を浮べるものすらいた。失意が怒りとなり、渦巻いたのだ。

 そして、その怒りの矛先は今説明をしていた、ランバートへと向けられていた。


「いや、ならぬな。そうは簡単なものではない」


 鋭く響くオルクスの声が、喧騒を一瞬静めた。

 疲労と焦燥に駆られる騎士団員たちを前に悠然と立ち、旅の扉について語り始めた。


「失われし古代の大魔導じゃ。存在するものを多少いじくることはできても、一から造り上げることはできん。そもそもそれが可能であれば、どこもかしこも旅の扉だらけの筈じゃ」


 騒ぎ立てる者たちをじろりと見渡すと、さらに語気を強めた。


「旅の扉を見たことがあるものは居るかの? お主らより遥かに長く生きて、あちこち彷徨っておる儂ですら、そうそうお目にかかるものではないわ!」


 英雄たるオルクスの言葉は強い説得力を持ち、場に多少の静寂をもたらした。

 だが、不満の声は完全には消えず、騎士団員たちの目には、失意と苛立ちが混じっている。

 ルミナリスもまた、場の空気を察し、冷静に言葉を投げかけた。


「皆さま、どうにかしたいお気持ちは理解できます。しかし、今ここに、大魔導の魔導士様はいません。騎士団の魔法騎士の方々か、魔法に造詣が深い剣士のオルクス様と、魔法使い見習いの私だけです。他に魔法に詳しい方は、この砦内にはいらっしゃいません」


 その声には、冷静ながらも強い響きがあり、皆を見据え、さらに言葉を続けた。


「この大陸をほぼ支配している帝国ですら、移動には高速の魔導機械を使用しています。この旅の扉がどれだけ特別なものであるかをご理解ください。」


 しかし、騎士団以外の兵士たちの中には足を踏み鳴らし、不満を顕す者もいた。彼らの心中には、絶望と怒りが渦巻き、収まりどころがない。皆、失くしたものが余りにも多く、疲労と不安が心を苛んでいるのだ。

 どんっと低く重い音が壁を揺らし、耳を打つ。ガイル・エストレインが大広間の壁を思い切り叩いたのだ。

 響く音に注意を引かれ、全員の視線が集まると、ガイルは静かに自慢の大剣を抜き、荒ぶる焔を帯びたその刃を高く掲げた。


「貴様らっ、それでも栄えあるマクシュハエル王国騎士団の生き残りか!」


 その声は怒りに満ち、兵士たちの心を震わせた。


「皆を思って散った者たちの思いを踏みにじり、生き残った同胞相手に鬱憤を晴らそうというのなら前へ出ろ。この俺が相手してやる!」


 ガイルの怒気に応えるように、その体から沸き起こる焔が大剣へとまとわりつき、炎の柱となって空気を震わせる。

 その姿はもはや人ではなく、焔の魔神そのものだった。彼の口元からは小さな焔が漏れ、騎士団員たちは恐れすら覚えるほどの迫力に気圧された。

 ガイル・エストレインは忠義に厚く、温情に溢れた男だ。

 その怒りはただ感情的なものではない。彼は帝国軍相手に、何度も味方を救い出してきた名高い騎士であり、何よりも仲間の絆と名誉を重んじる。


「我々は何のために生き残ったのか、何故生き残れたのかを、忘れるな!」


 ガイルの叫びは、兵士たちの胸に突き刺さる。


「旅の扉があろうとなかろうと、私たちは今ここにいる。それを使おうとする者たちを非難する暇があるならば、できることを考え、戦う準備を整えろ! それが嫌ならここから出て行け」


 焔をまとったその姿からさらに勢いよく焔が吹き上がり、大上段に剣を構えて、今にも振り下ろしそうな勢いだ。

 大広間には重苦しい沈黙だけが降りた。

 誰一人として口を開かず、ただ俯くばかりだ。


 その様子を見ていたルミナリスに、囁く声が躰の中から語りかける。


『・・・・・・が失われては—— 鎮めて—— 心を』


 沸き起こる謎の声に従い、場を見渡し、ルミナリスは、一歩前へと進み出た。

 疲れ切った兵士たち、怒りを露わにしていた騎士たちの一人ひとりの表情を見ながら、唇を開き、耳に心地よい澄んだ声で、歌を紡ぎだす。

 アルゲントルム人の死者を悼み送る古くからの歌—— 「祈りの唱」の静かで厳かな調べが、美しい歌声に乗ってその場を包み込む。


 〽ひさかたの蒼穹 天つ御魂みたまよ 手と手をとりていざ帰らん

 うつし世に繋がれし鎖を解き放ちて 天に帰りて

 星々のきらめきの中 永久とこしえに憩えよ


 風は御魂みたまを抱き 光は道を照らし

 優しき大地は安息を 麗しき水は溢れる癒しを 

 暖かき火は温もりを

 木々の緑は喜びを、寄り添う影は想いを運ぶ。

 風は息吹、光は願い――。 

 与えたもう 届けたもう 支えたもう


 思い人、その御魂みたまよ、痛みを忘れ清き姿で

 苦界を出でて、遥かなる蒼き天へと昇り帰りゆけ

 いざ 安らかに いざ 安らかに

 永久とこしえに憩えよ

 我ら、遺りし者の祈りと共に

 星々のきらめきの中 永久とこしえに憩えよ〽


 ルミナリスの歌声は、人々に降り注ぎ、全てを覆い、清めるかのようだった。

 声には静謐と力強さが宿り、その調べは深い悲しみを湛えながらも、どこか安らぎをもたらす響きがある。


 大広間に集まった者たちは次第に肩の力を抜き、荒れていた表情が和らいでいった。

 彼らの中には、そっと目を伏せ、胸の前で手を組み祈る者、或いは涙をこぼす者もいたが、その顔には最早怒りはなく、穏やかな表情の中、悲しみとそれを拭う癒しが広がっていた。


 ルミナリスは歌を終えると、目を閉じ、静かに頭を垂れた。その仕草はどこまでも優雅で、美しい。

 ガイルも、大剣をゆっくりと下ろし、その炎を静め深く息を吐き、低い声で呟いた。


「……逝きし者達へ、祈りを」


 片膝をついて跪き、剣を捧げて祈るガイルに、その場にいた騎士や兵士たちは同じように皆片膝をつき、祈った。

 親しき者達、今この場に居ない者達の姿を思い浮かべながら。

 静謐が場を包む中、オルクスが優しく微笑みながら呟く。


「このような時、剣は役立たずじゃ……ルミナ嬢、お主も—— 哀しいの」


 ルミナリスは、傷つきながらも他者を気遣うその姿に自身が感銘を受け、思考領域にどこか微かな尊敬のような念が混じっていることに気付いていない。

 人間種が持つ強さと弱さ、その複雑な感情の揺らぎが、大切なものを失うことが—— それがどういうことなのかを知っているという確信がある。

 何か経験があるのだ。領域に封じてある対象の記憶を、機能修復が完全にできた際には、再度検証することを決定していた。


次回「ベルセクオール、侵攻」 隠し砦にベルセクオール部隊の曲者たちが迫ります。


読んでいただき、ありがとうございます。

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