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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第5章 隠し砦 シルヴァ・カストラⅥ ~ 森の砦「シルヴァ・カストラ」

「——許してくれとは言わない。恨んでくれて構わない。罵ってくれていいんだ。……生命を僕は……僕は差し出せと言っているんだぞ。こんな酷いことを平然と頼む人でなしだぞ!」


 ガイルは静かにゆっくりと諭すように返事をした。


「思いあがるな、ランバート。この命は次の世代の未来を守るためにあり、それは十分に名誉なことだ。剣を振るう理由は、お前が決めたことではない。俺たちが決めたことで、何を為すかを決めるのは俺達だ。忘れるなよ」

~本文より

 旅の扉を抜けた先、三人は森の中にひっそりと隠された丘のように見える、森の砦『シルヴァ・カストラ』の前に立っていた。地面には苔と土が厚く覆いかぶさり、周囲には巨大な樹々が生い茂っている。まるで自然の中に包まれるようなこの場所は、長年の間、誰も訪れていないかのような静けさに包まれていた。

 しかし、ルミナリスたちが森に足を踏み入れた瞬間、静寂を破り樹々が次々と不気味に蠢き、地面を破って槍の穂先ほどもある棘を生やした蔦を伸ばして、四方八方から襲いかかってきた。


「皆、動くなよ」


 オルクスは鋭い声を発すると、彼の手が額の鉢鋼にはめ込まれた黒宝玉に触れ、囁くように詠唱する。


「森の大精霊、エヴェルディナよ……ネメリアの黒宝玉をもって、恩寵を希う」


 黒宝玉は薄く光を放ち、空気を震わせると、それに応えて、樹々の中から緑色に光る風が巻き起こる。

 光る風は渦を巻き、やがて半透明の美しい女性の姿となって、オルクスへ向けて慈愛のこもった微笑みを浮かべ、優しく抱きしめるとキスをして、そのまま消え去っていった。


 すると、地面を這っていた蔦は動きを止め、棘は次々と蕾となり美しい花弁を溢れ咲かせ、先程とは打って変わって、様々な鮮やかな色の花々が咲き乱れる架け橋となって、たおやかな香りを放ち、先へと進む道を示していた。


 ルミナリスはただ静かにその景色を見つめ、森の精霊王の力であることを解析していた。そして、消えた精霊の顔を、切なげに愛情と後悔が入り乱れた感情を隠せない視線で見つめていたオルクスとの—— 精霊との深い絆がもたらす力が、大いに作用した結果だろうと推論を帰結した。

 ランバートは魔法道具など何もない状態で、初めて精霊の姿を見て、驚きの色が濃く、しばらく言葉を失っていたが、祝福の状況を理解し、咲き誇る花々の美しさに目を細めていた。


 オルクスは振り返り、目の前の二人に照れくさそうに言った。


「まあ……その、なんじゃ。氏族精霊との契りは失っておるが、森の精霊はの、少しばかり甘やかしてくれるんじゃよ。そういうことじゃ・・・・・・それ以上は聞かんでくれ」


 三人が咲き乱れる花々の架け橋を進むと、赤胴色の鎧を身に着けた大柄の騎士が大剣を片手に駆け寄って来るのが見えた。騎士の鎧の胸の部分には、剣を咥えて金色の翼を広げ、焔を発している焔鳥の刃の紋章が刻まれている。


 駆け寄ってきた大柄の騎士は、ランバートを一瞥し、眼で合図するとオルクスとルミナリスに向かい大剣を抜いて正面に構えて捧げ、片膝をついた。


「生きて再びお目にかかることが出来て光栄です。オルクス師剣聖。これで百人力です。お初にお目にかかります、ソラデア様のご一族様。我が名はガイル・エストレイン、マクシュハエル王国『焔鳥の刃』騎士団を預かるものです。以後、お見知りおきを。シルヴァ・カストラは王国の皆様には常に開かれております。安心してご滞在ください」


「息災で何より。まずは再会を喜ぼうかの」


 オルクスは達観した笑顔を浮かべ、


「魔法使い見習いのルミナリスと申します」


 ルミナリスは、杖を両手で持って自分の額に押し当てる、魔法使い特有の挨拶を行った。

 ガイルはきびきびとした実直そうな表情で、言葉を交わしたあと、ランバートへ向くと穏やかに語りかけた。


「心配していたぞ、ランバート。元気そうで何よりだ。まずは奥で話をしよう」


 ガイル・エストレインの声は低く落ち着いていた。

 その言葉にランバートは一瞬表情を緩めたが、すぐにまた硬い顔つきに戻る。

 これは、頼みにくいことを頼む時にランバートがよく見せる表情だ—— ガイルには、それがよく分かっていた。


「……ガイル、その……頼みがあるんだ——」


 意を決してランバートが口を開く。だが、ガイルは軽く首を振り、彼を制した。


「ああ、後でゆっくり聞こう。その前に、オルクス様やルミナリス様、何よりお前に、見せておきたいものがある」


 三人はガイルの後に続き、砦の入り口から奥へと進む。シルヴァ・カストラの本分は地上ではなく地下にあった。複雑に設計された地下施設は、武器庫、王族の間、食料保管庫、水源を兼ねた脱出用の地下水路など、多機能を備えており、千人以上が立て籠もれるように設計されている。


 しかし、砦内の通路や部屋は避難民や傷ついた兵士たちで溢れ、雑然としていた。彼らの間には緊張と疲労が漂い、場所を埋め尽くす避難民たちはほとんどが戦えない者たちだった。


「見ての通りだ」


 ガイルの声には微かな苦味が混じっていた。


「王城が陥落したと聞いて、方針を変えた。ここを避難所として使うことにしたんだ。戦えない者たちは多い。許容人数も超えている。騎士団の家族も何人か避難している。私の妻と息子もだ」


 ガイルの真っ直ぐな視線を受け、ランバートは苦しそうに顔を歪めた。


「俺も含めて、騎士団は皆、最後まで戦い抜く覚悟はできている。だが……戦えない者たちがこれだけいる」


 ランバートは視線を伏せ、低く呟くように答えた。


「ああ……そうだな……」


 地下三層にある人のいない小部屋に辿り着くと、ガイルは三人を中に案内した。ランバートは緊張した様子で部屋の中央に立ち、言葉を探すように視線を彷徨わせていた。


「オルクス師と共に来たということは……希望の種をその手に持っているのか?」


 ガイルが真っ直ぐに問いかける。彼の眼には、確かな期待の光が宿っていた。

 ランバートは一瞬目を閉じ、小さく息を吐いた。


「……ああ、そうだ。だからこそ、ガイル……君に会うために、ここへ来たんだ」


「そうか……希望の種がある。そしてそれは何時か花開くだろう。それを聞けただけで十分だ」


 ガイルの声には、騎士団長としての揺るぎない決意が込められていた。


「ガイル……」


 ランバートは掠れた声で呟きながら、拳を強く握り締めた。

 途切れ途切れに言葉を紡ぐランバートの肩を、ガイルは軽く叩いた。そして穏やかに微笑む。


「ああ、わかっているさ。いいぞ」


 その微笑みは、すべてを理解した上で浮かべていた。


「我ら焔鳥の刃は王家の剣だ。役割を果たす時が来た—— そういうことだろう。武人として、騎士として、これほど誇らしいことはない。ただ、戦えない者達を巻き込むことは出来ない。逃がす算段を間違いなくしっかりと頼む」


 ランバートは俯き加減で聞いていたが、とうとう耐えられなくなり、ガイルを正面から見据えて、叫ぶように告げた。


「——許してくれとは言わない。恨んでくれて構わない。罵ってくれていいんだ。……生命を僕は……僕は差し出せと言っているんだぞ。こんな酷いことを平然と頼む人でなしだぞ!」


 ガイルは静かにゆっくりと諭すように返事をした。


「思いあがるな、ランバート。この命は次の世代の未来を守るためにあり、それは十分に名誉なことだ。剣を振るう理由は、お前が決めたことではない。俺たちが決めたことで、何を為すかを決めるのは俺達だ。忘れるなよ」


 視線を落としたままのランバートに、明るく語りかけるガイル。

 二人の姿をその有り様を、ルミナリスとオルクスは一言も発さず、見守っていた。ガイルの強い決意、ランバートの葛藤、そして二人の間に漂う深い信頼。そこには、言葉にできぬ重みがあった。

 ルミナリスの思考領域は、それらを即座に解析しようとしていたが、何故か乱れが混じり、正確な推論を妨げていた。その原因は、ルミナリスの中に芽生えた〝何か“であり、思考領域の精査と故障個所を照合するが、明快な回答がでない。


 ランバートが紡ごうとする言葉の裏に潜む苦悩。ガイルの揺るぎない忠誠と覚悟。それらすべてが、ルミナリスの中で新たな問いを生んでいた。

 彼らは、生存という生物固有の根本原理を、どのように捉えているのだろう。

 何が彼らにここまでの決意を与えているのだろう?

 論理的思考を思考領域に走らせるが、回答は演算できないでいる。


 人間という種族は……時に自らを押し殺し、他者のために命を賭ける。それは理解し難いものだ。だが、そこにこそ彼らの強さもあるのかもしれない。


 ルミナリスは推論の帰結に疑問を残したまま書き込んでいた。


ガイルとランバートそして焔鳥の刃騎士団……そこに迫る帝国の追跡部隊の話はこの後です。


ここまで読んで下さり、大変うれしく思います。

少しでも楽しんでもらえるよう、しっかりと書き続けて参ります。

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