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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第4章 追うものと追われる者Ⅵ ~間諜と古の賢者の言

 本文より抜粋

 ルミナリスは百眼で情報分析を行いながら、並列思考を走らせ演算し、フレイヤの体内に生じている七つの魔力だまりの場所を正確に捉えていた。杖から流れる魔力の帯で真っ直ぐに魔力だまりの中心を貫いている。


「フレイヤ様の暴走魔力だまりの核の全てを完全補足。干渉開始」


 魔力だまりが七つの球状となって体内を巡っている。

 魔法の杖から伸ばしていた魔力の帯がその球に絡めとられそうになり、一部を吸収されてしまった。

 その瞬間、フレイヤの獣魔化が進行し、封印石を握る手が黒い毛に覆われ強く悍ましく変化し、フレイヤは苦悶の表情を浮かべた。

 マクシュハエル王国の近衛兵副指揮官ランバートはようやく起き上がることが出来るようになり、自分の面倒を何とか見るくらいに回復していた。

 自分が置かれている場所や状況など確認しないとすっきりしない性分らしく、今日も杖を共連れに一人、城塞のそこここを歩き回っていた。

 小石を城壁に投げつけてみたり、雨上がりの小径に出来ているぬかるみに、杖を差し込んでみたり、廊下や城壁の上など、様々なところで変な叫び声をあげてみたり、首をかしげるような動きを繰り返している。

 ただ、その動きを見かけていた生き残りの近衛兵たちは、いつもの通りというような顔をしているので、今に始まったことではなさそうではある。

 今日も通路や道々のあちらこちらに、二つ重ねて置いておいた小石の様子を確認して回っていたのだが、蹴とばされたような、乱れている場所を発見した。


「あれ、これはもしかして・・・・・・」


 ランバートは飛ばされている小石を拾うと、その方向へ足を進めた。

 何やら言い争いの声が聞こえてくるので、陰に身を潜めて耳をたて様子を伺っていると、


「必ずややり遂げる、任せておけっ。フレイヤ殿、今少し耐え忍べよっ」


 厳しい様子のオルクスの声が耳に入った。

 続いてフレイヤの震えながらの叫び声も聴こえてくる。


「長くは持ちません。獣魔になりきる前に早く滅して下さいませ」


 尋常ならざる様相に、慌てて動きにくい躰を無理に動かし覗き込むと、ルルリアを拘束していた魔法の光が解け、体の自由を取り戻そうとしているところであった。

 瞬間に状況を察知したランバートは、息を大きく吸い込み叫んだ。


「星々の輝きは、我らに自らの運命を握る力を与えん。天意は自らの行動に宿りて、その価値を魂に問う。選べ、己が運命を自らの手で」 


 声の限りに叫んで、ランバートはむせ返り、意識を失いかけたが、何とか意識を保ち踏み留まって、ルルリアを眺めていた。


 自分が意識もうろうとして死ぬか生きるかの時、懸命に世話をしていてくれた彼女の姿を覚えている。

 誰かに信用させるために見せつけでやっていたのではない、心のこもった看病であった。

 躰が激しい痛みに襲われ、声にならない悲鳴を上げていた時、ルルリアは冷たくて心地よい布で優しく顔を拭いてくれ、


「痛みや苦しみを知らずに済むのは幸いである。しかし、痛みや苦しみを知る者は、真の理を知る道に至る。痛みや苦しみは無限には続かず、と言うではないですか。早く元気になってこの話が本当なのか教えてくださいな、兵隊さん」


 とかけてくれた言葉が、大いに励みになったのは事実だ。

 この言葉は誰もが知る大賢者カイロスの言葉で、先ほど叫んだ言葉も同じ大賢者の言葉だ。ランバートは状況を見て取り年若いこの侍女を助けてやりたいと願った。

 英雄オルクスが噂に聞く能力の千分の一、いや万分の一だったとしても、ルルリアの若き命は散らされることになる。

 彼女が助かるには自らが役に立つ人間だとオルクスに証明するしか道はない。

 祈るような気持ちで声を限りに叫んだ。


 ルルリアは拘束されているときから、四方八方に目を配り、逃げ出す経路を算定していた。英雄オルクスと優秀な魔法使いの二人組から逃げ切れるとは到底思えないが、僅かでも可能性のあるところを考えていたところに、突如逃げ出す好機が訪れた。

 千載一遇のこの機会を逃すわけにはいかない。

 すぐさま走り出そうとした丁度その時、「——選べ、己が運命を自らの手で」と叫ぶ声が聴こえてきた。

 言葉が重く自分の心に突き刺さり、ルルリアは小さく舌打ちをすると同時に、太ももの付け根に隠し持っている小瓶を一本ずつ、右と左から抜き取り、すぐさま全力でフレイヤへと駆け出していた。


「変身抑制と浄化解呪の薬です。避けないでっ」


 身構えて投擲しようとしたが、オルクスが軌道上を塞いでいて邪魔だ。


「オルクス様っ、ゴメンっ」


 ルルリアはそう言いながらオルクスを踏み台にし、宙に舞い、狙いも確かにフレイヤの顔にめがけて小瓶を投げつけた。同時に小さな魔法陣が浮かび上がり薬液が混合しながらフレイヤの顔に霧状に降り注ぐ。

 フレイヤは疑いもせず大きく吸い込み、瞬間、魔力だまりも体の変化も動きの全てが止まった。

 オルクスは当然のようにその機会を逃さず、正確に封印石に魔法陣を刻み魔力の容量を上底上げする。

 魔法陣が封印石に展開しきらりと輝くと同時に、勢いよくフレイヤの躰から魔力を吸い取り始める。


「ぐっ・・・・・・」


 傍に居すぎたルルリアが少ない魔力を生命力ごと巻き込まれて吸われ始め、生命の危機を迎え苦悶の表情を浮かべていた。

 すかさず、オルクスがルルリアを荷物のように肩に抱えると瞬きの間に距離を取って、


「取り敢えずは良し」


 とルルリアに目配せして地面に下すとフレイヤを見るように促した。

 ルミナリスは百眼で情報分析を行いながら、並列思考を走らせ演算し、フレイヤの体内に生じている七つの魔力だまりの場所を正確に捉えていた。杖から流れる魔力の帯で真っ直ぐに魔力だまりの中心を貫いている。


「フレイヤ様の暴走魔力だまりの核の全てを完全補足。干渉開始」


 魔力だまりが七つの球状となって体内を巡っている。

 魔法の杖から伸ばしていた魔力の帯がその球に絡めとられそうになり、一部を吸収されてしまった。

 その瞬間、フレイヤの獣魔化が進行し、封印石を握る手が黒い毛に覆われ強く悍ましく変化し、フレイヤは苦悶の表情を浮かべた。


「獣魔化の進行を確認。吸収されないよう魔力収束を強化します」


 ルミナリスは体内の浄玻璃結晶の魔力を搔き集め、魔法の帯が吸収されないように更に強化した。

 そうして、フレイヤの魔力だまりを少しずつ封印石へと移行していく。

 フレイヤの躰を蝕み暴れていた魔力が徐々に薄れていき、獣魔化していた部分が人の肌人の姿へと戻ってゆく。


「過剰魔力の排除、成功。魔力だまりの最小化と鎮静化を開始・・・・・・成功。一部同調魔力を調整できず・・・・・・最小化成功、鎮静化は一部失敗、成功率八割・・・・・・獣魔化について阻止・・・・・・概ね成功」


 ルミナリスは、フレイヤの体内に流れる魔力の動きが通常に近い状態に戻ったことを認識すると、


「・・・・・・作戦完了・・・・・・機能行使による過大負荷の為、可動域の魔力備蓄が大幅に低減・・・・・・人間擬態の機能維持の為、覚醒状態を強制終了します。擬態活動を維持しつつ、睡眠状態へ移行・・・・・・」


 小さくつぶやいた後、杖を片手によろめいた。

 助けようと駆け寄るオルクスに、止まるように促すと


「・・・・・・申し訳ありません。魔力が枯渇しかけています・・・・・・このまま防御結界を張って倒れますので、そのまま捨ておいてください」

 

 と告げて、地にうつ伏せに倒れると同時に体の周りに魔導蟲を使い防御結界で体を覆った。見た目、体温呼吸など人間への擬態はしてはいるが、重量や躰を探られることにより魔導機兵であると正体を暴かれると困る。その為の措置であった。


 フレイヤを助けるため魔導結晶の蓄積魔力を、限界まで使ったルミナリスは、活動の源である魔力が枯渇し、そのままの機能維持が出来ない。

 活動を人間種の生体擬態部分のみに限定し、寄せ集めの浄玻璃結晶の回路にエーテルが充填され活動可能になるまで動きたくても動けない。

 呼吸に似せた吸引機能で徐々にためていくしか方法はない。

 思考回路もごく一部を残して活動を停止していた。

 消費を抑えてなるべく早く充填を終わらせるための当然の処置である。

 倒れ込む際に誰かが自分を呼ぶ声と何かの詠唱が聴こえたような気がした。


『フィリア・・・・・・貴女は私が守るカラ・・・・・・安心シテ・・・・・・我が導き手ヨ。我の願イと誓いニヨル約定ヲ果たし賜え・・・・・・エレット・ハハイム・シレンシオ, マドリカティ. ハガシミ・エット・ブリット・ネドレティ・ウヴァカシャティ』


 聴覚機能も制限をかけているのに詠唱が聞こえているという現象は不可解だ。

 維持機能は警告を発しながらも、魔力不足により各機能を発動できない。


 オルクスは地に伏したルミナリスをすぐさま助けようと走り寄った時、その行動を諫めるかのように、天空から一条の光が足元へと差し込む。

 ピタリと足を止め、オルクスは感心した様子で空を見上げた。


「これは久方ぶりに見た。オルハゼル・・・・・・神々の天啓が為されるとはの」


 オルクスの言葉を待っていたかのように、地面に射した光の中から、輝く芽が伸び始めたかと思うと、宝石のように輝く花弁を持つ伝説の花アマトリスフローラが、一条の光の中に一輪見事に咲き誇る。深く燃えるような紅玉色から輝く金色へと移ろいゆくまばゆい花弁は、生命の全てを支える女神の天啓だといわれる幻の花だ。


「生命の女神シレンシオの祝福の花・・・・・ルミナリスは・・・・・・・・・・・・いや、違う」


 オルクスの緑の瞳はルミナリスの周りから幽かに立ち昇る霊気を捉えた。

 霊気はルミナリスを庇い守るように立ち昇っており、その霊気に幽かな神気が入り混じっている。


「魂の強い思いが魔法を編んで守護の霊気となっておるのか。死してもなお、女神の恩恵を授かりルミナリスを守る者よ。姿を見せてくれ。アシュラム、姿を顕す力を貸せ。エンシス・ケレブ」


 オルクスの命じるまま魔剣アシュラムがきらりと光を放った。

 その光は霊気を覆いその容を浮かび上がらせて、霊気は人の女性の容をとり、乙女の魔法使いの姿になっていく。


「お主を戦場で見たことが有る。ソラデアであったな」


 霊気の乙女の魔法使いは、生前と同様の姿で杖を身構えながら、何かを告げていた。

 しかし、声にはならずまた口元も良く見えず、何を伝えようとしているのかが分からない。

 オルクスは片膝をつき、深々と礼をとると剣を鞘に納め脇に置いて、優しく語りかける。


「ルミナリスは己をかけて何とか使命を果たそうとしておる。その使命を与えたのはお主か。生命の女神の天啓であれば、悪い事ではないのは分かるが・・・・・・死してもなお守るお主と、末期の願いだからこそ、己の全てをかけて叶えようとするルミナリス。どちらも純粋であるが故、哀しいのう。せめてお主たちに、束の間でも安息が訪れるように祈ろう」


 オルクスは目を閉じて祈った。

 伝説の花アマトリスフローラがその祈りを受けてまばゆく輝く光の粉を、花弁からルミナリスへと降り注がせる。光の粉はルミナリスが展開している防壁の結界を素通りし、その躰へ浸透していく。髪に顔に魔導機兵の装甲を通り抜け、躰の内部まで深く優しく。

 誰も気づけない密やかな秘跡だ。


 オルクスは、感慨深げに周りの皆に声をかける。


「結界が解けるまでこのままそっとしておくことにする。皆心配ではあるだろうが、生命の女神の守護がある故、大丈夫じゃ。このままで頼む」


 とわざわざ念を押すと、優しい目線でルミナリスへ言葉を贈った。


「これはお主の手柄じゃよ、ルミナ嬢。あの様子を見られないのは残念じゃな」


 ルルリアがフレイヤに対して、最大の謝意と共に短剣を捧げ持って返却しようとして、フレイヤがそれを断り、いつものように毅然とした雰囲気を漂わせながらも、顔に笑顔を浮かべながら短剣をルルリアに握らせる。ルルリアはバツが悪そうに剣を受け取り、改めて謝罪を伝えていた。

 ランバートはその様子を確認し、安堵の息を大きく吐くとへたり込んで、ルミナリスと同じように気を失い、オルクスはやれやれといった表情を浮かべながらもどこか楽しそうに、ランバートの許へ足を進め始めた。


次回、ルミナリスたちを追う帝国追跡急襲部隊たちの姿が描かれます。


ここまで読んでいただき有難うございます。

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