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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第4章 追うものと追われる者Ⅳ ~ エルフの大剣士の独白 王国とのエニシ

 儂は、麗しのネメリアに剣を突き立てた時のあの感触は忘れたことはない。

 ネメリアは自らに剣を突き立てる儂を見てな、笑顔を浮かべ、優しく抱きしめただけじゃった。甘やかに、ただ優しく抱きしめたんじゃ。


本文 独白の一部

 暖炉の炎がゆらりと揺れ、赤子の頬に柔らかな光を落としていた。

 オルクスは静かにその寝顔を覗き込み、胸の奥に長い年月を経た鈍い痛みが蘇るのを抑えきれずにいた。


「名も持たぬ王子よ……そのままでは困るでな。お主に名を与えよう。今日からお主の名はエライデンじゃ。わしの良き友の名よ。王国の誇りじゃった男じゃ」


 囁きながら、オルクスは小さな魔法石板を、守護の神玉の光に包まれた揺り籠へそっと滑り込ませた。


 それは手記――

 八百年を生きた老エルフの、罪と悔恨と救いを記した独白であった。



 儂の名はオルクス・フルミニス。じじいのエルフの剣士じゃ。

 もうすぐ八百歳を超えようかという、とんがり耳の髭の爺の独り言じゃ。気軽に読み飛ばしてくれ。儂が若々しい青年かはたまた美しき女性であれば面白く読めたろうに、済まぬの。

 儂らエルフ族は精霊の祝福により、体内と魂に精霊の力を宿し、病気にかかりにくく怪我も治りやすい。体力もあり身体頑健で、古から蓄えられた知恵や知識を伝承し、体に巡る魔力を使い魔法に長じ、洗練された武具の精製を得意とする種族で、他種族に比べて長命でもある。

 これらの呪いにも似た祝福のおかげで、自分たちは選ばれしものだと勘違いする者も多くてな。自分たちのことさえ良ければ外の世界などどうでも良く、他者の生き死に無頓着な身も心も浮世離れした、問題を多く抱えている種族じゃよ。


 そんなエルフ族の儂が、人間種の王国に手を貸すことになった理由くらいは書いておかぬとな。ちと長い昔話になるが飽きずに読んでくれ。

 年甲斐もなく何故剣を振るうのか、理由くらいは書き残さんとただの戦闘狂じゃと思われてもこまるからの。


 儂が生を受けたのはエルフリアというエルフばかりの国でな。それぞれが違う大精霊の祝福を受けた七霊氏族という氏族が、その祝福による恩恵をもって役割を与えられ国を治め、それを何代にも渡って繰り返しておる国であった。

 儂はな。そんなエルフリアの中でも、子供のころから変わり者で鼻つまみ者よ。何せ大事な慣例や風習とやらを無視しておったからの。

 幼い頃より外の世界を見たいという思いを隠すことなく、自分の心に従っておった。

 あの国に生きる傲慢なもの達、自分たちの周りが、自分の国のみが世界の全てのエルフ族にとって、外の世界に目を向けようなどというものは異端者でしかないのじゃ。

 儂の出自であるフルミニス氏族は歌い舞を踊り、大精霊と自然に感謝をささげ、エルフリアの民と大精霊と自然の結び付きを強め、国の内政などを担当する氏族だが、儂は子供のころから、あちこちに出て遊んでおった。禁じられた地も含めてな、好奇心は止められなかったのじゃ。


 そして出会ってしもうた。美しきネメリアに。優しくてたおやかな麗しのネメリアに。

 あれほどに誰かに恋焦がれたことは未だにない。最初で最後じゃな。

 今だから言えるが、一目ぼれじゃったよ。

 精霊の祝福をその身に宿す精霊の愛し子で、彼女の歌や舞には魔力がこう、煌めいていてな、ただでさえ美しい上に気立ての良さが相まって、それが表情に表れておるのじゃ。もう、見とれてしもうたわ。


 人間の父親とエルフの女性との間に生まれたハーフエルフという事もあり、色々大変な思いをしていたんじゃろう。

 同じく、エルフの鼻つまみものの小僧とすぐさま意気投合し、恋に落ちた。夢見がちな何も知らない小娘と鼻つまみ者の変わり者小僧の出会いじゃ。

 出会ってからしばらくは楽しい日々を過ごしておった。儂の生の中で唯一無二の輝きを放っておる夢のような日々じゃったよ。


 しかしな、どうしようもない魂を引き裂くかのような悲劇が待ち受けておった。

 自らが至高であり、他種族を見下す傾向が強い、誇り高き御身分の自尊心しかないエルフ共の、命を命とも思わぬ高慢さが引き起こした悲劇がじゃ。


 他の種族と交わるなど大精霊への冒涜に等しい行為であり、まして、混血の子供など存在する筈のないもの。そんなことを本気で考える愚かな馬鹿者が、ネメリアを色欲に塗れた人間にあてがい襲わせて、僅かな金銭で厄介払いを仕掛けよった。

 あの時、儂はまだ若く、戦う術をあまりにも知らず、ネメリア守り切れずに大怪我をしてな。ネメリアの母御は目の前でいたぶられ惨たらしく殺されたんじゃよ。

 ああ、あの時、それは惨い有様じゃった。六百年以上も前の話じゃが、忘れることなぞない。

 儂はな。愛する者をこの手に掛けた。その時に零れた魂の記憶が今もこびりついておる。



 甲高い音が辺りに鳴り響いたと思いきや、全てが凍り付いたように止まった。

 ネメリアはさんざん殴られた痛みや、魔封の枷による魔力乱れの躰を引き裂くような苦痛まで止まって顔を上げた。自分の上に覆いかぶさっている狂った豚のような顔をした醜い人間の男の息遣いさえ、凍り付いて止まっている。

 自分の躰は動かすことは出来ないが、辺りを見渡すことはできた。

 深々と槍で胸を貫かれて壁に縫い付けられたままの、絶命している母の姿を改めてとらえたが、取り乱すこともなく不思議と穏やかな気持ちで見つめていた。


 惨めな私の姿を見せずに済む。その思いが先に立っていた。

 もう苦しまなくていいの。かあさま。御免ね。私ももうすぐしたらそちらに行くね。


 更に辺りに目を配ると、自分に覆いかぶさっている男の背中越しに、愛おしいオルクスの血まみれの右手が見えた。

 自分を守ろうとして、暴漢の兇刃に貫かれて倒れたオルクス。


 私の人生に彩をくれた愛おしい人。あなたと生きていきたかった・・・・・・。

 御免なさい。御免なさい。私なんかと知り合わなければ—— あなたはこんなことにならずに済んだのに。本当に御免なさい。

 大精霊様。お願いです。ここにいる罪人全てに、等しく罰をお与えください。このことを引き起こしたもの全ての罪人が罰を受けますようにお願い致します。

 あの人が、母様が、魂の安らぎを少しでも得られるよう、お願い致します。


 ネメリアが心の底からそう願うと耳元に声が聞こえた。

 礼儀正しくて甘やかな男性の声だ。


「お嬢様。お困りのようですね。愚かもの共により引き起こされたこの惨状、お悔やみ申し上げます」


 声のする方を見てみると、手のひらほどの大きさの貴族のようなきらびやかな正装をした小人の黒髪の青年が、恭しくお辞儀をしていた。


「私は、マラキ・バール・ゼバオットと申します。お嬢様がお望みであれば、色々とお手伝いをさせていただきます」


「貴方様は精霊様でしょうか?」


 小人の男性は蔭の有る美しく端正な顔を静かに横に振った。ハッとするほどの色黒の美男子の顔が静かに微笑んでいる。


「精霊などという力を貸すのか貸さないのかわからない、あやふやな存在などではなく、私はお嬢様のような大変な思いをされた方に細やかなお手伝いをして、その願いを確実にかなえる悪魔でございます。もちろん代償は頂きますが・・・・・・」


「悪魔・・・・・・」


 ネメリアは自分の上に覆いかぶさっている醜い表情の男を睨んで、


「私にとって、悪魔はこの者達です。この者たちは私の全てを奪いました。私の心さえ壊して、私の全てを奪った悪魔です。この者達を罰せるのであれば、私の全てを捧げます」


 と悲痛な叫びをあげた。

 ネメリアの叫びとその言葉に反応するように、ネメリアに宿る精霊が姿を顕そうと光を放ち始めた。

 破邪の光を放ちながら神々しい姿を顕そうとしたその時、ゼバオットは端正な顔に冷たい笑いを浮かべて、


「愚か者め。試練などと無粋な真似をするからこうなるのだ。それに、私を下級悪魔と勘違いしていないか?」


 ぱちんと指を鳴らすと蒼い炎を渦巻かせ精霊を焼いて霧散させ、再び仰々しくお辞儀をした。


「お嬢様、役に立たない精霊に代わり、このマラキが必ずお嬢様のお力となります。その手付をまずはご覧ください」


 ゼバオットが指し示すと、倒れていたオルクスの右手がピクリと動いた。体から流れていた血が体内へと戻り、呼吸を始めると、顔を動かしうっすらと目を開ける。


「お嬢様と愛おしいお方は最早結ばれない運命と相成りましたが、せめてもの贈り物です。貴女様の愛おしいお方は生命を取り戻し、これから先も元通りに元気に生きてゆかれます。如何ですか?」


「ああ、オルクス、オルクス、オルクス。あなたさえ無事ならば・・・・・・私は私は—— ゼバオット様、必ずあの人を、オルクスをお救い下さい。そして罪人たちに天罰をっ。私が差し出せるものなら何でも差し上げます」


「承りました。契約を違えることなど決してございませんので、ご安心ください。最後に一つお伺いいたします。罰は私が行いますか? それともお嬢様が行いますか? お嬢様が手ずから行うのなら、しっかりとご助力差し上げますし、敵を打ち倒す強大な力を差し上げますので、ご心配は無用でございます。如何致しましょう?」


「私がこの手で行います。あいつらをっ、こんなことをした奴らを、許すものかぁぁぁっ」


 凄まじい憎悪の叫び声と共に、黒い瘴気が立ち昇り炎のようにネメリアを包み込み、凍り付いた時間が動き出す。


「これで、精霊の愛し子は我が手に落ちた。運命がまた一つ書き換わる」


 ゼバオットは愉悦の表情を浮かべると、黒い炎で燃え上がっているネメリアに歩み寄り、人間の大きさになると、左手に恭しく口づけをした。


「お嬢様。お目覚めの時間でございます。ごゆるりとご自身で甘美な復讐をご堪能下さい」


 そう言い残し、ゼバオットの姿は空気に溶けるように消えていった。

 途端にネメリアが異形の姿に、黒い大きな蔦と棘に覆われた姿に代わり、自分にのしかかっていた男の躰を三つに引き裂き、その血を浴びると狂ったような笑い声を上げた。

 辺りに響き渡るその声に木霊するように、その場にいた兵士や男たちの悲鳴が重なっていく。



 儂は深手を負っていたはずなのだが、気が付いたら傷一つなく、燃え盛るネメリアの家の外の大樹の陰に横たわっておった。

 何も知らん儂は、辺りを必死に探しまわったのじゃが、花々にくるまれた母御の亡骸しか見つけられなんだ。


 その時既にネメリアは—— 復讐を誓う黒い魔女となっておったのじゃ。


 哀れなるネメリアよ。エルフリアの傲慢と人間の欲望に呪われたハーフエルフ。

 これを読んでいる者たちには、〝災厄の樹魔の黒魔女″と言えば判りやすかろうか。

 沢山の無辜の人間達をためらうことなくその手にかけ、多くの魂を刈り取って呪いの力に変え、大精霊ごとエルフリアを滅ぼそうとしたあのお話にある魔女じゃよ。


 ネメリアがしたことは、悪いことをした子供たちに語られる怖い魔女の話の、何百倍も凄惨で恐ろしいものじゃった。何せ蒼の奔流の大河が朱に染まって、水の大精霊が涙したくらいじゃ。


 儂があの伝説の〝樹魔の黒魔女″と恋仲だったのは、意外かの?

 ついでに言っておくが、儂の額の鉢金飾りの黒い宝玉はその黒魔女の形見じゃぞ。

 どうじゃ、軽蔑したかの? あの災厄の黒魔女は儂の想い人じゃ。


 ここにいるのは、惚れておった女子一人すら守り切れず、救うどころかこの手で倒すために魔剣を手に入れ、ついには手にかけるという—— 愚かしくも情けの無い後悔を抱えた男のなれの果てじゃ。

 儂は、麗しのネメリアに剣を突き立てた時のあの感触は忘れたことはない。

 ネメリアは自らに剣を突き立てる儂を見てな、笑顔を浮かべ、優しく抱きしめただけじゃった。甘やかに、ただ優しく抱きしめたんじゃ。

 せめてもの救いはの。魂だけは、森の精霊王が呪いの力を断ち切って精霊界へと連れ立ったことじゃ。

 ネメリアの亡骸は燃え尽きて、残ったのはこの黒宝珠だけじゃった。

 儂はな・・・・・・あの時、自分の魂も共に殺した。


 そうして抜け殻のような儂は英雄と呼ばれてしまうようになったんじゃよ。

 災厄の魔女を討ち取り、王国やエルフリアの人々に沢山の賛辞を贈られたが、全てが空虚じゃった。

 儂は、生きる意味を見失って流離っておった。

 魔剣の呪いで自らの命は絶てぬ。

 ならば、と自分を終わらせるために強いものと戦い続け、死ぬことばかりを求めたのじゃ。じゃが、魔剣が存外強くてな、結果おめおめと生きながらえておった。

 しかも、皮肉なことに生き残れば生き残るほど魔剣の力は増し、儂も強くなっていく。


 ある時、どこぞの阿呆な魔術師の呪いで手が付けられなくなった巨鬼を斃し、縛られておった犠牲者の魂を解放した時に、村の人々に思いの外深く感謝されてしもうてな。

 死ぬるために強敵と戦っておるのに、感謝されてはかなわぬとまで思って、感謝をささげる人々相手に、無愛想に悪態をついてその場を離れようとした時じゃ。


 娘と孫の魂の解放を見た婆様が、儂をひっぱたいてから、抱きしめてくれての。

 お主も大変じゃったな、ありがとうな と何度も何度も耳元で囁いてくれたんじゃ。

 その時、何故かはわからぬが、儂は泣いておった。何故だかわからぬが人目もはばからず大声で泣いておったんじゃ。


 それからは、どうせ死ぬなら誰かのために死ぬるか・・・・・・と思い剣を振った。

 そうしているうちに、あの男・・・・・・後に英雄王と讃えられたマクシュハエル王国の第二王子エライデンと出会った。

 奴は面白い男でな。神々の呪いを精霊の祝福で打ち消して、魔竜との絶望的な戦いを舌先三寸で切り抜けた変わり者の知恵者。心根は高潔じゃが、頭の回る詐欺師のような男じゃった。

 高々二十数年しか生きておらぬ小僧に、学ぶことが多かったのは僥倖じゃよ。

 やるべきことはまだまだあると、行動で教えてくれたんじゃ。

 そうして、儂はエライデンが戴冠するとき、誓ったのじゃ。

 お主の国が道を外さず、民草を安寧へと導くのであれば、危急の折にはわが剣をお主の国の為に振るうとな。

 実際に、数十年の間に次から次へと問題ばかりを起こして、その度に剣を振るっておった。

 そうしたら、守護の剣聖などと大仰な呼び名を儂につけよったのじゃ。


 儂ももう年じゃ。往年のころには遠く及ばず、そろそろアシュラムに喰われる年頃かと覚悟していたところに、帝国との大いくさが始まり、今、最後の王太子と共におる。

 爺の最後の仕事が王国の再建とは荷が少しばかり重いと思うとるよ。

 まあ、大精霊の導きは当の昔に失くしておるから、どこまでやれるか分からん。

 儂は額の黒宝玉と魔剣アシュラムを共連れに、王国を助ける。

 マクシュハエルの再興などという帝国を敵にバカげたことを本気で考え、やることになろうとは長生きはしてみるものかの。 

 好きな女子一人救えなかった爺が、命果てるまでにどこまでやれるか。

 ああ、儂の場合、魔剣に喰われるまでじゃったな。訂正しておこう。


次回は秘密の城塞内で王国の影の秘密が浮かび、緊迫の事態が起こります。


ここまで読んで下さりありがとうございます。本文含めて現在リライト中です。読み進めて頂いて感謝に絶えません。

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