第3章 魂壊の森踏破行Ⅱ ~アルゲントルムの秘術
魂壊の森を進む一行。古代の大魔導の秘儀に驚きながら先へと進む。
魂壊の森の道行を指し示している石柱を、ルミナリスは注意を払い分析していた。
石柱が放つ光は、神聖魔法を基盤とした強力な魔力波だった。
その内部には、人間種でありながら魔法を得意とするアルゲントルム人が秘宝秘術として造り上げた、浄玻璃の結晶石で作られた楔が打ち込まれている。
楔は石板に込められた魔力波に反応して起動し、刻まれた魔導式に従って神聖魔法を発動、道を開く仕組みだ。
浄玻璃の結晶石は、そもそもエーテルそのものが結晶化した魔晶石から造られる。
だからこそ魔法との親和性が高く、エーテルを良く取り込み、制御する力に優れている。
簡単に物質化することがない魔法素子のエーテルが気の遠くなる年月、一定条件がそろって魔晶石となり、その魔晶石内部に神聖魔法で魔法式の刻印を行なっている。
刻印を可能にするだけでも途轍もない魔力と時間が必要で、この森以外ではそうそう出会えるものではない。
エーテルが高濃度で垂れ込めているからこそ、浄玻璃結晶をこれだけふんだんに使い、石板が近づくと自動で発現する仕組みをくみ上げたのだ。
どれほどの期間、どれほどの人材と費用を要したのか。
「いやはや、昔の王国は豪儀じゃの。儂の知っておる時代の王国では、ここまで金はかけられんかったじゃろうな」
オルクスが目を丸くしてそう感心している。
ルミナリスは周辺をすぐさま探査し、問題がなさそうだと判断すると、一行が進むように促した。
「オルクス様。この先どのような魔獣が出るかが分かりません。先頭をお願いできますでしょうか? 私は殿を務めます」
「浄玻璃の力で守られているとはいえ、大昔のものじゃし、油断は出来ぬかの。まあ、魔物相手は儂の得意とする処じゃ。安心して任せてくれ」
「はい。私は後方から全体支援を心がけます」
オルクスは翡翠色に輝いている石板を受け取ると、地図と地図に浮かぶ光点をしげしげと眺めて
「ルミナ嬢。この魔導の仕組みは再現できるのかの?」
と尋ねると、ルミナリスはアルゲントルム人の魔法使いがよくやる返答で、杖を2回地に突いて、否 と答えた。
「そうか。なら、壊したり失くしたりせんように扱わんといかんな。ガサツな爺だが、大事にしよう。みな隊列を組んで進むぞ」
赤ん坊を抱いた侍女長をすぐ後ろに並ばせ、その後ろに侍女二人が続き、担架に結わえた重傷の兵士を運ぶ、二人の近衛兵と老齢と若い庭師の二人。
そのすぐ後ろで槍と帯剣した兵士を警戒要員とし、ルミナリスは数歩離れた最後尾を進みながら、結界魔法を全体に展開できるよう備えた隊列とした。
偵察用魔導機すら変質させるほどの異常な濃度のエーテルが渦巻き、行程も不明で、距離と方向しかわからない危険地帯を装備も人員も食料などの準備もなく、仕組みもわからない古代の魔法を頼りに踏破しようというのだから、何が起きても不思議ではない。
ルミナリスは赤の領域まで安全性を引き下げ、何を守り、誰を優先するかの演算を開始しながら、周囲の警戒と観察に思考機能の大部分を割いていた。
帝国の捜索部隊が、追跡してくる可能性は極めて高い。
痕跡をどう始末するかを考察しながら、周辺の状況を確認していると、太古の魔導の道が、一定の距離に離れると道を維持している浄玻璃の楔が光の粒子となり、エーテルの霧に飲み込まれて、閉じていく状況を見て取った。
「これは・・・・・・凄いのう」
オルクスも立ち止まりその様子を見て、感心していた。
「痕跡すら綺麗に片づけてくれるとはの。よう出来とる」
ルミナリスは、オルクスの言葉に深く頷き、肯定の意思を示して、杖を一回地面に突いて、
「帝国の追跡部隊も簡単には見つけられないでしょう。安心して先へ進んでください」
と、全員に聞こえるように声を掛けた。
ほんの少しばかり、希望の光が皆の瞳の中に浮かんでいる。
次回、ルミナリスの指摘通り、帝国の追跡部隊が後を追います。一癖も二癖もある面々が、ルミナリスとオルクス一行を執拗に追跡し始めます。
ここまで、読んで下さりありがとうございます。内容を少しでも面白く感じてもらえるよう、ベストを信じて取り組んで作品を作っておりますので、よろしくお願いします。




