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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第3章 魂壊の森踏破行Ⅰ ~魔法の霧

王都からどうにか脱出した一行は、禁断の地 魂壊の森 が唯一の逃げ道と知り、その足取りは重い。

ルミナリスが斥候を買って出て…… 困難な逃避行がはじまる。

 ルミナリスは、分析眼である〝百眼″を用いて、魂壊の森の現状の情報収集と記憶領域の情報を照合し、行程を検討していた。


 エーテルは森羅万象に干渉し続け、思いもよらない魔獣や妖霊を生み出す。

 さらには時間の流れや次元にまで干渉し、考えも及ばない危険が常に待ち構えている――そんな場所だ。

 立ち入った者が半日のはずが数十年経過していたり、踏み入れた者が全く違う砂漠へ放り出されたり、奇怪な魔物と変じたりなどの事象例はいくつも確認されている。


「皆さん、石板は真っ直ぐ魂壊の森へと道を示しています。魂壊の森を進まなければなりません」


 ルミナリスはそう告げると、魔法の杖から進行方向示す光を放つ。


「あの方向です」


 射した光は、霧のように立ち込めるエーテルに遮られ、かき消された。

 昼でも夜でも、一瞬たりとも気を抜くことが出来ない場所。

 勇猛で鍛え上げられた近衛兵ですら、魂壊の森に踏み入ると聞いて、眼には怯えの光が浮かんでいた。


 しかし、このまま進むしか助かる道は無い。

 帝国は地中型の重装甲魔導機兵インペリアルセクタが破壊されたことに間違いなく気付くし、そのことで調査探索を必ず行う。うかうかしていると発見され、捕らえられる。


 生存率はもともと低く、帝国から逃れ生き残るためには、現状では石板の指し示す方向へ進むことこそが、可能性が一番高い方法なのだ。

 今、帝国に捕らえられれば——

 魔導機兵でありながら人間の少女として稼働する、この異常な個体は、研究対象として細部まで解体される。

 その時点で、フィリア様を探し守るという指令は二度と達成できない。

 何としても、帝国に今の自分の存在を知られるわけにはいかない。


 帝国は死体の頭から情報を抜き出すという技術すら持ち合わせている。帝国がうろうろしている処で、勝手に死なれても困るのだ。

 なるべく早く進発しなければ。


 ルミナリスは進み出て、情報偵察を提案した。


「まずは私が様子を見ますので、皆様はその場でお待ちください」


「であれば、儂が最適じゃなかろうか?」


 オルクスが当然のように進み出てくる。


「いえ、最大戦力であるオルクス様はそのお力を温存していただく必要があります。それに私であれば、高濃度のエーテルにも侵されにくいと思われますので、私にお任せください」


 ルミナリスは魂壊の森の入口近くまで歩み寄ると、監視用魔導機『蟲』を放った。

 蟲は滑らかに飛行し、霧の帳を目指して進む。

 だが、高濃度のエーテルに触れた途端、動きがぴたりと止まった。


 樹にとまったまま沈黙した『蟲』の姿に、百眼の視界を重ねる。

 金属と晶石で組まれたはずの機体が、ゆっくりと歪んでいる。

 肉のようなものが芽吹き、節足が生え、機械と生物が混ざり合った異形へと変じていた。


「エーテル魔力暴走による生物化を確認。自己破壊命令送信」


 杖を構え、破壊命令を叩き込む。

 機械としての中枢はかろうじて応答し、白炎を噴き上げた。

 ぎぃ、ぎぃ、と生物めいた悲鳴を上げながら、『蟲』は一瞬で灰に変わる。


「変質状況の調査のため、破壊個体を採取し、検証を行います」


 ルミナリスは森の入口に杖を掲げ、防御結界を展開しつつ歩を進めた。

 霧が生き物のように渦を巻き、まとわりつく。

 結界の表面で、白い波紋が幾重にも揺れた、その時—— 。


 手にしていた石板に、淡い魔法陣が浮かび上がった。

 何ものも通さぬはずの結界を、霧はするりとすり抜け、そのまま魔法陣へ吸い込まれていく。

 エーテルを取り込んだ石板は、翡翠色の光を帯びて輝き始めた。


 ルミナリスが興味深く観察する前で、今度は石板から魔力干渉波が放たれる。

 先ほどまで白い壁となっていた霧が静かに割れ、樹々がみしみしと軋みながら、

 人ひとりが通れるほどの細い道を開いていった。


 道の両脇には、地面から石柱が芽吹くように伸び出し、順々に灯りをともす。

 淡い光の列が、森の奥へと続いていた。 

 オルクスはつかつかと歩み寄ると、できたばかりの道を珍し気に覗き込んでいた。


「ほう。これは驚いた。精霊魔法とも違うようじゃ。古えの大魔導といったところかの。これは見事じゃわい」


 と感心しながら、地面から伸びた石柱に手を伸ばす。

 すると、潜り蛇の一群が、待ち構えていたかのように地中から一斉に勢いよく飛び出し、オルクスを獲物と定め、強力な毒の牙を突き立てようと迫ってきた。

 群れで狩りをするこの毒蛇は、極めて探知されにくく、強力な毒で仕留めた後、獲物の体液を一滴残らず、集団であっと言う間にすすり尽くす、危険極まりない生き物の一つだ。

 しかし、オルクスは驚いた様子もなく、襲い掛かってきた蛇の全てを尽く素手で素早く捕まえると、傷つけることすらなくまとめて森の奥へ投げ入れていた。

 投げ入れた先では何やら獣の声と、何かが蠢く音が重なり、すぐに静かになった。


 皆、大魔導の道の出現と、間髪入れない魂壊の森の生き物の襲撃に言葉を無くし、それらに当然といった顔で対応している、オルクスとルミナリスを唖然とした表情で、見つめていた。


 ルミナリスはその様子を気にすることもなく、


「さあ、皆さん。道は示されました。奥へ進みましょう」


 と、明るく声をかけた。


 進む先は何が待ち構えるかが分からない、遥かなる古代、神々と巨人と神龍が争い、それらの存在が見捨てたと語り継がれる禁忌の領域である。

 古き魔導の道があるだけでも、まだまだましな方だ。


 道を示されたもの達は緊張の面持ちで行く先を黙って見つめていた。


次回、旅路の苦難に立ち向かう一行……ルミナリスとオルクスが支えとなって進む禁断の森の旅の様子を綴ります。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。読んでいただけることが大きな励みとなっています。

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