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機械少女の涙は蒼穹に還る ~メガリマギアの灯火  作者: しきもとえいき


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第2章 王都陥落Ⅳ ~共闘、ルミナリスとオルクス

ついに帝国地中用の魔導機兵が猛威をふるう。ルミナリスとオルクスは避難民を逃がすべく、共闘して相対するが——


 大きく口を開けた壁の穴から現れたのは、巨大な鋼鉄の芋虫のような、地中探索用魔導機兵だった。

 鈍色の金属で造られた丸みを帯びた巨体は、うねうねと滑らかに身をくねらせる。その装甲は鈍重だが頑丈で、前面には感知認識装置を集約した、昆虫の複眼じみた巨大な眼。その下に、びっしりと並ぶ触角のような岩砕砲が、魔力波をゆらりと放ちながら蠢いている。

 もっとも硬度の高い紅耀岩ですら容易に砕き、地中の障害を砂のように分解して突き進む—— その岩砕砲の威力に、ただの人間が抗う術はない。直接照射されたなら、影一つ残らず砕け散るだけだ。

 その岩砕砲が、一斉に蠢き、こちらへ狙いを定める。


 轟音が奔った。

 地を抉るような衝撃とともに、光の奔流が地下を白く照らす。


 ルミナリスは咄嗟に左手を掲げ、魔法鎧へ魔力を流し込んだ。

 眩い光の盾が花開くように展開し、岩砕砲の直撃を受け止める。


 ――だが、威力はあまりにも凄まじい。


 防御結界が一瞬きしみ、押し返す衝撃が全身を打った。

 背後の壁へと叩きつけられ、音共に硬い石に亀裂が走る。

 ルミナリスは左腕で受け身を取り、衝撃を逃がした。


 膝をつき、光の残滓のなかで姿勢を整える。

 視界が揺れ、色彩が一瞬、遠のいた。

 だが、侍女の悲鳴が、ルミナリスの〝意識“を現実へ引き戻す。


「皆さん、あの壁の向こうへっ! 早く!」


 声を張る。

 迷いも何もない、真っすぐなよく通る声だ。


 辺りを見回すと、視線の先では、オルクスがすでに赤子の籠を抱き、岩砕砲の射線を避けるように、軽やかに走り抜けていた。

 炎と水飛沫の間を縫い、獣のように軽やかな動きだった。


 ——囮を増やせば、逃げる時間は稼げる……合理的に考えればそうするだろう。

 その思考の刹那、オルクスの声が響いた。


「こっちだ! 命が惜しければ走れっ!」


 低く、鋭く、だが不思議な温かみのある声。

 恐怖に縫い付けられていた人々の足が、一斉に動き出した。


 ルミナリスは倒れていた兵士を抱き上げ、走りながら小石を投げ放つ。

 破裂音と共に霧のような光が広がり、空間を包み込んだ。


 光る霧が鋼鉄の芋虫——地中探索型魔導機兵の複眼を覆う。

 魔導機兵の行動を抑制する霧が、巨大な鋼の芋虫の動きを阻害する。


(索敵混乱。作戦成功、持続時間僅か)


 魔導機兵の触角が細かく震え、床が再び割れる。

 鈍重な巨体が這い進み、瓦礫を砕きながら生存者を追った。


 ——帝国は本気で王城の生き残りを抹殺しに来ている。

 将官機の機能停止命令は起動しない。

 ルミナリスは魔法の杖を握りしめ、冷静に呟く。


「王都からの脱出を最優先。機兵命令機能は破損中。排除を試行」


 杖の先に魔力波が凝縮し、青白い閃光が放たれた。

 だが、触角のエーテルの揺らぎが干渉し、屈折して消えた。


「攻撃効果なし。防衛離脱に専念します」


 ルミナリスは方向を変え、百眼で射線を予測しながら走っていた。

 床が震えるたび、奥で金属音の反響が迫ってくる。


 床や壁に振動と共に亀裂が増えていく。


 オルクスは赤子を抱いたまま魔剣を抜いた。


「アシュラムっ」


 広刃にきざまれた紋様が輝き、白金の火が刃に宿る。


「刻まれし力名は疾風——勇名は業焔、ヴェントゥフラメ!」


 剣から、炎が竜巻となって吹き荒れ、燃え立つ旋風が瓦礫を焼き尽くし、鋼鉄の巨体を包み込む。


 その背後で、ルミナリスも杖を掲げた。


「援助します」


 魔力の防壁を芋虫の周囲に展開し、炎の流れを逃がさぬよう制御する。

 轟々と燃え上がる焔が鋼鉄の巨大芋虫を包み込み、辺りを赤く染め、空気を灼いた。


 鋼鉄の芋虫の動きが——止まった。

 だが、見た目にも大きな破損はなさそうだ。


 ルミナリスとオルクスの視線が交わる。

 それだけで、次の行動が決まっていた。

 あれだけで斃せる敵ではないことを互いに理解している。時間は余りない。


「オルクス様、残りは私が。鍵を投げてください!」


「頼むっ!」


 投げられた宝珠を、ルミナリスは杖の魔力で受け止め、

 そのまま空中で二つに分けてそれぞれの台座へ飛ばした。


 翡翠の果実——魔法船が花弁を開き、光を放つ。

 内壁の魔法陣が淡く輝き、水路の方向へ動き出した。


「早く、乗って!」


 ルミナリスは侍女たちを振り分け、動けぬ兵士を結界で覆い、魔法船に押し込む。


「抱えていってください、今すぐ!」


 次々と花弁が展開し、水流が船を包み込んでいく。

 オルクスは大事に赤子を託し、剣を構えたまま背中越しに声を掛けた。


「やんごとなきお方だ。しかと頼んだ」


 花弁が閉じかけ、途中で止まった。

 このままでは水流に落下しない。

 オルクスは駆け寄り、剣を鋭く、軽々と振り抜いた。


 高い音と共に花弁が両断され、船は水流に乗り奈落へと滑り落ちていく。

 少しばかり安堵しながらも、強い魔力を剣に宿らせ、オルクスは備えていた。


次回は、水の中で魔獣と魔導機兵相手に苦闘するルミナリスとオルクスの章です。


ここまで、読んでくれて本当にありがとうございます。

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