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小さな焼き菓子短編小説集〜5分で甘く優しい世界〜  作者: 地野千塩


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涙とスノーボウル

 クリスマスイブといっても仕事だ。私、露崎香子は事務員とし、休憩室の掃除をしていた。


 正直、女だからやらされている業務だろう。家族経営らしい小規模な会社ではあるが、まあ、前の会社ではお局だって笑われていたから、いいんだ。今日は一段と寒く、雪も降りそうだが、クリスマスイブだしね。


 そして掃除が終わると仕事開始。最近は新しく若い派遣さんも入ってきたが、こんな田舎の会社に来るとは謎。名前は笛田美波というが、お肌も髪もツヤツヤ。特に肌は雪みたい。あぁ、おじさんっぽいこと考えちゃったけど、仕事ぶりは特に問題はない。


 そうして昼休み。休憩室には続々と社員たちが集まり、私は暖房やテレビをつけ、給湯器やウォーターサーバーの様子をチェック。どっちも問題なく動いていたが、今日はせっかくクリスマスイブだ。


 日頃の感謝もこめて、社員たちにクリスマスクッキーを配っていた。クッキー缶には、ラングドシャ、ディアマン、サブレ、アイスボックス、フロランタン、スノーボウルなど様々な種類が詰め込まれているが、あっという間に消えていく。特に女性陣にはフロランタンが人気みたい。すぐなくなった。


「笛田さんも、どうぞ。メリクリ!」


 フロランタン、もうなくなって申し訳ないと思いつつ、笛田さんにも配った。


 うん?


 コンビニのおにぎりとカップスープを食べていた笛田さん、露骨に目を丸くしていた。え、このクッキー缶、何か問題アリ?


 それともフロランタン、やっぱり食べたかった!?


「ごめんね。こっちのスノーボウルもおすすめ。粉砂糖がふわふわで雪みたいでしょ。あ、今日ってホワイトクリスマス? スノークリスマスだっけ?」


 なんて冗談を言ってたら、笛田さん、泣き始めてしまった。ボロボロと涙がこぼれ、メイクもグチャグチャ。


「え!?」


 意味がわからない。他の社員は「おばさんが若い子をいじめてる」と揶揄ってきたが、私はお局的行為はしていませんよね!?


 とりあえず、今は誰も使っていない応接室まで笛田さんを連れていき、落ち着かせた。なぜかちゃんとスノーボウルの包は持っていたけれど、フロランタンじゃなくても良かった?


「笛田さん、私、お局でしたか?」


 とりあえず、お局なのかどうか、謎は解いておかないと。


 それにしても社長の変な写真とか、先代社長の自費出版自伝本とか、社員旅行の沖縄土産シーサー人形とか置いてあって田舎くさいな、この応接室。


 そもそもZ世代の笛田さんが、こんな田舎の会社にわざわざ来たのか謎だ。派遣社員とはいえ。もしかして、わけアリ?


 笛田さん、鼻をかみながら、うなづく。目はウサギみたいに真っ赤になっていたけれど、前の会社で同性からいじめられていたらしい。いじめといっても、落書きや物を隠されることはなく、地味にメンタルにくるやつ。業務内容をわざと教えてくれなかったり、陰口、悪口、噂話、それに休憩時間、お菓子も外されていたそうだ。


「私だけなぜかお菓子、くれなかったんですよ」


 口を尖らせる笛田さん。


 これはしょうがない。この人、美人だもの。嫉妬されていたんだろうなぁ。女の世界あるある。


「だから、ちゃんと人扱いされて嬉しかった」


 泣いてるのに笑顔を見せる笛田さん。これは男性陣イチコロの顔じゃん。私でもきゅんとしちゃう。


「ま、スノーボウル食べたら? 私はお菓子外しなんてしませんよ」

「絶対、しません?」

「しませんって!」


 苦笑してしまうが、スノーボウルを食べている笛田さん、笑っていた。無邪気な笑顔だ。


「このスノーボウル、本当雪みたい。口の中で溶ける……」


 また笛田さんの目から涙が落ちる。早く春が来て、雪溶けするといいなと思う。

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