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小さな焼き菓子短編小説集〜5分で甘く優しい世界〜  作者: 地野千塩


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溶けないチョコチップ

 地町内会のクリスマスパーティー、予想通り、そんな盛り上がっていない。


 小学生が集まっているからと言って、子供向けのアニメや音楽が退屈。確かに低学年の子は喜んでいるが、わたしはもう小五だし、あくびが出てきた。同じクラスの凛花も同様だ。


 最後にはサンタさんも登場したが、どう見ても町内会長のおじさん。一生懸命盛り上げてはくれていたが、どう喜んでいいのやら……。凛花はあまりものダサさに笑いを噛み殺しているぐらい。


 サンタさん(長男会長)のプレゼントはお菓子だ。町内会の和菓子屋のお団子セット。これも喜んでいいのか……。


 とはいえ、クリスマスプレゼント交換はちょっと盛り上がる。誰からのものかわからないし。ちなみに私が選んだのはおススメのホラー小説の本。


「お、私のプレゼント。可愛いラッピング」


 そしてくじ引きで番号が出たプレゼントをもらったが、ラッピングが可愛い。ピンクの袋にお花の飾りやシールもついてる。中身は軽い。


「これ、もしや凛花が選んだプレゼント?」

「違うよー。私は靴下と入浴剤だもん。って私のホラー小説! これ、マチコの?」

「あたり!」

「うける〜。クリスマスプレゼントにホラー小説!」


 二人で笑ってしまったが、私のプレゼントはお菓子だった。しかも手作りのチョコチップクッキー。市販のものと違い、バターとチョコのいい匂いがする。思わず一枚食べたが、味が濃く、海外のお菓子みたいな甘さ。


 しかし一体、誰が?


 会場にいる女子たちに聞いてみたが、誰もこのチョコチップクッキーを選んでいないという。


「え、こんな可愛いのに、女子からじゃない?」


 そうこうしているうちに、パーティーの参加者は帰っていき、結局、わたしと凛花と町内会のおじさんだけが残った。


「おじさん、これは心当たりある?」


 おじさんは首をふる。凛花も全く知らないという。


「本物のサンタさんじゃない?」


 凛花の意見、あり得ない。いくら子供だからってサンタが架空キャラだと知っている。


 こうして謎だけ残ったクリスマスプレゼントだった。といっても年末年始は家族の行事で忙しく、すっかり忘れてしまった。チョコチップクッキーの味はよく覚えていたけれど。


 その謎が解けたのは、バレンタインデー直前の日のことだった。母に頼まれてスーパーにミルクを買いに行った時、なんとなく手作りお菓子コーナーを見ていた。


 手作りお菓子、流行りみたい。キットやラッピングも華やか。アーモンドとかチョコペンとかアラザンとかトッピングも華やかで見惚れていたら、目の前に予想外の人物がいるではないか。


 同じ町内、かつ同じクラスの武本秀太だった。優等生で副委員長までやってる。メガネをかけ、あだ名は「先生」。大人しく頭もいい男子っていう印象だった。スーパーの手作りお菓子コーナーにいるのがミスマッチ。結びつかないんだが。


 ふと、あのチョコチップクッキーの味を思い出す。もしかして、秀太が作ったもの?


 その証拠に、今の秀太、顔まっか。成績優秀の男子の顔じゃない。冬なのに汗も浮いてるじゃないか。


「もしかして、お菓子作り好き? あのチョコチップクッキー、秀太の?」


 おずおずと聞くと、秀太は頷く。でも男子がお菓子作りなんて恥ずかしいらしい。実際笑われたこともあり、例のチョコチップクッキーも極秘で作ったという。


「悪いか!」


 真っ赤な顔で吠えている秀太。いや、悪くはない。それに美味しいお菓子作れるんだったら、誰でもいいんじゃない?


「菓子職人は男性が多いらしいよ。もちろん女性もいるけど、それについてはどっちでもいいんじゃない? 美味しければ」


 わたしがあまりにも能天気に言うから、秀太は拍子抜け。口をあんぐりと開けていた。


「は? マチコは笑わないんか?」

「笑わないよ。実際、美味しかったし!」


 目の前にあるお菓子作り用のチョコチップの袋を手に取る。そういえば、チョコチップってクッキーの中に入れてオーブンに焼いても溶けない。不思議。芯があるってことかな?


「秀太もチョコチップみたいに負けないで頑張って。大人になったら、菓子職人になれるかもよ?」


 妙な励ましをしてしまったが、もう秀太は怒っていなかった。それどころか、時々こっそりチョコチップクッキーをくれる時すらあった。


 そんな幼い頃のクリスマスプレゼントの思い出。


 ◇◇◇


 十数年後。


 私はとっくに大人になり、会社員として働いていた。


 クリスマスが近づき、甘いものでも探そうと思った時、実家の近くに個人経営の焼き菓子店がオープンしていると知った。


「嘘?」


 しかもオーナーは秀太だった。卒業後はあんまり会わなかったが、菓子職人になったらしい。店のホームページに秀太のコメントも出てた。


「お菓子の道は大変だったけれど、諦めずに続けてきました。チョコチップも生地入れて焼いても溶けないんだから、大丈夫って思いで続けていた、だって……。秀太、夢を諦めなかったんだ……」


 一方、私はなんの夢も目標もないけれど、急にあのチョコチップクッキーの味が恋しくなってきた。


 クリスマスは実家に帰ってもいいかもしれない。秀太が追いかけた夢を食べに行きたくなった。

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