第4話 矛盾する昼食
昼休み、中庭。
ベンチに腰かけて、購買で買ったコッペパンをちぎりつつ、私は牛乳パックをストローで突いていた。
一人で食べる昼ごはんは、パンの味が少しだけ素朴で、「ここにいていいのかな」と思うにはちょうどよかった。
そんなとき、「不破さん、あなたもコッペパンですか?」と、同じクラスのスン・ブンが、制服のスカートを綺麗に整えて近づいてくる。
中等部イチの優等生、でもなぜかチャイナ服。そしてクラスでも浮いている。……まぁ、私に言われたくもないだろうけども。
「私はアンパン派です。天下為公ですから、みんなで分け合えるものを――」
と言いつつ、なぜかじっと見つめる私に分ける様子もない。
すぐ後ろから、モウ・タオが肩で風を切るように現れる。
中等部イチの問題児。この間は「革命無罪、造反有理!」と叫びながら、校務員主任のイシハラ・ガンジさんと箒でチャンバラしていたけど、何がしたかったんだろう。
「スン・ブン、また理想論かよ。パンなんて食っても腹は膨れねぇぞ、革命の餅がないなら戦えねぇ!」
タオは購買で買ったフライドチキンをむさぼりながら、こちらをじろりと睨む。
「なぁ、不破。お前、さっきの講義、あれ本気で思想とか思ってんの? ……なぁ、搾取される側の思想の飯はまずいだろ?」
ちょっと間を置いて、「……正直、購買のパンは等価交換の味しかしないよ」 と小声で返す。
スン・ブンはふふっと笑って、「でも、こうして食べてる時くらいは国の魂も空腹になりますよ」と、無理やり名言にしようとして失敗していた。
モウ・タオは、チキンの骨をベンチに置きながら、「三民主義も理論も、空腹には勝てないってことだな。あー、もっと革命的な給食、出ねぇかな!」と言いながらぐっと伸びをする。
そしてその腕を邪魔そうに避けるスン・ブン。
私は牛乳をひとくち飲んで、「……この世界で、何を分け合えばみんな満たされるんだろう」と独り言のようにつぶやいた。
「アンパンじゃないかしら」「じゃあ半分くれよ」「貴女には嫌です」
スン・ブンとモウ・タオの掛け合い。
なんとも言えない空気の中、唐突に校内に出入りする業者さん、梶井便のお兄さんが「すみません、ちょっと通ります」と、台車を転がしながらベンチの前を通り過ぎた。
スン・ブンとモウ・タオがビクッと身体を震わせて少しくっつく。……が、しばらくして気まずげに二人して顔を逸らす。
……正直、私もびっくりした。あの人は気配がなさ過ぎて怖い。
あ、ポケットから檸檬落とした。
微妙な顔で落ちた檸檬をしばらく見つめる私たち。
「……これ、捨ててきてもいいですか」と私が言うと、スン・ブンは「それもまた天下為公ですね」と微笑み、モウ・タオは「それ爆弾にしちまえばいいんだよ」とニヤリ。
「意味が分かりません」
檸檬を摘みながら私が呟くと、スン・ブンがうんうんと頷く。
昼の光に、パンの甘さと檸檬の香りだけが
なんとなく残った。
ポケットの中で椎の実が少し笑った気がした。