悪役を使う悪役令嬢の話
「「「追放だ!」」」
「トム、働きが悪いです。給金なし。追放です。装備をおいて行きなさい」
「ギシシシシ、追放でゲス!」
「そ、そんな。半年間一生懸命に働きましたよ」
「いやなら、オラが拳骨かかせっぞ」
俺はトム、新米の冒険者だ。村を出て半年間下働きとして働いたのに、給金無しどころか装備をおいて出て行けと言う。
やつらはゾーン三兄弟。この冒険者ギルドでは誰も逆らえない乱暴者だ。
長男はベア。ビヤ樽のような腹の髭ズラの男だ。
「オラはこのギルド一番の力持ちだど!」
次兄はスネーク、ヒョロヒョロで目つきが鋭い。
手にはナイフを持ち。時々舐める。舌切らないのかよ。
「ギシシシシ、スネーク流ナイフ術を堪能したいでゲスか!」
シュンシュンとナイフをお手玉もように回している。
そして、末子はチビ、フクロウ、こいつ、どっかの御曹司のような顔をして、釣りズボンをはいている。
「僕はこのギルド一番の天才、二桁の足し算引き算が出来るよ。今はかけ算に挑戦中だ。ゾーン兄弟の軍師をしているのだ。君とは頭の出来が違うのだよ」
「でも、装備まで取られたら・・」
このカバンや野営用の炊事道具、地図は村の皆が餞別で買ってくれた物だ。
「働きが悪かったので僕たち三兄弟は傷つきました。賠償金でもらいます。君、賠償金って分かる?」
「ギシシシシ、フクロウ、頭いいゲス!」
「さすが、オラ達の軍師だ」
これだけは・・・
「嫌だーーー!」
と思わず叫んだら、ドアがドン!と乱暴に開いた。
現れたのは釣り目の・・・令嬢、12、13歳くらいの子、紺のドレスに黒髪は肩まで伸し青い目、小さい美人と言う感じだ。
皆の目は一斉に向いた。
この時間に令嬢が一人?
「ちょっと、ここで追放ばかりしている三馬鹿がいるって聞いたのだけども・・・そこの貴方説明してくれる?」
「はい。俺はトムと申します・・・」
説明した。
すると令嬢は銀貨の入った袋を渡してくれた。
「この3匹の債務を肩代わりするわ。つまり、この三馬鹿は私の奴隷・・・他にいるのかしら。債務を買い取るわ」
すると、ゾーン三兄弟は怒りだした。
「おめ、娘っ子、懲らしめてやるだ」
「フン!かかってきなさい」
令嬢が腕を出すと、ベアも手を出し、つかみあった。・・・片手だけの手四つという力比べだ。
しかし、令嬢が左腕、ベアは右腕だ。令嬢が不利に決まっている。
しかし、ベアは顔を真っ赤にして、ウンウンうなっている。
令嬢の体は淡い青色の光で覆われている。
魔法?身体強化魔法か?
ベアは両手で令嬢の片手を掴んだが、
「ウゲ!」
膝をついた。
「やめてくんろ、骨砕けるだぁ!」
「え、砕くつもりだけど・・・」
「その手を放すでゲス!」
スネークがナイフ術を披露した。
「ほ~ら、ほらほら、見えるでゲスか?このナイフで鮮血を出したくなければベアの手を放すでゲス!」
すると、令嬢はベアの手を放さないまま、今度は体から、カゲを出した。
この魔法は・・・闇魔法か?カゲが手になり・・・
同時並行魔法?こんな力量は王都にいるかどうかだ・・・
「ほらほらほら!・・・あれ、ナイフがないでゲス!」
「ゲスゲスうるさいわね」
令嬢の手にナイフがあった・・・
そして、フクロウには・・・
「三×四は?」
と質問をした。
「ズルいぞ、かけ算なんて!待っていろ、今数える!1,2,3,4,5,6,7,8,9,10・・・あれ、両手で数えられない」
「答えは12よ」
「嘘だ・・・今、足の指で数えるから待っていろ!11、12・・・・あれ本当だ!」
令嬢はゾーン三兄弟を圧倒した。
「いい?ついて来なさい。悪いようにしないけども良いようにもはしないわ」
「う・・うんだ」
「分かっでゲス!」
「はい」
何故か、俺は声をかけた。
「あの、ご令嬢、俺もつれて行って下さい!」
「まあ、貴方は何が出来るの?」
「何も・・・いつも冒険者についていって、炊事洗濯をしていました」
「文字の読み書きは?」
「村の役人の息子から習いました」
「採用!」
と俺もついていった。
ついていった先は・・・・
「領主館!」
「そう、ここは飛び地よ。私はお父様から追放されたの。だから何?」
ここの領主館いつもは不在だ。
時々、ご領主が来られる時の滞在場所。そのために豪華な装飾が施されている。
普段は近所の農家が管理しているが。
「お嬢様、お止め下さい!」
「いいのよ。お金がないのだから」
ご令嬢はそれを剥がして、売っている。
私の仕事は・・・
「トム、掃除して」
「はい」
「トム、料理をつくって」
「はい」
「トム、庭の仕事をして」
「はい」
こんな感じだ。
一方、彼女が三馬鹿と呼んでいるゾーン兄弟は・・・
彼女は三人を引き連れて、領内で追放している!
☆☆☆髭博物館
「ねえ。ここの来館者は何人?」
「三百人です」
「一月?」
「いえ、1年です。これは、公爵様肝いりの博物館です。髭のすばらしさを世の中に広めるのです!」
「三馬鹿、追放しなさい」
令嬢が追放と言うと、ゾーン三兄弟が威嚇をする。
「僕の計算だと赤字ですね。だから追放です」
「ギシシシシ、このナイフ見えるでゲスか?」
「拳固かかせっぞ!」
「そ、そんな。追放ですと、公爵様に訴えますぞ!」
「あら、なら殺さなければ、死体が訴えることは出来ないわね」
「ヒィ!出て行きますよ!」
とこんな感じだ。
「あのお嬢様、シーツ洗濯終わりました」
「そう、私はエリザベスよ。次からはエリザベス様と呼びなさい」
「はい、エリザベス様!」
彼女が何をしたいか分かる。領地経営だ。こんな小さいのに、精力的にまわる。
エリザベス様の改革は、教会の自治組織まで及んだ。
「ねえ。神父様、女神教青年育成基金って何をしているの?」
「これは、領主代理、青年の健全な育成を願う団体でございます」
「具体的には?」
「はい、貧しい家庭が多いので、お金を集めて・・・その」
「はい、追放!」
「そんな。これは女神教の施設ですぞ!」
「あら、女神経典のどの章?何行目に書かれているの?」
とやりたい放題だ。
ゾーン三兄弟は、段々と調子に乗り。エリザベス親衛隊のように振る舞う。
「ギシシシッシ、私達はご領主様の親衛隊でゲスよ!」
「僕もそう思う」
「拳固かかせっぞ!」
と三人が自慢すると。
バキ!ボキ、ゴキ!とすぐにエリザベス様の拳が飛んで来る。
「違うでしょう。貴方たちは債務奴隷よ!」
「奴隷・・・だって」
「でも、働き次第で上級奴隷ぐらいにはしてあげるわ。自信を持ちなさい。公爵令嬢の奴隷よ」
「なら、兄ちゃんたち安心だ。飯は食える」
「フクロウ、頭いいでゲス」
「腹いっぱい食えるだ」
エリザベス様は上手く手懐けている。俺の他にも追放された冒険者が名乗り出て彼女が肩代わりをしているから、年季は長いだろな。
エリザベス様は、暴力はあの三馬鹿以外には使わない。
しかし、一回だけ農民に対して使ったことがあった。
義理の娘を売ろうとした父親に対してだ。
「王国の法では人身売買は、債務奴隷や捕虜、犯罪奴隷に限定されているのだけども?」
「ハハハ、娼館に永年奉公ですよ。いくら、ご領主様代理でも、家長権は私にあります。この娘は義理の娘ですよ。どう扱おうと勝手です!それともご領主代理様が代わりに買って頂けますか?」
「お前も、娘を売るのね・・・」
ドン!と拳で下から顎を打ち抜いた。
「ウ、ウワワワワー」
「王国の法なら、平民に対する懲罰権があるわ。その子、うちで引き取るわ。お給金はその子に直接払う。ついて来なさい。名は」
「は・・・はい。マリア、マリアと言います。申します!」
・・・・・・・・・
エリザベス様は精力的に領地を回り夜は帳簿をつけていられる。
「エリザベス様、お茶です」
「ありがとう」
「帳簿ですか?知り合いに数字を読める者がいます。徴税人の三男ですが・・」
「そう、呼んで来なさい。お給金を払うわ」
「はい」
俺の村からあぶれている者を呼ぶようになった。
メイドも来るようになり。少しずつ俺の仕事は減った。
小作人の息子だからな。いつかお別れだ。
ある日、お嬢様は解体した施設の窓を集めて、ガラス室を作った。
イチゴを育てるそうだ。
「フフフフ~、イチゴだわ」
と喜んでいる。
エリザベス様は完璧だ。
しかし、俺は意見をした。
「あの、イチゴはアナグマが狙います・・・これでは穴を掘ってガラス室に入り込みます」
「まあ、そうなの?」
「はい、ですが、アナグマはジャンプ力はありません。机の上に鉢を置いて育てたら如何ですか?」
「育てた経験あるの?」
「はい、少し」
「じゃあ、任せるわ」
実際、アナグマが穴を掘りガラス室に入った形跡があったが、イチゴは無事だった。
「トム、すごいじゃない!」
「恐縮です!」
今は、庭師として働いている。この領地がどうなるか、お嬢様と見届けたらいいなと思っている。
いつまでもこの幸せな日々が続けばいい。
「トム、お茶もってきた・・」
「有難う。マリア」
マリアは義父に売られそうになった娘だ。今は私と庭師をしている。
この子は草木が好きだ。だから、私につけられた。気の良い娘だ。
「トム、そろそろ門限よ」
「マリア、そうだね」
アナグマ対策で遅くなったが、この館は緊急以外は夜6時で閉められる。
エリザベス様はいろいろな法令を発布されているが・・・
馬車の音が聞こえた。この屋敷に馬車ごと入ろうとするのだ。
門番ともめている。
「見てくる。マリアはエリザベス様に知らせて」
「分かったわ」
☆門
「私はエリザベスの父だ。公爵だぞ!何だ。この屋敷は!装飾品がないではないか?」
「お義父様、お義姉様は・・・こんなみすぼらしい館で暮らしているの?可哀想」
「おお、優しいミミリー、全くエリザベスとの婚約を破棄して優しいミミリーと婚約出来てうれしいよ」
「そうだ。エリザベスに相応しい釣書を持って来た。ロウガイ卿だ。60歳の経験豊富な紳士だ。アハハハハハ!」
公爵と、貴公子と令嬢、会話の内容から、エリザベス様のご家族と元婚約者・・・だ。
エリザベス様はどう対処するのだろうと思ったが、ゾーン三兄弟がやってきた。
「トム、何があった?」
「フクロウ・・・」
俺は経緯を話した。
「フクロウ、どうしたらいいでゲス?」
「オラ、拳固かかせばいいだか?」
「そうですね。僕の計算えと、門限の時間外に、この人達を通してお嬢様に折檻されるのと、
この人達を追放して、折檻されるのと結果は同じになります」
「なら、追放するでゲス!」
「頭いいだ。フクロウ!」
え、俺、公爵って言ったよ。
三人は。
「「「追放だ!」」」
「何だ。お前ら!」
「拳固かかせっぞ!」
「ギシシシシ、ナイフ術みせてやるでゲス!」
「私は王子だぞ!」
「私は公爵令嬢よ」
「私は公爵だ!」
「兄ちゃんたち、やっちゃって大丈夫だよ。お嬢様は公爵令嬢だよ」
「私は王子だぞ!見逃せ!」
「オラ達は公爵令嬢の奴隷だぞ!って公爵令嬢と王子、どっちが偉いだか?」
「兄ちゃん。ギリ王子だけど、大丈夫だよ。差は少しだ」
「ちげーよ!」
・・・・・・・
公爵一家は馬車を壊されて釣書を燃やされた。
そして、俺は・・・
「エリザベス様、公爵を名乗る不逞の輩が来たので、三兄弟がボコして追放しました。公爵は裸で馬にくくりつけて追放、王子と名乗る者は縛って市場で晒しています。
令嬢を騙る者は、エリザベス様が作った不良女子のための刑務所、『ドラゴンの巣』に放り込みました」
と報告した。
すると、エリザベス様の口角はわずかにあがって、
「そうね。公爵閣下が先触れもなしにくるわけないわね。偽公爵だわ」
と言ってくれた。
俺もすっかりエリザベス様の側近になったようだ。
最後までお読み頂き有難うございました。