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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第四章 封縁乙女・北浜星蘭

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外伝  神の名を借りる者、言葉を支配する者

 久遠女学園・旧礼拝堂跡。


 今では使われていないその場所で、

 桐嶋クラリス・聖蘭は、のんびりと紅茶を飲んでいた。


「はぁ……今回も無事に終わってよかったですねぇ」


 事件は収束。

 怪異は消滅。

 学園は平和。


 ――表向きは。


「……その顔」


 背後から、冷えきった声が落ちた。


「絶対ろくなこと考えてないでしょ? クラリス部長」


「おや」


 クラリスは振り返る。


 そこに立っていたのは、

 黒いゴシックロリータに身を包んだ少女。


 神薙美海。


 目が、完全に据わっている。


「ワタシの陽子が」


 美海は、にっこり笑った。


「巻き込まれたんだけど?」


「あ、あはは……」


 クラリス、目を逸らす。


「偶然って、怖いですよねぇ」


「偶然?」


 空気が、きしんだ。


「偶然で済むと思っているなら」


 美海は一歩、踏み出す。


「あんたの力――神縁の秘密、今日ここで全部吐いてもらうわよ」


***


「――まあまあ、落ち着いてください」


 クラリスは立ち上がり、軽く肩をすくめる。


「確かに、少しばかり複雑にしましたけど」


「少し?」


「ほんの、ほんの、スパイス程度です」


 その瞬間。


 言葉が、刃になった。


「<詞縁・静謐命令ノ宣>」


 ――黙れ。


 空間そのものが、その意味を帯びる。


 だが。


「それは無駄かなぁ?」


 クラリスの足元に、淡い光が走った。


「<神縁・名持ツモノノ加護>」


 圧が、霧散する。


「……へぇ」


 美海は、少しだけ興味深そうに目を細めた。


「それが、あなたの神縁?」


「はい」


 クラリスは胸に手を当てる。


「勘違いされがちですけどね」


***


 クラリスの神縁は、信仰ではない。


 本物の神と契約しているわけでもない。


「神って、名前を与えられた瞬間に成立するんです」


 人々に語られ、

 役割を与えられ、

 象徴として扱われた存在。


「概念が神格化されたもの」


 英雄。

 伝承。

 土地神。

 怪異。


「私が縁を結ぶのは、そういう名を持つ存在よ」


 つまり。


「物語の中の神」


***


「……なるほどね」


 美海は、鼻で笑った。


「だから、厄介」


「<詞縁・意味断絶ノ句>」


 今度は、言葉の意味そのものを切り落とす。


「名前を奪う」


 神格化された存在は、

 名がなければ成立しない。


 だが。


「それ、効かないんですよねぇ」


 クラリスは楽しそうに笑う。


「だって、私が縁を結んでいるのは」


 ――一つじゃない。


「<神縁・多重名保持>」


 世界が、ざわめいた。


 無数の役割と物語が、クラリスの背後に重なる。


「あなたの言霊は、言葉を支配する」


「でも私の神縁は」


 満面の笑顔で、クラリスは指を鳴らす。


「解釈を増やす、ってね」


***


「……」


 美海、沈黙。


 次の瞬間。


「<詞縁・万象再定義ノ律>」


 暴力的なまでの言葉。


「全部まとめて、ワタシが決める」


 意味も、解釈も、物語も。


 だが。


 クラリスは、一歩も引かなかった。


「それが、あなたの強さ」


 そして。


「それが、あなたの弱点」


***


 バチン、と空気が弾ける。


 衝撃波。


 礼拝堂の壁が、軋む。


 だが――次の瞬間。


「はい、ここまで」


 クラリスが、ぱん、と手を叩いた。


「これ以上やると、学園が壊れます」


「……チッ」


 美海は舌打ちし、術を解いた。


***


「忠告しておくわよ、美海」


 クラリスは紅茶を飲み直す。


「今回の件」


「本当に危険だったのは、縁じゃない」


 視線が、鋭くなる。


「人が、独りで抱え込むことです」


「……言われなくても分かってるわよ」


 美海は背を向ける。


「だから」


 低く、呟いた。


「二度と、陽子に手を出させない」


***


 去り際。


「でも、楽しかったでしょう?」


 クラリスが言う。


「異能バトル」


 美海は振り返らずに言い捨てた。


「次は、ワタシが勝つ」


 その背中を見送りながら、クラリスは微笑む。


「ええ」


「その時は、もっと派手にやりましょう」


 ――神と、言葉と、物語の続きを。



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