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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第四章 封縁乙女・北浜星蘭

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エピローグ・第三節   ――北浜星蘭の記録

 事件が終わって、しばらく経った。


 学園は、何事もなかったかのように日常を取り戻している。

 旧棟は相変わらず立ち入り禁止のまま。

 問題の廊下も、存在しない部室も、誰の記憶からも少しずつ薄れていった。


 だが。


 忘れてはいけない、と私は思っている。


 これは、ただの怪異ではなかった。


***


 今回の怪異の本質は、「場所」ではない。


 最初から最後まで、あれは意志だった。


 百年前、この学園がまだ形を成す前。

 封縁乙女と同じ系譜に連なる、ひとりの退魔師の少女が存在した。


 名は、残っていない。


 ただ分かっているのは、彼女が極めて高い霊力を持ち、

 縁を視、縁を断ち、縁を結ぶことができたということ。


 ――今の私や、葵と同質の存在。


 彼女はある事件をきっかけに、

 「あの場所」に閉じ込められた。


 封じられたのではない。

 縛られたのだ。

 人の手によるものだったのか、事故だったのか。

 それを知るすべはもはや存在しない。


 人の想い、未練、後悔、祈り。

 それらを核にして構築された、隔絶空間。


 逃げ場のない、完全な孤独。


 百年という時間は、あまりにも長すぎた。


***


 彼女は、救いを求めた。


 けれど、その救いは歪んでいた。


 自分が出るためには、代わりが要る。

 自分の代わりに、ここに縛られる誰かが。


 そのために、彼女は縁を歪めた。


 千里子の潜在的な霊力を媒介にし、

 朱音の不安に触れ、

 葵の願い――愛子の視力を取り戻したいという想いを利用した。


 「独りで来い」


 あのメッセージは、合理的だった。


 この怪異の場所は、不安定だったから。

 複数の意志が踏み込めば、崩壊してしまう。


 だからこそ、独り。


 独りで来て、独りで選ばせる。


 その選択の先に、自分の解放があると信じて。


***


 私と葵は、それぞれ別の真実に辿り着いた。


 私は、「救われたい怪異」ではないことに気づいた。

 彼女は、救いを装った加害者だった。


 葵は、「奇跡の正体」を見抜いた。

 縁を治すのではなく、縁を入れ替える力。


 どちらも、真実だった。


 だからこそ。


 私たちは、あの場所に拒絶された。


 あの核へ辿り着く条件は、

 単なる理解でも、同情でもなかった。


 ――選択。


 その怪異を「どう終わらせるか」を、自分自身で決めること。


***


 美海先輩が暴走したのは、必然だった。


 陽子さんを利用されたことは、彼女にとって逆鱗だった。

 黒幕は、そこを読み違えた。


 だが、あの戦いがあったからこそ、

 私と葵は並び立つことができた。


 風で言霊を削ぎ、

 想いで縁を射抜き、

 二人で一つの答えを作る。


 <封縁・双ノ連結>。


 あれは術ではなく、結果だ。


***


 最後に辿り着いたとき。


 私と葵は、同じ選択をした。


 彼女を救わない。

 だが、終わらせる。


 縁を断ち、

 縁を結び直し、

 これ以上、誰も巻き込ませない。


 それが、彼女にとって唯一の救いだと信じて。


 百年の孤独は消えない。

 壊れた心も、元には戻らない。


 それでも。


 泣いたあの瞬間、

 彼女は初めて、「誰か」として存在できたのだと思う。


***


 怪異とは、いつも人の心から生まれる。


 強すぎる願い。

 叶わなかった想い。

 そして、独りで抱え続けた痛み。


 今回の事件は、その極致だった。


 だから私は、記録する。


 忘れないために。

 同じ過ちを、繰り返さないために。


 そして。


 隣で歩く、佐々木葵の背中を見て、思う。


 ――独りでは、答えに辿り着けなかった。


 それが、今回のすべてだった。



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