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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第四章 封縁乙女・北浜星蘭

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第1話 存在しない部室 後編

 そこは、空虚な部屋だった。

 色褪せた机。

 壁に貼られた目標用紙。

 途中で破られ、名前だけが消された名簿。

 努力も、情熱も、誰にも見られないまま置き去りにされた場所。


「……最低ですね」


 星蘭は、ぽつりと呟いた。

 風が、彼女の周囲をゆるやかに巡る。

 声がする。


 ――ここにいたかった。

 ――消えたくなかった。


 胸が、少しだけ痛んだ。

 これは、敵ではない。

 けれど――

「それでも」

 星蘭は顔を上げる。


「ここは、あなたの居場所じゃないですよ?」

 両手を広げる。


「《風縁(ふうえん)魔送(まそう)薫風(くんぷう) 》――」


 初夏の風が、部室を満たす。

 懐かしく、やさしい風。

 思念が、ほどけ始め――

 だが、空間が悲鳴を上げた。

 歪みが、葵を絡め取る。


「……っ!」


 葵の脳裏に、病院の部屋で眠りにつく一人の少女の姿が浮かび上がった。

 愛子。

 巻き込んでしまった少女。

 ――救えなかった。

 彼女の視力は失われて――


「葵!」


 気配にあてられて固まる葵の姿に、星蘭は理解した。

 この間の事件以来、葵は自責の念に捕らわれ続けている。


「……大丈夫」

 星蘭は、静かに言う。

「わたしが、送ります」


 限界を超えて、風を解き放つ。


「《風縁(ふうえん)滅日(ほろび)神風(しんぷう)》!」


 神聖な嵐が、部室を包み込む。

 災厄を吹き飛ばす、破邪の風。

 悲鳴はなかった。

 ただ、この空虚な空間が風に溶ける。

 部屋は跡形もなく消えた。

 廊下に残ったのは、わずかな歪み。


 ――この学園は、まだ何かを溜め込んでいる。


 星蘭は、ふらりとよろけた。

 葵が、そっと支える。


「……支えなくていいですよ?」


 少しだけ、照れたように。

 葵は、穏やかに微笑む。

「放っておけないから」

「……それはこちらの台詞です」


 同じく退魔師の血を引き、違う痛みを抱え、それでも並んで立つ少女。

 風が、夕暮れの校舎を吹き抜けた。

 それは、次の厄災が近づいていることを告げる、静かな前触れだった。



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