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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第三章 悪霊の女王

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緊急招集と悪意の増殖

 中等部からの連絡が、久遠女学園を瞬く間に駆け巡った。


 ——中等部二年生の佐藤愛子が、旧校舎へ続く階段で足を滑らせ、頭部を強打。意識不明の重体となり、久遠大学病院に緊急搬送された。


 寮の自室で涼子と向かい合っていた佐々木葵は、スマートフォンに届いた典子からの緊急メッセージでその事実を知った。


「愛子ちゃんが……!」


 葵の顔から血の気が引く。あの子の霊的感応体質は、彼女自身が言っていたように、危険を呼び寄せやすい。昨日は木島かおりに会いに行くと言っていたのだ。


 隣で不安そうに身を寄せていた大滝涼子が、葵の様子に過敏に反応した。


「葵、大丈夫? 誰からの連絡? そんな顔しないでよ。ねえ、ボクといてよ……」


 涼子の執着は、もはや正常な状態ではなかった。涼子の周囲には、濃密だが濁った『縁の歪み』が絡みついており、それが彼女の感情を異常なレベルで増幅させている。


 葵はスマホの画面を閉じ、強い意志を持って涼子を見た。


「涼子、落ち着いて。私、今から行かなきゃいけない場所があるの。すぐに戻るから、お願い、部屋で待っててくれる?」


「ヤダ!」涼子は絶叫に近い声を上げた。「またボクを一人にするの? ボクたちが一緒にいられるように願ったのに! 葵が、ボクから離れようとするのが悪いんだ!」


 涼子の言葉は、葵の胸に鋭く突き刺さった。この異常な執着が、「小さな願い」の術による副作用であることは明白だった。


「ごめんね? 涼子」


 葵は涼子の手を振り払い、駆け出した。今の彼女には、愛子の安否、そしてこの学園を蝕む呪いの解決が最優先だった。



 高等部旧校舎の最上階。K.G.S.の部室に、部長のクラリス、副部長の典子、そして遅れて葵が到着した。書記のさおりは、いつものように音もなく隅に座り、ニコニコと微笑んでいる。


 会議の空気は、これまでになく重い。


「佐藤愛子の事故……いえ、事件について、事実確認をするわ」クラリスが口を開いた。


 典子は愛子の転落現場から採取したわずかな霊的痕跡の資料を広げた。


「現場の階段には、物理的な足場が乱れた痕跡は全くありません。しかし、極めて人為的な『縁の操作』の痕跡が残っていました。特定の『縁を滑らせる』術が、ピンポイントで発動しています」


 典子の冷徹な報告に、葵は唇を噛みしめた。やはり事故ではない。


「愛子ちゃんは、木島かおりに会っていたはずです。そして、最後に木島かおりと対峙したはず」


「ええ、それは確実ね」


クラリスが手に持っていたのは、愛子が病院に運ばれる際に現場に落ちていたスケッチブックだった。表紙の裏には、愛子の走り書きが残っていた。


『かおりの言う力は集まってる。私が広めた分、悪意が加速している。女王へ繋がる』


「愛子は、木島かおりが悪意を拡散している駒だと見ていた。そして、かおりが『力を探している』という事実から、その力の中心(女王の居場所)を特定しようとしていたのね」


 クラリスは険しい顔で典子を見た。


「典子、愛子の縁は?」


「彼女の身体から発せられていた『霊的感応の縁』は、転落直前に、極度の緊張と恐怖で乱れた後、完全に途絶しています。愛子は、かおりが自らの力で術を発動したことに、転落の瞬間に気づいたのでしょう」


「そうですね~」


 さおりが、ニコニコとした笑顔のまま、紅茶を淹れる。クラリスたちは、さおりの言葉を無視する緊張感を保ちながら、深刻な状況を共有した。


「つまり、木島かおりは、私たちが考えていた『悪霊の女王』の駒ではなく、『女王』の呪いのシステムの一部を自らに吸収し、悪意を増幅させた存在になりつつある……」


 葵は、涼子の異変と愛子の犠牲、そしてこの呪いが連鎖していることに、戦慄を覚えた。


「急いで、旧保健室を調べましょう。これ以上、被害を出す前に!」



 一方、中等部棟の自分の教室で、木島かおりは携帯をいじりながら、ニヤニヤと笑っていた。


 廊下を通り過ぎる下級生たちが、かおりの顔を見て、囁き合っている。


「愛子先輩、階段で滑っちゃったんだって」

「あの優等生が? 普段から、優等生ぶってばっかりいるから、罰が当たったんじゃない?」

「……そうかもね」


 かおりの周囲には、彼女の悪意を増幅させたことで集まった黒い縁(呪い)が、まるで祝福のオーラのように渦巻いている。この力は、愛子を退けたことでさらに強固になった。いまならあの小さな願いに頼らなくても願いをかなえられそうだと確信していた。


(佐藤愛子……邪魔な女。でも、あいつのおかげで分かったわ。私の『願い』は、あの噂の『女王』のシステムに繋がっている)


 かおりは、愛子の怯えた顔、そして最後に見た絶望の表情を思い出し、背筋が痺れるほどの快感を覚えた。


(あいつが言ってたわね、『力がどこかに集まっている』って。私が広げた悪意の分が、あのシステムに吸い上げられているなら、そのシステムそのものを私が乗っ取ればいい)


 かおりには、特定の場所や「悪霊の女王」の正体は分からない。しかし、自分の体内に宿った呪いの力の波動を辿れば、必ずその中心に辿り着けると確信していた。


 彼女の脳裏には、学園全体を支配し、自分の悪意を世界中に広げる「真の女王」となる野望が浮かび上がっていた。


「さあ、見つけてあげるわよ。私の力を吸い上げている、その中心システムをね」


 かおりは、自分の悪意が満ちた瞳で、誰もいない旧校舎の方向を見据えた。


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