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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第三章 悪霊の女王

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封縁乙女、集結す

 深夜零時。久遠女学園の高等部にある旧校舎。薄暗い資材置き場の最上階の一室が、今宵、K.G.S.(久遠女学園霊学研究会)の緊急会議室となっていた。


 部長の桐嶋・クラリス・聖蘭は、いつものとぼけた調子を潜め、テーブルに肘をついていた。隣には副部長の天上院典子が冷静な面持ちで座り、そして、報告者の佐々木葵と、急遽招かれた中等部二年生の佐藤愛子が席を囲んでいた。


「さて、本日はお急ぎのところ、ご苦労様。部長のクラリスよ」


 クラリスは居住まいを正した。


「今回の一件、『小さな願い』の噂がもたらす『縁の歪み』は、私たちの管轄の中でもかなり悪質。特に、典子が解析した縁結びの鏡のデータは、看過できないレベルよ」


 典子が布に手をかけようとした、その時。


「そうですね~」


 音もなく、いつの間にか背後に立っていたのは、白いブラウスに紺色のスカートという、学園の制服とも違う、古いデザインの服装の少女、さおりだった。ニコニコとした笑顔で、小さなポットを手に立っている。


「お茶が入りましたよ~。会議には、温かいものが一番です。このポット、持ち運びできるのが利点なんですよね、保温性も高いですし。まあ、誰も気づかないけど」


 クラリスは一切動じず、さおりが存在しないかのように空間に向かって言った。


「書記さん、ありがとう。そこに座ってて。それで典子、鏡を見せてちょうだい」


 さおりは「はいは~い」と呑気に応じ、テーブルの隅にちょこんと座った。K.G.S.のメンバーにとって、この少女の存在は認識してはならないものだった。彼女に反応することは、彼女の”封印を解く”ことにつながる。緊張の糸は、彼女に気づかないふりをすることで、かろうじて保たれていた。


 典子が布を払うと、銅鏡が現れた。鏡面は、普段の静謐な状態とはかけ離れ、まるで水に油が浮いたように、無数の黒い斑点と、そこから伸びる微かなひび割れで覆い尽くされていた。


「この黒い斑点一つ一つが、叶えられた『小さな願い』の残滓。そして、その『念』は、願いが成就した瞬間に、鏡の底にある『一つの影』へと吸い上げられている」


 葵が、静かにその『影』を見つめる。

 愛子は緊張で顔をこわばらせながらも、勇気を出して言った。


「あの、木島かおりさんは、わざとルールを破るように仕向けていたんです。千春さんの件でも、彼女は罰の結果を見たかっただけみたいで……」


 クラリスが尋ねる。

「典子、彼女の『縁』の状態は?」


「彼女自身の縁は、微かに歪んでいますが、術の核ではありません。彼女の周囲の『縁』には、誘導の痕跡があります。誰かが彼女の『優越感や好奇心』を利用して、この『願い』を拡散させている可能性が高い」


 テーブルの隅から、さおりが再び口を開いた。


「そうですね~。木島さんの縁は、まるで『蜘蛛の糸』に繋がれた『操り人形』みたいですよ」


 その言葉に、愛子はふと胸が痛み、思わずさおりの方を見てしまった。


「……あの、誰も彼女の言葉に返事をしないのは、どうしてですか?彼女、何か大切なことを言っているような……」


 愛子の言葉は、会議室に一瞬にして絶対的な沈黙を生み出した。

 クラリスは顔色一つ変えず、愛子の顔を見て優しく、だが強い威圧感を込めて言った。


「佐藤さん、あなた、誰の事を言っているのかな? ここにいるのは、私たちだけでしょう?」


「え……」


 愛子は戸惑い、再びさおりに目を向けた。

 さおりはニコニコと愛子に微笑みかけ、優雅にお茶を一口すする。その瞬間、さおりの瞳の奥が一瞬だけ深淵の闇を帯び、彼女の笑顔からぞっとするような鬼気が放たれた。

 葵、典子、クラリスの全員の身体に、鋭い緊張が走る。まるで、千年続く封印が、わずかにミシリと音を立てたかのようだった。


「……ごめんね? 愛子ちゃん」葵は冷静さを保ちながら、愛子を見つめるさおりから視線を外し、「今は、この話に集中しよう?」と言った。


 典子は眼鏡の奥で表情を引き締め、低い声で続けた。


「彼女は『駒』。問題は、その糸を操る真の術者。そしてその術者が、生徒の『想い』を食らい、自らを『女王』として君臨させようとしている。その術者こそが『悪霊の女王』です」


 典子が再度鏡を解析し、一つの場所を告げた。


「全ての縁の糸が一点に収束しています。それは、中等部棟にある七不思議のひとつ『開かずの保健室』。学園創立期からある、強い封印の縁が施された場所です」


 クラリスは立ち上がり、全員を見渡した。


「女王の狙いは、その封印を破り、久遠女学園そのものの縁を乗っ取ること。そして、そのためのエネルギーが、生徒たちの『小さな願い』なのです」


「やることは決まったわね。典子は解析と支援。愛子さん、あなたはくれぐれも余計なものに構わず、中等部での動向を注視して。葵、あなたは玲子と合流し、旧保健室の封印を調べるの」


「承知いたしました」葵は短く答えた。


 葵の胸の奥で、想縁そうえんの炎が静かに燃え始め、愛子は、さおりの笑顔の裏に潜む恐ろしさを知り、二度と彼女に目を向けないことを誓い部室を後にした。



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