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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第三章 悪霊の女王

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忍び寄る影⑤

 久遠女学園中等部二年、木島かおり。


 読者モデルとしての活動歴もある彼女は、クラスでもひときわ目立つ存在だった。だが、その内面では、別の種類の好奇心が渦を巻いていた。


 ──「小さな願い」。


 それは、学園内で密かに広まりつつある、おまじないのような噂。


 紙に願いを書き、枕の下に入れて眠ると、翌朝にはその願いが叶う──というもの。


 かおりは既に、いくつかの願いが叶う様子を体験していた。そして、あることに気づき始めていた。



「昨日の願い、どうだった?」


 放課後、部室棟の廊下で、かおりは同級生の永山紅林ながやま・くれはに声をかけた。


 紅林は、小柄で運動神経の良い子だ。テニス部のエースとして週末には練習試合で外泊していた。


「……ダメだったよ。全然叶わなかった」


「やっぱりね。寮じゃないと効果が出ないってことかも」


 紅林の答えを聞き、かおりは心の中でひっそりと笑った。


 実は自分も、週末に実家へ戻った際に、同じ方法で試していた。そして結果は同じ──何も起きなかった。


 つまり、この“願い”が有効なのは、久遠女学園の女子寮内に限定されている。


 さらに、これまで試してきた内容からも、願いにはもう一つ制限があることが分かってきた。


 ──物を手に入れることはできない。


 例えば、「あのブランドの新作バッグが欲しい」と願ってみても、翌朝には何も変わらなかった。だが、「あの子がバッグを忘れてきますように」なら、なぜか本当にそうなった。


 “物”ではなく、“事象”に対してのみ、願いは反応する。ただし、抽象的すぎる願いは叶わない。例えば特定の人に対する願いなら、その人物名を書かないと駄目といった具合だ。


 そして──一日一回まで、というルール。


 このルールだけは、最初から噂とセットで広まっていた。


「それ、破ったらどうなるのかな……」


 かおりはつぶやくように言ったが、紅林は笑ってごまかした。


「さすがに怖くて、試せないよ。だって“罰がある”って……」


「ふぅん、そっか」


 かおりは軽く笑って見せたが、その目は鋭く光っていた。



 今、かおりが最も注目しているのは、クラスメートの二人──山岸晴美やまぎし・はるみ東寺千春とうじ・ちはる


 彼女たちには、かおり自身が「小さな願い」のやり方を教えていた。


「願い、書いたら報告してね? どうなったか気になるし」


 そう言って、さりげなく報告義務を課した。本人たちは、それを単なるお喋り感覚で受け入れているようだった。


 でも、実際は違う。


 かおりは、二人の願いの中身も、日付も、結果も、すべて把握していた。


 それがなぜか。


 ──ルールを破った瞬間を、見逃さないためだ。


 一日一つ。たったそれだけのルール。


 だけど、欲が深くなれば──いずれ誰かが破る。


 特に、東寺千春の方は危ない。最近は願いの内容もきわどくなってきており、「誰かの失敗を願う」ことが増えている。


 罰則についての情報は、かおりは話していない。


 むしろ、知らないままでいてくれた方が面白い。


(そろそろ……誰かが引っかかるはず)


 もし本当に“罰”があるのだとしたら、それがどんな形で現れるのか。


 誰かがルールを破った時、何が起こるのか──


 その答えを、この目で見てみたい。


(……ねえ、ルールを破ったら、どうなるの?)


 かおりは心の中で問いかけながら、冷たく微笑んだ。


 願いは甘く、静かに人を蝕んでいく。




 その“罰”の味を、知る日は近い。



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