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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第三章 悪霊の女王

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33/50

忍び寄る影④

 気づけば、週末はもうすぐそこまで来ていた。


 木島かおりは、部屋のベッドに寝転がったまま、スマートフォンを手に取り画面を眺めていた。


 《要くんからラインがもう来ませんように》


 その願いは、確かに叶った。


 けれど──


(……なんで、叶ったんだろ)


 彼女の好奇心が、ふつふつと顔を出し始めていた。


 あのメモのせい?

 まさか偶然?

 もしかして、本当に何か“力”が働いた?


 だとしたら──


「……気になる」


 その一言が、かおりの指を動かした。



《ごめん、最近どうしてた? ちょっと心配になって》


 ためらいがちな文面で送ったLINEは、意外とすぐに既読がついた。


 しばらくして、要くんから返信が届く。


《風邪ひいて寝込んでた。連絡できなくてごめんね》


 添えられていたのは、寝巻き姿で体温計をくわえた自撮り写真。微妙にピンぼけしていて、ちょっと情けない顔。


「……なーんだ、風邪か」


 ふっと笑って、かおりは胸をなでおろす。


 誰かが意図的に止めたわけじゃない。事故でもトラブルでもない。ただ、風邪。


 そう、ただの体調不良。


(なるほど、こうやって“叶う”んだ)


 言いようのない納得感が、胸に広がる。


 願いは、必ずしも奇跡みたいに叶うわけじゃない。


 だけど、現実に即した形で、静かに、ささやかに──“そうなる”。


 偶然か必然か、それは分からない。


 けれど、叶った事実だけは、確かにそこにあった。


 かおりは、口元に笑みを浮かべた。



 次の日、かおりはまた一枚の紙を取り出していた。


《明日の授業、全部当てられませんように》


 昨日のように、メモを枕の下に入れて眠る。


 そして朝。


 その日、本当に授業では一度も指名されなかった。


 しかも、英語の先生が急な用事で欠席。自習に切り替わったことで、課題も免除された。


「……やば。これ、ほんとにすごいかも」


 心がざわつく。


 けれど、それは恐怖ではなく、興奮に近かった。


 まるで秘密の遊びを見つけた子どものように、かおりの胸は高鳴っていた。



 そこからは、早かった。


 次の願いは──《食堂のカレー、甘口がいいな》


 その次は──《朝のHRで当番が回ってきませんように》


 さらに次は──《永山が髪型変えて、失敗しちゃいますように》


 少しずつ、ほんの少しずつ、願いの内容は変わっていった。


 最初は自分のため。

 次は小さな得のため。

 そして、気に入らない相手への、ちょっとした“いたずら”へ──


「ふ……ふふっ」


 かおりは、誰もいない自室で笑う。


 その笑みは、無邪気に見えたかもしれない。

 けれど、その無邪気さの裏で、何かが少しずつ歪みはじめていた。



 本来なら──誰かの幸せを願うことに使うべき“祈り”。


 けれど今、それは静かに、確かに。


 “呪い”という名の闇へと、かおりの無意識を導きはじめていた。



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