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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第三章 悪霊の女王

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忍び寄る影③

 久遠女学園中等部二年、木島かおり。


 身長は百五十センチ。スレンダーな体型に、少し茶色がかった髪を軽く巻いている。


 読者モデルを何度か経験したこともあり、クラスでもひときわ目を引く存在だ。自信に満ちた笑顔と、ほんの少し気取った仕草が、彼女の魅力を引き立てていた。


 けれど、最近はちょっとした悩みを抱えていた。


 数ヶ月前、とある雑誌の撮影に参加した際、カメラマンの助手をしていた高校生のアルバイト──須藤要くんと連絡先を交換した。


 最初は軽い雑談程度だったやりとりが、次第に増えていき、最近では日に何度もメッセージが届くようになっていた。


「……めんどくさい」


 かおりはスマホをベッドに放り出し、ため息をついた。


 嫌いというわけではない。むしろ最初はちょっとだけドキドキしていたし、大人っぽい彼とのやりとりが嬉しくもあった。

 だけど、こうも頻繁に来ると、どうにも重たく感じてしまう。気軽なやり取りのはずが、いつの間にか“義務”のようになっていたのだ。


 そんなある日、「小さな願い」の噂を聞いた。


 ──紙に願いごとを書いて枕の下に入れて眠ると、翌朝、その紙が消えていて願いが叶う。


 どこかのクラスで話題になっていたのを耳にしたのだ。


「ふーん、そんな噂、ほんとにあるんだ」


 半信半疑、というより、ほとんど冗談として受け取っていた。


 けれど、その夜──


 ベッドに潜り込もうとした時、机の上に置かれたメモ帳が目に入り、ふと悪戯心が芽生えた。


「……じゃあ、試してみよっかな」


 かおりはペンを取り、さらさらと文字を走らせた。


《要くんからラインがもう来ませんように》


 それを三つ折りにして、枕の下にそっと滑り込ませる。


「まあ、どうせ何も起こらないだろうけど」


 そうつぶやいて、くすりと笑った。


 まるで占いのような気分だった。


 ほんの気まぐれ。ちょっとしたストレスのはけ口。


 そんな軽い気持ちだったのだ。



 朝、目を覚ました木島かおりは、ぼんやりとした頭で枕の下に手を差し入れた。

 指先に触れたのは、昨夜入れたはずの小さなメモ紙。


「……あ、ちゃんと残ってる」


 安心したように取り出してみると、そこには昨夜と同じ文字がそのまま記されていた。


《要くんからラインがもう来ませんように》


「うーん、失敗したのかな。ま、そんな簡単にいくわけないか」


 苦笑しながら紙を折り畳もうとした瞬間、かおりの眉がわずかにひそむ。


「……あれ?」


 紙から、ふわりとした熱のようなものが伝わってきた。

 それはほんのわずかな温もり。けれど、確かに何かがそこに宿っているような──不思議な違和感だった。


 まるで紙に何かが溜まっているような、そんな感覚。


 でも、それが何を意味するのかまでは分からなかった。


 かおりは小さく首を傾げ、そのまま紙を机の上に置いた。



 その日、かおりのスマホは一度も鳴らなかった。


 朝、寮を出て登校し、授業を受け、友人たちと昼食を取り──放課後、雑談に花を咲かせながら帰ってくる。

 そして、自室のベッドに寝転んだ瞬間、ふとした疑問が胸をよぎった。


「……あれ、そういえば今日、要くんから一度もメッセージ来てなくない?」


 スマホを手に取り、履歴を確認する。


 最後の通知は、昨夜のもの。


 それ以降、何も届いていない。


「偶然、かな……?」


 眉を寄せながらも、かおりの口元には自然と笑みが浮かんだ。


 思い出したのは、昨夜のメモ。


 まさか、そんな──


 でも。


「……え、すごくない? これ、もしかして──」


 自分でも信じられないような顔で笑ってしまう。


 信じていなかったはずの噂が、現実になった気がして。


 胸の奥が、ほんの少しだけふわりと軽くなるような、そんな気分だった。



 数日後。

 かおりは再び、あの紙を引っ張り出して見てみた。


 ──文字は、残っていた。


 けれど、紙からはあの時感じた熱も、何も感じなかった。


「……あれ?」


 軽く指先で触れてみても、ただの紙。どこにでもある、普通のメモ用紙。

 あのときの不思議な感覚は、もうどこにもなかった。


「えっ……すごくない? まさか、本当に叶ったの?」


 小さな声で笑って、かおりはその紙を机に置いた。

 心のどこかで、ぞくりとするような感覚があったけれど──その正体には気づかないまま。


 


 知らなかった。


 願いが叶うと、紙が消えるという噂は──間違いであることを。


 本当は、願いが叶うと──


 紙に込められた念だけが、静かに、確かに、消えていくのだということを。



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