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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第三章 悪霊の女王

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小さな願い(後編)

 まじないの棚の前で、涼子が本をめくっていた。


「これなんか面白いよ。『枕の下に入れる紙のおまじない』、だって」


「それって、さっきの子たちが言ってたやつ?」


「たぶん。ほら、ここ」


 涼子が指さしたページには、手書きのような文字でこう書かれていた。


 『紙に一つだけ願いを書く。枕の下に入れて眠ること。翌朝、紙が無くなっていたら願いは叶う』


「ほんとに消えるの?」


「そりゃまあ、寝てる間にベッドから落ちるんじゃない? ボクなら踏んづけてそう」


「信じてないのに読むのは好きだよね? こういうの」


「ロマンは好きなんだよ、ロマンは」


 涼子が本を戻そうとしたとき、その後ろの棚に葵が目を留める。


「これ……ちょっと古そうな資料だけど」


 表紙の色があせた、図書館でもあまり読まれていなさそうな本だった。ページをめくると、中には民俗信仰や地域伝承の話が、短くまとめられている。


「『願いごとの伝承にみる禁忌』? なんか、タイトルからして嫌な予感しかしないんだけど」


「ここ、見て」


 葵が静かに読み上げる。


「『願いを二つ口にすれば、縁は裂け、巡りは止まる』」


「……呪いじゃん」


「願いと呪いって、実は似てるのかもね」


 葵の言葉に、涼子が顔を向ける。


「似てる?」


「どっちも、強い想いを誰かに向けて放つでしょ。言葉にして、形にして、届いてほしいって思う……それって、向け方次第で、願いにも呪いにもなるのかも」


 そう言って葵は、本をそっと閉じた。


 ひらひらと舞い上がったページの端が、静かな空気を切った。



 翌朝。


 教室の窓から差し込む光が、きのうよりも白く冷たい。


 涼子と葵は一緒に登校し、廊下でロッカーを閉じると、教室に入る前にふと立ち止まった。


 階段の踊り場で、数人の中等部の生徒たちが話しているのが耳に入った。


「──マジで、あの子今日も来てなかったよ」


「だって願ったじゃん、“ちょっとくらい風邪ひけばいいのに”って」


「ほんとに休むとかウケる。やっぱ“枕のおまじない”効くんじゃない?」


「やば、罪悪感ある〜……でもちょっとスカッとしたかも」


「だよねー。てか私、次はあの子の告白失敗しますようにって書こうかな〜」


 涼子と葵は目を合わせた。


「……今の、聞いた?」


「うん……なんか……昨日のときとは、雰囲気が違う」


「うっかりした軽口かもしれないけど、それが叶ったら……」


「……それ、もう“願い”じゃなくて」


 言いかけて、葵は口をつぐむ。


 ふと視線を感じて振り返るが、そこには誰もいない。ただ冷たい風が、廊下の奥からすうっと吹き抜けていった。


 それは、まるで誰かが確かに通ったかのような気配だった。


 どこかで、静かに歯車がきしみながら回り出している──そんな音が聞こえたような気がした。





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