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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第二章 封縁乙女

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26/50

外伝 クラリスは見ていた

 夜の旧校舎裏――「夢結びの花壇」。

 わたしは木陰に寄りかかって、のんびりとその様子を眺めていた。


 下級生がふたり、こそこそ歩いてくる。

 七瀬麻衣と中峰陽子。


(まったく。また怪異に首を突っ込んでるんだもん。危ないって分かってないのかな~)


 月明かりに浮かぶ七色のつぼみ。

 “つぼみ様”――願いを拒まれた者から、いちばん大切な縁を奪う怪異。

 遊び半分で触れるような存在じゃない。


(よりにもよって麻衣ちゃんが選んじゃいけない相手なんだけどな~)



「クラリスお姉さまに認められたい! そのために願うの!」


 花壇の前で堂々と叫ぶ麻衣。


(うわ~、正直すぎる! いや、可愛いっちゃ可愛いけど、怪異の前でそれ言っちゃうんだ~?)


 十二時の鐘が鳴る。麻衣が水を注ぐ。

 けれどつぼみは開かず、黒く濁っていった。


 根が地面を這い出し、ふたりの足を絡め取る。


「ま、麻衣……! 咲かないよ! やばいって!」


 陽子が叫ぶ中、麻衣は必死に声を張り上げる。


「いいわよ、つぼみ様! 奪えるもんなら奪ってみなさい!

 でもね、わたしは“願って”なんていない! クラリスお姉さまに認められるなんて、“勝手に憧れてるだけ”なのよ!」


(……いやいや。そんな屁理屈で怪異が納得するわけないでしょ~)


 けれど、黒い光がわずかに揺らぐ。


(えっ……効いてるの~? 嘘でしょ?)



 でも揺らぎは一瞬。

 根はさらに伸びて、麻衣を丸ごと呑み込もうとする。


(やっぱり。屁理屈で押し通せるほど甘くないよね~)


 わたしは軽く息を吐いて、縁力を紡いだ。

 《縁封結儀》。声もなく、小さく、小さく。

 黒い根を縛るように縁を編み込んで、怪異の力を抑える。


 その上で、心の中で囁いた。


(ねえねえ、つぼみ様? わたしと取引しよっか~。あの子から縁を奪う代わりに、わたしの力を少し分けてあげる。

 それで満足して、帰ってくれないかな~?)


 黒いつぼみが脈打ち、やがてしおれていく。

 納得したみたいに。


 その間も麻衣は必死に叫んでいた。


「クラリスお姉さまに“勝手に想ってる私”を、怪異ごときが消せるもんなら消してみろぉぉ!!」


 ――そして、つぼみ様は光を散らして消滅した。


(……ほんとに消えちゃった。麻衣ちゃん、自分の屁理屈で勝ったって本気で思ってるんだろうな~)



 根から解放され、へたり込む麻衣。

 陽子が呆れたようにつぶやく。


「……麻衣ってさ。ほんとバカなのに……時々だけ、すっごくかっこいいのなんで?」


「ふっふっふ。これが恋する乙女パワーよ!」


「いや、ただの屁理屈だから!」


 わたしは木陰で肩をすくめた。


(ほんと危なっかしいな~。放っておけないんだよね~)



 翌日。

 花壇で手入れをしていると、麻衣がやってきた。

 顔を真っ赤にして、きらきらした目で、もう犬みたいに落ち着きがない。


 わたしは苦笑して、声をかける。


「花壇のお世話、手伝ってくれる~?」


「は、はいっ!!」


 全力で返事をする麻衣を見て、わたしは小さく笑った。


(最悪な対応で最悪な結果を呼びかけて、それでも最後まで自分の言葉で叫んでた。

 ほんとに面倒な子だけど……まあ、可愛い後輩だよね~)


 花壇に風が吹いて、花弁が揺れた。

 わたしは微笑みながら、手元の花を整え続けた。



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