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封縁乙女と学園の呪いたち  作者: コハレルギー
第二章 封縁乙女

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25/50

外伝 つぼみ様と、乙女の屁理屈

「よしっ! 今日こそ努力してクラリスお姉さまに近づくの!」


 朝の寮庭で鼻息荒いわたし――七瀬麻衣。

 ホースを握りしめて花壇に水を撒こうとした、その瞬間。


「ぎゃああああっ!!」


 蛇口が爆発した。全身ずぶ濡れ。花壇どころか自分が水やりされた。


「麻衣、なんで……なんでそうなるの……?」


 呆れ声の親友、陽子。


 でもめげない。授業中、ノートをきれいにまとめてアピール! と決意したのに――。


「ひっ……インク全部にじんだぁぁ!!」


 筆箱の中でインク瓶がひっくり返っていた。


「なんで!? なんでそんなの持ち歩いてるの!?」


 陽子のツッコミが飛ぶ。


 放課後は廊下掃除に励もう! と思ったのに、モップに足を絡めて派手にすっ転んだ。


「いったぁぁ……」

「麻衣……努力って、そういう意味じゃないからね……」



 努力は裏切らない? いいえ、努力はことごとく裏切ってきた。

 でもわたしは知っている。クラリスお姉さまに認めてもらうための近道がひとつだけあることを。


「怪異を、わたしの手で解決することよ!」


「でたぁ……」と陽子が顔を覆う。


「今回は大丈夫! だって“恋する乙女”にぴったりの怪異だもの!」


「……嫌な予感しかしないんだけど」



 旧校舎の東花壇――通称「夢結びの花壇」。

 ここには時折“七色に輝くつぼみ”が現れると言い伝えられていた。


 その名も、つぼみ様。


 夜の十二時ちょうどに水をかけ、願いを唱えると、つぼみが開き、願いが叶う。

 ――ただし、もし咲かなければ。

 最も強く願った縁を代償に奪われる。


 つまり。願い主の“一番大切な誰か”に、忘れられてしまうのだ。



「やばいよ、麻衣。本当にやるの?」


 夜の旧校舎裏、陽子は震えていた。

 でもわたしはキラキラ笑顔。


「クラリスお姉さまに認められたい! そのために願うの!」


「バカすぎる……」


 花壇の奥で、七色のつぼみが淡く光っていた。


「……出た。ほんとにあったんだ」


 十二時の鐘が遠くで鳴る。

 わたしは両手で水差しを持ち、つぼみに注ぎかけた。


 七色の光が一瞬、強く輝く。

 けれど――開かない。


 つぼみは固く閉ざされたまま。

 次の瞬間、色は黒く濁り、根が地面を這い出し、わたしたちの足を絡め取った。


「ま、麻衣……! 咲かないよ! やばいって!」


 陽子の悲鳴。

 わたしの耳に、低い囁きが忍び込む。


『お前の願いは拒まれた。代償として――クラリスとの縁を奪う』


「なっ……!?」


 クラリスお姉さまに、忘れられる?

 それだけは、いやだ。ぜったいに。



「……ふ、ふふっ」


 でも、気づいちゃった。

 これ、とんでもなく矛盾してる。


「いいわよ、つぼみ様。奪えるもんなら奪ってみなさい!」


 わたしは根に締めつけられながら叫んだ。


「でもね、わたしは“願って”ないの! クラリスお姉さまに認めてもらうなんて、“勝手に憧れてるだけ”!

 お願いじゃなくて、ただの妄想と努力なのよ!」


 つぼみが揺れる。黒い光が軋む。


「願ってないのに、その“代償”なんて、取れるはずないでしょ!」


 わたしはさらに叫んだ。


「クラリスお姉さまを“勝手に想ってる私”を、怪異ごときが消せるもんなら消してみろぉぉ!!」


 七色の光が弾け、黒ずんだつぼみは耐えきれず、しおれて消えた。



「……はぁ……はぁ……」


 根から解放され、へたり込むわたし。

 横で陽子が、ぽかんと口を開けていた。


「……麻衣ってさ。ほんとバカなのに……時々だけ、すっごくかっこいいのなんで?」


「ふっふっふ。これが恋する乙女パワーよ!」


「いや、ただの屁理屈だから!」


 二人で声を張り上げて笑った。



 翌日。


「花壇のお世話、手伝ってくれるかな~?」


 振り向けば、絹のような金髪。柔らかな笑み。

 ――K.G.S.部長、桐嶋クラリス聖蘭先輩。


「は、はいっ!!」


 心臓が爆発した。顔が真っ赤になった。

 でも、胸の奥は晴れ晴れしている。


 わたしはもう知っている。

 クラリスお姉さまに認められるのは、願いじゃなくて、妄想でもなくて。


 屁理屈でもがきながらでも、“わたしの足”で近づいていくことだって。


(つぼみ様――攻略完了! 次のクエスト、クラリスお姉さまのハートに挑戦!)


 心の中で叫んで、わたしは全力で緩む頬を押さえた。



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