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「真希さんは花火の仕組みを知っていますか?」
「花火の仕組み?確か花火の玉を筒に入れて、それを着火して空中に飛ばすのよね。それがいい感じの高さまで上がった時にポーンって花火が開くんじゃなかったっけ。」
確か前に『花火職人の技に迫る!』みたいなニュース特集を見たことがある気がする。
「そうです。花火の一番一般的なものは割物と言う種類です。夜空に大きく一輪の花を咲かせる美しい花火ですね。」
「やっぱりあの大きいやつが一番綺麗よね。」
「はい。花火に使われている火薬は2種類、星と割薬です。星は僕たちが花火として見ているキラキラした部分です。割薬は、星を勢い良く飛ばすための火薬ですね。魔物の好物は、この星と呼ばれるキラキラした部分なんです。」
そうなんだ。知らなかった。
でも。なら。
「魔物が開く前の花火のキラキラを食べちゃうのが問題なんでしょう?だったらさっさと落としてすぐに花火を開かせればいいじゃない。」
「これが難しい問題なんですけど、打ち上げのタイミングは上下とも同時じゃないといけないんですよ。でもほら、打ち上げられた花火って花が咲くまで数秒のラグがあるでしょう。下に落とす花火も確かに空中から落下させるはするのですか、そこまで高さのあるところから落とすわけではないので、開くまで数秒のラグがあるんです。その間にささっと魔物が来て、花火玉の中からキラキラした美味しいところだけ食べていっちゃうんですよね。」
いやー、困った困ったと榊原がさほど困っていなさそうな顔で言った。
「なんか囲いをしたりとか、魔物が入れないようにはできないの?」
「そうしてしまうと、花火が広がっていかないので、浄化の作用が薄れてしまうんですよ。それに、地上に落とす直前まで人の流れとかのタイミングを見て決めるので、事前に場所を指定するわけにもいかないんですよ。」
「それも困っちゃうわね。効かないんだったら、落とす意味がないものね。」
いつの間にか真希も真剣に榊原と一緒に考え込んでしまっている。
「でも、そうすると、ただキラキラの浄化ができないっていうだけでしょ。割薬?だっけ。星を飛ばす火薬は残ってるんだから、ドンって音はするんじゃないの?そっちがメインなんじゃないの?」
「それがそういうわけにもいかなくて。確かに真希さんのおっしゃる通り割薬は残るんで花火自体は開くんですけど、そうするともうただの爆発ですね。」
「爆発?」
「はい。ドカンと。大抵はそんなに大きな被害にはならないんですけどね。ちょっと目に砂が入ったとか、スカートの裾がめくれたとか、かき氷を落としちゃったとか、その程度です。」
うーん、それ位だったらしょうがないんじゃないかな。
そう思った真希の心を読んだように榊原が続ける。
「ただ困ったことがありましてね。それを浴びちゃうと不幸になるんですよ。」
「かき氷を落としたりとか?」
まあ子供だったらかわいそうだけど。
「それもありますけど、全体的に不幸になるんです。例えば、志望校に落ちたりとか、プロポーズを断られたりとか、会社をクビになったりとか。」
「それ致命的じゃない、やめなさいよそんなの。」
「そうなんですけどね。でも大抵の場合は、そういう不幸を浴びるよりも浄化のエネルギーを浴びる方が多いから、トントンか、もしくはプラスくらいになるんで、全体的に見れば浄化は成功という扱いになるんですよね。」
「成功なの?それ。変なタイミングで変なところにいたら不幸になるってことでしょ。その割薬をどうにかすればいいんじゃないの?なんでそんな癖のあるモノ入れるのよ。」
そんなロシアンルーレットみたいなこと。いい迷惑ではないか。
「そうなんですけど、これも人間のおかしな、というか不思議なところでね。うーん、何て言ったらいいんでしょう。例えばですけど、誰か偉い人の伝記とかあるでしょう。」
「伝記?自伝とか?」
話が飛んだな。そうだ。この人蘊蓄垂れるのが好きな人だった。
「はいそうです。普通の人だった人がすごい努力をして、ノーベル賞を取っちゃったりとか、大企業の社長になったりとか、そういう話です。でも、もしその人たちが生まれたときから勝ち組で、一度も挫折することなく、負けることもなく、サクサクと人生を進んでいたら、そんな話を読んでもそんなに感動しませんよね。」
「そうね。結局生まれた時から勝ち組かよっていうふうに思っちゃうかもしれないわね。」
「そうなんです。絶対にその人生にはどこかで逆境があって、それを努力とか、仲間の支えとか、運とか、そういったもので乗り越えて、最後に成功するというのが人々が好むサクセスストーリーです。」
「あー、確かに。」
感動モノのお約束だ。