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繁華街を抜けて人の流れに沿って歩いていくと、道の両端に屋台が並び始めた。

「ビール、ビールがあるわよ。飲みましょう。」

「いいですね」


ビールを片手に焼き鳥を食べながら歩く。食べ歩きなんて大人になってから滅多にやらなくなったが、こういうのもたまにはいい。真希はすっかり上機嫌になった。


来てよかったかも。子供の頃のワクワクするような気持ちを思い出す。学生時代は部活帰りに友達とお肉屋さんで唐揚げを揚げてもらって食べながら帰ったなぁ。


そろそろ花火大会の会場に着くという時に、榊原が思い出したように足を止めた。

「あ、そうだ、真希さん。今日は花火が落ちる日ですから気をつけましょうね。」

「は?花火は上がるんでしょ?」

何を言っているんだこいつは、とういう顔で真希は榊原を見た。

「はい。上がる花火があれば、落ちる花火もある。」

榊原がキリッとした顔をする。

「なにいいこと言ったみたいな顔してるのよ。それ普通に事故じゃない。」

「いいえ。花火を落とすのですよ。」

のんびりとした口調で榊原が物騒なことを言う。

「…それはなんでか聞いたほうがいいのかしらね?」

「暑気払いです。あと穢れを落とします。」

「暑気払い?」

「はい。除夜の鐘と一緒です。ゴオンという音を聞くと煩悩が浄化されるでしょう。あと和太鼓とか。振動が体に伝わってくるじゃないですか。」


確かに、あの体の中に響くような音を聞くと、感動するというか、何か大きなものに包まれるような気がして気持ちが良いものだ。


「花火が上がると遅れてドンと言う音がするでしょう。その音を響かせるというのがどちらかと言うと花火を落とす目的ですね。音の振動が届く範囲の穢れを浄化します。」

「そんな効果があったんだ。知らなかった。」

「もちろん、全国すべての花火大会で花火を落とすわけにはいかないんですけどね。いろいろ手間ですから。でもこういった大規模な花火大会では花火を落とすようにしてるんですよ。」

「落とすようにしてるって…もしかしてお仕事?」

もしかして、あの例の夏至の時みたいに何か不思議なことをやってるんじゃないだろうか。

真希は嫌な予感に顔を引き攣らせた。


「はい。夏は蒸し暑いでしょう。だから穢れがどうしても空中に留まって流れていかないんです。だったら花火大会を利用したらいいんじゃないかって言う話にだいぶ前になりましてね。人もいっぱい集まってくるし、大きい音がしても不自然じゃないし、一石二鳥だなぁっていうことになったんです。秋になると秋の涼しい風が穢れを払ってくれるんですけど、それまでの間にどうしてもどこかで突破口を開けたほうがいいんですよね。」


なるほど。やっぱり不思議な話だった。

どうしよう。気になる。すごい気になる。でもなんかこれ以上聞いたら巻き込まれそうな気がする。


「…それは私が聞いてもいい話なのかしらね?」

お願いだ。だめだと言ってくれ。そしてこの話は切り上げてくれ。

「もちろんトップシークレットですよ。真希さんは特別ですからね。」

ハハハと榊原が笑った。

げ。やっぱり。


「そ、そうなの。じゃあこの話はしないほうがいいわね。ほら、あっちにイカ焼きがあるわよ。」

話を無理矢理逸らそうとした真希だっが、榊原は深刻そうな顔をして頭を振った。

「それが今年はちょっと大変なことになってましてね。」

真希はそれには返事をせずに、ぐいぐいと榊原の袖を引っ張っているのだが、ピクリともしない。さすが鋼の体幹。

「ほら、今年は花火大会が久しぶりのところが多いでしょう。だから魔物がエキサイトしちゃって。」


出た。魔物ネタ。


「上に打ち上げる花火は普通の花火なんですよ。僕たちがやっているのは、それと同じタイミングで地上に花火を落とすことです。上に打ち上がる花火と全く同じものを。そうすると地上の花火がパッときらめいて周辺を浄化して、さらに同じタイミングでドンと音がするので、それでも浄化して、ダブルの浄化力なんです。」

「洗濯洗剤か。」

真希は思わず突っ込んでしまう。


「で、これが困っちゃうんですけど、下に落とす花火のキラキラしたところが魔物の好物なんですよ。昔は地味な花火しかなかったからそんなに美味しくもなかったんですけど。今はどんどん派手に繊細になっていってるから、込められる魔力も大きくなって、美味しくなってきたんです。」

「じゃあ地味な花火を落とせばいいじゃない。」

やばいダメだ。これ以上聞いてはだめだと思うのに、榊原の話術についついはまってしまう。


「いえ、上に上がる花火と、下に落とす花火は対でなければいけません。そうすることで自然に溶け込むことができるのです。」

「でも待って。そんな、地上に落ちる花火なんて見たことないわよ、私。」

「あ、キラキラは普通の人には見えないんです。でも真希さんも魔安に入れば見れるようになりますよ。入ります?」

榊原がずいっと身を乗り出した。

真希はそれには答えずに続ける。

「うーん。それは困ったわね。でも、魔物は火傷したりしないの?花火が開くって結局爆発するってことだし。」

「いえ。爆発する前の花火のキラキラを食べるんですよ。」

「爆発する前?」

「そうです。花火の玉からキラキラした部分だけを抜きます。」

ええ。そんな器用なこと。

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