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——ぶぅぅぅぅ!

象のお尻から勢い良く風——正確には風ではないが——が吹いた。

「わー、臭い!」

思わず顔を背けた真希の所に、火のついた輪投げが勢いよく落ちてきた。

「真希さん!」

輪投げに捕まりそうになる瞬間。

榊原が真希を胸の中に抱え入れた。


「大丈夫ですか?」

榊原の息が乱れている。真希は榊原の胸に顔をぎゅっと押し付けられた。胸元からは、ドキドキと榊原の心臓が脈打つのが感じられた。

かぁっと顔が赤くなる。

「だ、大丈夫よ。もう離して。花火をどうにかしないと」

「花火なんてどうでもいいです。あんまり無茶しないでください。心臓が止まるかと思いました。」

「そんな大げさな」

「大げさじゃないですよ。あんなに魔術を重ねて火をつけた輪投げに捕まったら、真希さんの体なんて焼け焦げてしまいます」

「え、そうなの?」

「そうですよ。ちゃんとに説明しなかった僕が悪いですけど…でもまさか輪投げを重ねるなんて思いもしなかったので。もうおしまいです。」

「でも!」


2人が話してる間に、象は悠々と花火の玉を食べると、お尻から真っ黒に変色した物体をコロンと出した。


——ブォワ!


耳障りな音とともに花火が爆発した。


「臭い!」

あたり一面が異臭に包まれ、観客がざわつきだした。

「なにこれやばくない?ガス漏れ?」

「ていうかテロじゃない?」

「うちの父ちゃんの屁にそっくりな匂い!」

「あんた変なこと言うんじゃないわよ!」

「でも、母ちゃん!父ちゃんの屁にそっくりなんだってば!」

「いいから!行くわよ!」


「…どうするのよこれ。」

「こういう大きい魔物は通常3人以上の職員が処理する担当ですから。僕たちの手に負えるものではありません。」

「そうかもしれないけど…」

「もう輪投げはおしまい——」

「待って、待って!気をつけるから。もうちょっとやらせて、ね?」


まだ榊原に抱え込まれたままの真希は上目遣いで榊原を見た。

決して意図的にやったわけではない。榊原が離してくれないのだ。

榊原は表情が読めない顔をしている。


「はあ」

根負けしたらしい榊原がため息をついた。

「分りました。でも、もう火は使っちゃダメですよ。真希さんに何かあったら真希さんのお父様とお母様に顔向けができません。あ、そうだ。今度ご挨拶に——」

「わかった!ありがとう!」

榊原がこれ以上何か言わないうちに、真希は榊原を軽くハグすると次のターゲットに目線を動かした。


やっぱり初心者の私は猿が限界なのかしらね。悔しいけど、自分の力量をきちんと測れない人間は、勝負の世界では既に負けているのだ。


「もう火は使っちゃ駄目なのよね」

チラチラと真希は榊原の方を見た。榊原はこればっかりは譲れないと言わんばかりに口を一文字に結んでいる。

「でもほら、やっぱり銭形のおじさんみたいにパシッと捕まえたいじゃない。和紙だとどうしてもふわふわしてるっていうか」

そう言いながら、真希は足踏みをしたり、キョロキョロと次のターゲットを探したり、せわしない。


「しょうがないですね。僕も大概、真希さんに甘い」

榊原は苦笑しながら真希の巾着から何かを取り出した。

それ、私の巾着——

真希がそう言おうとする前に、榊原は真希の目の前についっと白い何かを差し出した。

「何これ?」

真希はそれを指でつまんだ。

小指の長さほどある細長いそれは、ふわふわと柔らかく、そして…

「…動いてる?」

真希は首を傾げた。

「奥の手です。及川くんにはナイショですよ」

榊原はシーっと指を口の前に持ってきた。

「奥の手…」

コレが?と真希は榊原を見た。


「翼を授けましょう」

榊原は厳かに告げた。

「翼?」

「はい。これは天使の翼です。これを輪投げつければ、」

そう言って榊原は、輪投げの元に天使の羽を二つ付けると、ぐいっと輪投げを広げた。

「さあ、これを飛ばしてみてください。真希さんは目がいいから見えると思いますけど、あそこに猿が言えるのが見えますか?」

榊原が指さしたのは、50mほど離れた上空をふわふわと浮いている風船だった。

風船にぶら下がった猿がご機嫌そうに踊っている。

「あれはちょっと遠いんじゃないかしら」

「大丈夫ですよ。翼が付いていますから」

「そう…?」

榊原がそう言うのなら、と真希は思いっきり輪投げを投げ飛ばした。


——シュッ!!

真希が輪投げを手放した瞬間、羽が勢いよく羽ばたいて、あっという間に猿を捕まえてしまった。

「すご」

「すごいじゃないですか真希さん。さすがです」

パチパチと榊原が拍手をした。

「なんで今まで出してくれなかったの!」

「これはコントロールが難しいですから、まさか僕も真希さんがこんな短期間で輪投げを使いこなすとは思っていなかったので。これは最終兵器ですよ。いいですか、勢いをつけすぎると危ないですから、慎重に使ってくださいね。」

「わかった。」

真希は神妙な顔をしてうなずいた。


——シュッ!!

——パシッ!


「すごい捕まる。これ面白い!」

猿の魔物はびっくりするくらい簡単に捕まるようになった。

百発百中。これが本物の輪投げだったら、真希は賞品女王間違いなしだ。

水分補給もバッチリの真希は、また花火会場を駆け回った。

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