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…でもこれ…


榊原から手渡されたものは、輪投げというには少々サイズが小さい。

「何これ、ヘアゴムじゃない。」

真希はその輪っかを指でつまんでみた。自分で好みの長さに切って輪っかを作るゴムではなくて、既に輪になって売られている既製品のヘアゴムにそっくりだ。

「そう見えるんですけどね。」

榊原は得意げに笑った。

「ちょっとこれ引っ張って広げてみてください。」

「引っ張って広げればいいの?」

真希は、その輪っかの両端を持って伸ばしてみた。すると、それはぐいっと伸びて手のひらと同じくらいのサイズになった。

「何これ面白い!」

「そうでしょう。」

「しかもこの触り心地。ゴムっていうよりも紙に近い気がする。」

「そうなんですよ。さすが真希さんお目が高い。これはですね、和紙で作ってるんです。」


そういえば、この少し引っかかるようなザラザラとした触り心地は、言われてみれば和紙に近いかもしれない。これだったら万が一、人に当たっても痛くはないだろう。…かなり迷惑ではあるだろうけれども。


「京都の老舗の和紙専門店で特別に作ってもらってですね。」

真希の関心を惹けてうれしいのか、榊原はニコニコしながら続けた。

「榊原、お前そんなことしてるのか、だから開発部がいつも金欠なんだぞ。」

及川が突っ込んだ。

「まあまあ。いいじゃないですか。見てくださいこの繊細な模様。」

榊原が示した所をよく見ると、確かにヘアゴムと同じくらいの太さの輪に精密な模様が書かれている。

「わーすごい綺麗。繊細ね。」

「そうでしょう、そうでしょう。職人さんが一つずつ手作りしてますからね。一品ものです。大量生産はできないんですよ。」

「すごい!」

「だからか榊原!開発部からすげえ額の請求書が回ってきてたんだぞ。何かと思ったら、やっぱりお前のせいか。」

及川が頭が痛いというふうに額を抑えて嘆いた。

真希は大変そうだなとは思うが、所詮は人の会社のこと。深くは突っ込まないでおく。


「これをどうすればいいの?」

「それはですね、こういうふうに。見ててくださいね。」

榊原はもう一つ輪投げの元を浴衣の胸元から出すと、輪をギュッと広げた。そしてまだ頭を抱えている及川の頭の上にひょいと放り投げた。すると、頭よりも小さかったはずの輪投げがふわっと広がって、スイスイと及川の胸元を通過し、腰のあたりでギュッと締まった。ご丁寧に、両手も一緒に縛られている。

「ぎえっ!」

いきなり縛られた及川は潰れたような声を出した。

「こういうふうにするんですよ。」

「すごいわね。まさにお縄ちょうだいだわ。」

「いてて、さっさと離せ、榊原!俺を実験台にするんじゃねえ。」

「まあまあ、こういうデモンストレーションも大切ということで。魔安の啓蒙活動ですよ。一般の方にもわかっていただかないとね。」

「俺たちは秘密裡に行動してるんだ!お前本当に気をつけろよ。いつも言ってるだろうか!」

どうやらこの男は榊原にだいぶ振りまわされているらしい。かわいそうに、真希はそっと及川に向かって手を合わせた。


でもそっか、私だけが振り回されてるわけじゃないのか。真希は少し心が軽くなった気がした。

少しの同情と少しの共感と思いやりと慈しみを含めて、真希は男に向かって微笑んだ。


「…ちょっとあなた、なんですかその目は?同情ですか?同情するなら、金はいらないから榊原を何とかしてください。」

「いえ、とんでもございません。部外者の私が、そんな差し出がましいこと。」

おほほと真希は優雅に笑った。そんなことしている間に、及川はナイフを取り出して輪投げを切ったらしい。

「全く。ふざけるのもいい加減にしろよ。時間をだいぶロスしちまったじゃねえか。」

「大丈夫ですよ。僕の真希さんがこれから挽回しますから。」

「…本当にやるのか。」

及川は不安げに真希を見た。

「準備万端です。榊原さんとは全くの無関係ですが、準備万端です。」

輪投げを宙に向かって投げる成人女性ってどうなんだろう…いや、でも、制服姿の成人男性が虫取り網を振り回してるよりはよっぽどマシだろうと真希は結論付けた。

及川は諦めたようにため息をついた。

「わかった。じゃあ榊原のことはあなたに任せますから、こいつが変なことをしないように見張っててください。」

「わかりました。」

やはり榊原の信用はだいぶ薄いらしい。榊原はそれを気にも留めてないというふうに、相変わらずの笑顔で二人を見ている。


「俺は行くからな。任せたからな。」

「はい。ありがとうございました。」

真希はにこやかに手を振った。

「さあ榊原さん、行くわよ。」

「はい、どこまでもお供します。」

そう言って榊原は胸元から輪投げの元を大量に取り出した。


ではいざ神妙に

猿の捕獲作戦開始!

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