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第1話 転生

 それは、早朝のとある一室にて。



「はい、今日はこの服着てみてね。絶対に似合うわ」

 満面の笑みでルンルンな彼女―エリアリーゼ・グランブルクは言った。見た目は幼いがかわいらしい少女は手に小さな服を持ちながら、目の前にあるぬいぐるみを着せ替え人形にしていく。

「うん、かわいくなったね」

 自分の出来栄えに満足した様子になるが、ぬいぐるみの表情は微妙に変化する。しかし少女はそのことには気づいたそぶりもなく、変わらずほかの服を持ってくる。





 ぬいぐるみはどこか忌々し気に天井を見つめる。

(どうしてこんなことになったんだ?)





 ぬいぐるみは自分の今の状態を嘆くも、目から涙は出てこない。

(約束が違うじゃないか、女神様!)





 ぬいぐるみは叫ぶ。もちろん、少女には聞こえていない。声には出していないからだ。






 何が起こったのかというと少し前にさかのぼる。


 俺は普通の男子高校生だった。クラスではあまり目立つ方ではなく、静かに教室の片隅にいるタイプだ。

 この時もお気に入りの小説の続編を買いに本屋へと足を運んでいた。ちょうどその時だ。

 一台の車が信号を待っている女子高生へと近づく。おそらく居眠り運転だろう。しかし、スマホに夢中になっている彼女は気づくそぶりもない。

「危ない!」

 これはまずいと思いとっさに彼女を手で押しのけた。




「う~ん、ここはどこだ?」

 気が付くと暗い部屋の中で華やかな椅子に座っていた。ここは病室なのか?死んだのか。

「残念ながらあなたは彼女の身代わりに死んでしまいました」





 突然の声にからだがびくりと動き、声がした方を見るとそこには光り輝く綺麗な女性がいた。明らかに人間ではない。背中にはおとぎ話に出てくるような大きな白い羽が生えている。

「初めまして、私の名前はアリス。女神です。」

 穏やかな口調の女性には清らな微笑がとても似合っていた。

「あなたは不幸にも、亡くなってしまいました。私の力であなたを異世界に転生させましょう」

「異世界って本当にあるのか!?」

 唐突な発言に男は驚く。

「はい。魔法などがあり、地球とは違う発展をしています」

 男は長き苦行の果てにたどり着いたオアシスでも見つけたかのような表情でアリスを見る。

「あなた方の世界で言われるチートというものもできますよ?」

 どこまで至れり尽くせりなのだろう。

「おお!それでお願いします」

「わかりました。では魔法適正は全属性にしますね。転生先はこちらで決めさせてもらいますが、不自由しないところにしましょう。それと言語が違うので大変でしょうから翻訳のスキルもつけておきますね」

「何から何までありがとうございます」

「少しでも異世界を謳歌してほしいのでサービスですよ?」

 いたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

 かわいい。


「では軽くですがどのような世界なのか、軽く話しておきますね。あなたが転生する世界は魔法だけでなく魔物や魔王もいます。魔法は火、水、地、風、光、闇、そして無属性の七属性あります。すべての属性の適性を付けますが器用貧乏にならないように注意してくださいね」

 魔王もいるのか。

「ですがご安心ください、基本的には魔王などが来ることはありませんので」

 心を読んだのか、安心させるように微笑む。

「それでは準備ができたので異世界に送ります。あなたのこれからの人生に幸あらんことを」

 身体が光に包まれた。

 男は異世界に転生することに胸が高鳴っていたため、女神の笑みが先ほどまでと違っていたことに気づくことはなかった…。


 ああ、ついに俺は異世界に転生するのか。

 どんな両親なのだろう。

 できればかわいい幼馴染がいたらいいな。

 男はこれからの第二の人生を思うと楽しみでいっぱいだ。

「なんだ…?これ…」

 突然眠気に襲われ意識を手放す。


「ほ…リア…おた…おめでとう」

 ついに転生したのか、目を開けるとそこには透き通るような青い瞳のお人形のようにかわいい女の子がこちらを覗いていた。髪は金色で長く、瞳の色も相まって少女に可憐な印象を与える。

「うわー、かわいい!お父様ありがとう」

「そんなに喜んでもらえてうれしいよ」

 少女は嬉しそうに隣にいるダンディーな見た目の男に抱き着く。瞳の色も少女と同じで少し似た顔立ちなので父親なのだろう。ということはこの少女は俺のお姉ちゃんとなるわけか。

「ほら、持ってごらん」

 父親はそう言うと、俺をつかみ少女に手渡す。

(おいおい、赤ちゃんとはいえ持てないだろ)

 さすがに危険だと不安に思いながらも静かに見守っていると少女はゆっくりと持ち上げる。

「お父様ありがとう」

 持つことにしんどそうな様子もなく軽々と持ち上げる。

「大切に扱うのだよ?では私は仕事に戻る」

「…はい、お仕事頑張ってね」

「ああ、ありがとう」

 そう言い放ち父親は部屋から出て行った。少女の顔は先ほどまでと比べどこか暗い表情へと変わっていた。

 置いていくのか?それよりも扱う?疑問に思っていたら俺を抱いたまま鏡の前へ行く。身だしなみを整えるためだ。

 そこには女の子が一人とその腕の中には一匹がいる。二人ではなく、一人と一匹だ。なぜこのような数え方になるのか。理由は簡単だ。それは女の子の腕の中には人間野赤ちゃんなどいないからだ。そこにはすっぽりとおさまっているモフモフなクマさんのぬいぐるみがある…。






(え?どういうこと?これが俺?あんなにかっこよかった(自称)俺の面影が一切ない、それどころか人ですらなくなっているだと!?)

『ごめんなさ~い。間違ってくまさんに転生させえしまいました』

 自分の現状に思考が追い付かないでいると、頭の中に声が聞こえてくる

『一体どういうことですか!?』

『人に転生させるつもりがぬいぐるみに転生させてしまったみたいです。メンゴ♪』

 女神様はあっけらかんと笑い飛ばす。

『キャラ変わっていません!?』

『これが素の私ですよ。先ほどは猫をかぶっていただけに決まっているじゃないですか~。それよりも能力はきちんと全属性の適性があり、お詫びとして鑑定というスキルもつけたので異世界生活楽しんでくださいね~。それでは!』

 そう言い終わると同時に通信が途絶えた。まるで悪びれもせずに返事がなくなる。

 マジかよ…。

 放心状態になりながらこの女の子に抱きかかえられるのだった



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