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聖女の代理人  作者: 春香秋灯
最果てのエリカ
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大好物のリンゴをくれる人

 実はリンゴは大好物。季節によっては高級品となるので、リンゴは大切に保管している。

 が、年中ゲットできるのは、王侯貴族か、魔法使いであろう。


 聖域がいつもよりも騒がしいような気がして、私はお勤めでもないのに、聖域のほうへと歩いていった。

 小屋から畑、果樹園、森林の中心に聖域がある。聖域は別に誰でも入ることは出来る。聖域に悪さをされれば、何かが起こるらしいので、お勧めはしないが、悪い人はいる。

 聖域近くには、何かよいものがあるらしいので、盗賊などがやってくることがたまにある。

 百年に一回あるかないか、だけど。

 それくらい珍しいことが起こった時は、盗賊の命の保障はない。だいたい、エリカ様が見つけた時には、目もあてられないような状態となっているらしい。見たことないけど、先代エリカ様は見てしまったらしい。

「たまにバカなのがいるんだよ。聖域から持ち出して、金儲けしよう、なんてヤツもいる。けど、聖域、とついたものを売ると、すぐ牢屋行きだよ。それ以前に、無事、聖域から出ることは出来ないけどね」

 こわっ。そういう恐ろしい所の守り人をさせないでほしい。


 この日も、そういう類がいるのかな、と思って見に行ったのだが、聖域より手前の所で、狩りをしている若い男だった。

 手に、美味しそうなウサギを持っていた。私に気づくと、何故か、かばんに手を突っ込む。

 武器でも取り出すのか、と身構えていると、リンゴだった。

「これをやるから、黙っててくれ」

「これはなかなかよいワイロですね。でも、ここは狩り禁止ではありませんので、気にしないでください。奥のほうの聖域は、ダメですよ」

「そうなのか。ここに入る前に、村人がダメだって、注意していたが」

「聖域に近いからでしょうね。聖域に近づきすぎると、ちょっとイヤな感じになるそうですから、それより奥にいかなければ、大丈夫ですよ。ではでは、これで」

「待て。リンゴをあげよう」

 さっさと戻ろうとする私の手に、リンゴをおしつけてきた。

 美味しそうなリンゴだ。でも、ワイロのようなものだ。悪いことをしては、聖域が汚れてしまう。でも、美味しそう。

 リンゴを持って、葛藤していると、男は声を出して笑った。

「はははは、そんなに好きなら、また、持ってきてやるよ」

「あ、いえ、好きですけど、ワイロはダメです」

「あんたはリンゴが大好きだ。リンゴをあげたら喜ぶ、と言ってる」

「誰がですか?」

「………」

「誰もいませんよ」

 もう一人、誰かいるような言い方に、私は気持ち悪いものを感じた。

 それでも、男はさらに狩ったばかりのウサギまで押し付けてくる。

「ともかく、やる。ほら、このウサギもやる。それ持って、まっすぐ帰れ」

「だから、ワイロはダメなんです」

「ワイロじゃない。アンタに会いに来たんだ。アンタに会えてよかった。また、明日来る」

 押し付けるものを押し付け、言いたいことだけ言って、男は走り去っていってしまった。



 怪しいリンゴは私が、ホカホカのウサギは孤児院に下げ渡した。



 聖域のほうが毎日、騒がしくなってきた。騒がしくなると、男がやってきた。もう、私は見に行かないので、男のほうからやってきた。

 だいたい、人が来ない時間帯に男はやってきた。

 勝手にやってきて、畑の手伝いをしてくれる。水くみをしてくれる。色々と手伝ってくれる。

 男が来ると、何故か、誰もやってこない。断絶されたような静けさになる。違和感ばかりだが、来るもの拒まずがエリカ様である。

「いつまでこちらにいるのですか?」

 いつものリンゴと獲物を頂戴してから、疑問に思っていたことを口にする。

「いつまでも居たいな。ここは、心地よい」

「あなたは、魔法使いなのですか?」

「俺は、帝国の魔法使いだ。ちょっと秘密の人探しをしている」

「それで、ここに?」

「そう、言われた通りに来たら、アンタがいた。俺の人探しはここで終わりだ。帰りたくねぇ。ここは、むちゃくちゃ気持ちいい」

 いい歳の大人が、地面にゴロゴロと転がる。


 これは、とてもまずいことになった。男が帝国の人だとは知らなかった。


 私が暮らす王国の東の海を越えたところに帝国がある。その帝国は、ともかく豊かで武力も強い。皇族自体が神格化されているため、民による忠誠心が狂信者並だと言われている。

 はるか昔、王国と帝国は仲良くしていた。しかし、帝国の姫を酷い扱いをしたため、帝国を怒らせてしまい、国交断絶となった。

 帝国からの支援を失った王国は、長年、本当に大変だったらしい。

 それから百年か二百年か、もうちょっと経ってから、帝国の怒りが解けたようで、国交再開となった。だが、帝国の民は皇族の姫に行った非道を忘れていないので、王国としては、誠心誠意、気を付けている。


 帝国の秘密の人探しは、とても気になるが、トラブルしかない。


 私の不安など、男は気にしない。地面に大の字になって、空を見上げた。

「アンタ、すごいな。こんな聖域は初めてだ」

「私はいつもこうなので、普通だと思いますよ」

「知ってるか。帝国にも聖域があるが、数はすごいぜ。聖域は十個もあるが、こんな綺麗じゃない。皇族が儀式をしたって、ちょっと綺麗になるくらいだ」

「帝国では儀式があるんですね。今度、教えてくださいよ、ぜひぜひ、王国に教えてください」

「教えるわけないだろう。大昔の王国の神官は、知ってたのに、記録全部燃やしたんだぜ。根っこが腐ったトコに教えるわけないだろう」

「大昔のことは知りません。でも、今はそういうわけではないです。きちんとしますので、教えてあげてください」

「………上官に相談してみる。じゃあ、今日で、さよならだ」

「あの、戦争はダメですからね。平和にいってくださいね」

 とても偉そうなので、私は不安になった。大丈夫だろうか。

 いつもはリンゴ一個だが、最後だから、とカバン一杯のリンゴをカバンごとくれた。

「ここから離れるなよ」

「私は死ぬまで離れられませんから、大丈夫ですよ」

 そうして、男は最後まで名乗りもせず、風とともに消えていった。

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