もう一人の妖精憑き
「それは、本当ですか!?」
アインズ様も知らないことだった。
「んなバカな!? 母ちゃんも父ちゃんも、そんなこと、アタシには言ってない!?」
アタシも知らない。母ちゃんは、アタシが妖精憑きだ、といつも言っていた。妖精の姿を見ることも、声を聞くこともなかった。
「男爵家は、遠い昔は帝国の皇族の血筋なのは、ご存じですか?」
「実は、それも知らない」
「アタシは、母ちゃんから聞いてる」
「遠すぎて、ということもありますが、男爵家は、元を辿れば侯爵位だったこともありました。ただ、人が良すぎて、何度も騙され、借金を抱えさせられて爵位を落とし、ともかく人が良すぎたので、男爵位から落ちるか落ちないかというところに留まってしまいました。本来なら、平民落ちしていてもおかしくないのですが、男爵家の領地はともかく潤っていますので、貧乏男爵家でとどまっていました。
今も、私は騙されて、借金の保証人となり、借金した奴は逃げて、私が借金とりに追いかけまわされています」
人が良すぎるにも程がある。
「そんな性格だからかもしれません。妖精憑きがよく生まれますし、妖精憑きのことの詳しい資料もたくさんあります。子どもが生まれると、子どもの様子を良く見るようにしています。そうしていると、時々、見えない友達と話したり、見たりしている子どもがいます。その子は、間違いなく妖精憑きでした。
ところが、リリィは普通の妖精憑きとは違いました。リリィは、見えない友達と話したり、見たりしていません。普通に領民と遊んでいます。妖精憑きではないだろう、と両親も判断した頃、リリィが崖から落ちた、と子どもたちが大人を呼びに来ました。
慌ててリリィが落ちた崖を見てみれば、落ちたら大人でも助からない絶壁の下には、岩肌が広がっていました。
そこに、リリィが崖から落ちる原因だった岩肌にあった花を持って、笑って手を振っていたんです。子どもたちがいうには、リリィは落ちたのは確かだが、空を飛ぶようにゆっくりと降りていったそうです。そして、戻れなくなったので、大人を呼んでほしい、と頼まれたそうです」
「「………」」
アタシもアインズ様も、どう答えればいいのかわからなかった。驚いたというか、呆れた、というか。
その光景が目に浮かぶようである。そして、ふと、母ちゃんのことを思い出すことがある。
「そういや、母ちゃんが恨んでる伯爵令嬢はどうなっただか? 母ちゃん、そうとうなこと言われたって、怒ってただ」
「あれですね、その伯爵令嬢を怒らせて、男爵家が落ちぶれさせられましたね。けど、伯爵令嬢の家は、もう没落しています」
「なんで、母ちゃんは怒ったんだ?」
「リリィは、かなり真っ直ぐなんです。。リリィは、ダンと結婚して平民になる、と自慢したんです。それを伯爵令嬢にバカにされて、手をあげたんです。今でも覚えています。『ダンをバカにする、あの女が悪い!』て反省も謝罪もしなかったリリィの姿を。結果、権力と金の力でもって、男爵家を一度は没落させられたのですが、伯爵家はその後、不良債権をいっぱい出して、汚職も表も出されて、一カ月も経たないうちに没落しました。真に恐ろしいのは、リリィだと、家族全員で思い知らされました」
「それって、妖精がやったのか?」
「リリィが願えば、全て叶います。心をこめて口にしたことは、全てです。リリィがダンと結婚したい、と言えば、どうせ叶うので、誰も反対しませんよ。ダンをバカにした伯爵令嬢を許せない、と言えば、伯爵令嬢は無事では済みません」
無自覚な妖精憑きほど恐ろしいものはない。見えないし、聞こえないし、自分が妖精憑きだと知らないので、母ちゃんは全く気にせず願いを叶えていた。
なのに、呆気なく村人に殺された。不思議だ。
「資料を調べてわかったのですが、リリィは、妖精にものすごく好かれる妖精憑きでした。妖精は、リリィのことを一方的に好いているだけで、リリィは力がなかったので、本当に一方通行だったようです。リリィには、間違いをおかさないように、家族総出で正しいことを教えたのですが、伯爵令嬢のことは気の毒でした。しかし、仕方ありません。リリィは、自分のことはバカにされても気にしませんし、なかなかすごい嫌がらせも受けていたそうですが、ダンのことだけは許しませんでした。男爵家が落ちぶれた時、伯爵令嬢がその姿を見にわざわざやってきた所を見て、つかみかかりました。護衛たちに殴られても、リリィは伯爵令嬢に謝罪しませんでした。リリィは、ダンのことを本当に愛していましたから、我々の前から姿を消してしまいました。
リリィがいなくなった時、実はダンは置いていかれたんです。ダンはリリィを一人に出来ない、と追いかけていきました。リリィが本気になれば、絶対に誰にも見つからないので、家族は諦めていましたが、ダンはリリィを見つけました」




