王都からの使い
しばらくは、田舎の生活を満喫していたが、いつまでも、そういうわけにはいかなかった。
今回の偽エリカ様騒動もそうだが、金の横領もあり、昔の殺人まで出てきてしまい、王都から役人数人と、アインズ様がやってきた。
「エリィ様、お久しぶりです」
「様なんていらねぇ。アインズ様、お手柔らかにおねげぇしますだ」
「………」
ダメらしい。
過去のことだから、アタシは掘り下げたくなかった。ずっと、ここで生活するつもりだったし。
「エリィ様のお母様の男爵家なのですが、再興されています」
まずは、良い話から、ということで、母ちゃんの実家について教えてもらった。
母ちゃんの実家は、酷い裏切りで、落ちぶれてしまった、という話は聞いていた。それから、どうなったかというと。
「遠縁のリスキス公爵家が権力にものをいわせてたそうです」
「わかりやすいなぁ」
学のないアタシにあわせて、わかりやすく説明してくれた。
「元気にやってるなら、ええ」
「男爵家としては、エリィ様を引き取りたい、と言っていましたが、たぶん、エリィ様はそれを望まないでしょう。ですから、会って話すだけ、という約束で、今日、連れてきました」
「それで、妖精たちが煩いのか」
遅れてきた豪華な馬車が小屋の外で停まっていた。そこに、妖精たちがずらりと囲んでいた。
『久しぶり! なぁんだ、年よりになっちゃったね』
『人間って、本当にすぐ老けちゃうね』
たぶん、母ちゃんについてた妖精たちだろう。口々になつがしがっているが、誰も聞こえていない。
馬車から、たぶん、母ちゃんの兄ちゃんらしき同じ目と髪の色を持ったおじさんが降りてきた。
アタシを見て、おじさんは、驚いた。
「リリィにそっくりだ。ああ、リリィの娘に間違いない! エリィ、抱きしめていいですか?」
「ええよ」
貴族はきちんと許可をとらないと、抱きしめることも出来ないらしい。アタシが許可すると、だっと走って、抱きしめてくれた。
いろんな男に触られたけど、このおじさんには、イヤなものが何も感じなかった。
王族もいる、ということからか、それとも、それが普通なのか、外にテーブルと人数分の椅子が用意されて、そこに、アタシとアインズ様、そして、母ちゃんの身内のおじさんが座った。
まだ、感動しているのか、おじさんは泣いていた。
「すまない、私は涙もろくて、いつもリリィに笑われていた」
「母ちゃん、そうなんだ。アタシ、もう、父ちゃんのことも母ちゃんのことも、そんなに覚えてねぇんだ」
生きるのが大変で、過去の楽しいことなど、思い出す暇がなかった。いつもリクのことが心配で、リクだけのことを考えていたこともある。
まだ落ち着かないおじさんは、流れる涙をハンカチでおさえながら、母ちゃんと父ちゃんのことを話してくれた。
「我が家は貧乏男爵で、男爵家を継げるのは、私一人だった。他は、市井に落ちるしかなかった。リリィも、貴族の学校には行ったが、将来は、君の父親と結婚して市井に落ちることを夢見ていた。リリィは、君の父親ダンのことを心の底から愛していて、家族みんな、領地民も、祝福していた。ただ、リリィには、大きな問題があった。
リリィは、妖精憑きだった」