帰郷
アタシを殺そうとした村人たちは、最果てのエリカ様の手によって、厳しい罰を与えられた。やっぱり、許してくれなかった。
最果てのエリカ様はとっても忙しい。何をやろうとしているのか、妖精たちがアタシに教えてくれた。
「なあ、アタシも手伝おうか? ほら、妖精憑きなら、一人より二人のほうが、楽だろ」
「こぉんなにいっぱい酷い目にあったあなたを道連れになんて、出来ません。これから、うんと幸せにならなきゃ。私の分までいっぱいいっぱいに幸せになってね」
助け合うことは当然だと思ったが、最果てのエリカ様には強く拒否された。
せっかく会えたのに、残念だけど、仕方がない。アタシと最果てのエリカ様はそこで別れることとなった。
アタシは、やっと自由になったので、おばちゃんの約束通り、リクと村へ帰った。
遠いかと思ったら、すぐ隣りの村だった。子どもの頃は村で過ごし、大人では山賊に囲われ、それから村人によって偽エリカ様として囲われていたせいで、世界が狭いことに気づかなかった。
大きくなって戻ってきたアタシとリクを村の人たちは歓迎してくれた。おばちゃんは泣いて喜んでくれた。
夜は、おばちゃんの家で過ごした。
「すっかり大きくなったら、服も作らないといけないねぇ」
「いっぺぇあるから、大丈夫だ。それより、おばちゃん、力仕事なら、アタシが手伝うだ」
すっかり老けたおばちゃんは、一人で家のことをしているので、心配になった。
皺も増えた顔に笑顔を浮かべて、おばちゃんは首を横にふった。
「エリィは不器用だから、なぁんもしなくてええ。あ、珍しい木の実をとってきてくれりゃ、十分だ」
「わかっただ」
夜には、リクは男衆が集まる小屋に行ってしまった。夜はおばちゃんと二人で過ごした。
「エリィはずっと、ここにいればいい」
「リクな、アタシのせいで、子どもつくれなくなったんだ。おばちゃんに孫抱かせてやれなくて、ごめん」
「エリィは慰み者にされて、子どもは出来なかったのかい?」
「んー、まあ、色々とあるよ」
誤魔化した。妖精の力で、そういうことが起こらないようにしてもらっていた。力使っちゃダメだって、言われてたけど、子どもが出来てたら、どんな目にあわされるか、わかったものではなかった。
夜が明けると、アタシはいつもの習慣で早起きして、山を上った。もう、聖域に行く必要がないのに、体を動かさないと気分が悪くなった。
おばちゃんのために、山の実りを背負った加護にいれながら歩く。
しばらく歩くと、小さな山小屋を見つけた。
「こんな近かったかぁ」
子どもの頃、一生懸命探しても見つからなかった山小屋は、大人の足で簡単に行ける所にあった。
中は、もう、なにもない。父ちゃんの手作りだけど、建て方が良かったのか、まだまだ住めそうだった。
「ただいま、父ちゃん、母ちゃん」
『おかえり、エリィ!』
『待ってたよ!!』
山小屋の中は、幼い頃に別れた妖精たちが飛び回っていた。埃とか、そういうものは、妖精たちが掃除してくれていて、いつでも住めそうだった。
『あれ、エリィ、もう、こんなに大きくなったの?』
『人間って、すぐに大きくなっちゃうね』
『おや、聖域の妖精じゃん』
『こんにちは』
一気ににぎやかになった。
山小屋から麓の村に戻れば、すっかり元の村人になったリクが、ほかの幼馴染みと狩りに行くところだった。
「エリィ、でっけぇの、とってくるからな!」
「ああ、待ってる」
『大丈夫だよ、僕たちがついてるから』
『リクは、獣なんかにやられないからね』
『人間だって、吹き飛ばしてやる』
妖精たちは、リクのまわりをぐるぐると飛び回った。
きっと、父ちゃんと母ちゃんみたいなことは、リクには起きない。




