最果てのエリカ様
「なんでこう、海と山は、問題ばかり起こすのでしょうねぇ」
「ありがとうございます、エリカ様」
どこか品のある女の人の声と、リクの声が聞こえる。
頭がとても痛い。目を覚ましたけど、世界がグラグラして、目がまわった。
「あ、目を覚ましましたか。頭、痛いですよね。無理に起きなくていいですよ」
「ものすげぇべっぴんさんだぁ」
「あなたも、とても綺麗ですよ。さすが、男爵家の血筋ですね。磨かなくても、男を狂わせます」
「エリィ、間に合ってよかった」
天井の高い、豪華の部屋にいた。ベッドも沈むようにふかふかだ。
アタシが目を覚まして、泣いていたリクがアタシの手を握った。大丈夫、握れる。頭うつと、どっか悪くなることがあるって、母ちゃんがいってた。
「たちの悪い村人ですね。いつまでも遠い先祖の罪人の血筋なんて気にして、罪人になるなんて」
「みんな、どうなったんだ?」
「もちろん、王国と帝国の騎士たちに捕らえられましたよ。あの、ダメ兵士なんて、エリカ様の予算を横領なんかしていたんですから。処刑です、処刑」
ものすごく別嬪なのに、いうことは恐ろしい。違う意味で身がぶるっと震える。
黒いローブを着た男が、いっぱいの妖精を引き連れてやってきた。
「君と彼女が一緒になると、煩いんだけど」
「そりゃそうでしょ、この子も妖精憑きですから。それも、私と同等の力を持ってます。お陰で、あなたを助けることが出来ました」
最果てのエリカ様は妖精の姿を見て、声も聞こえる妖精憑き。
黒いローブをきた帝国の男は、声だけが聞こえる妖精憑き。
この二人に、アタシの妖精が、危険を知らせに行ってくれたのだ。そこから、魔法の力で突然、村に現れ、村人たちの悪事は白日の元となってしまった。
「海の聖域では、エリカ様を迫害して、山の聖域では、偽エリカ様をたてるなんて、本当に酷い。しかも、恩ある偽エリカ様を殺そうとするなんて、最低」
「貴族ぐるみで、君のことを隠していたようなんだ。本当にすまない」
とても偉そうな男が、アタシに謝ってくれた。この人、第一王子のアインズ様だと、後で紹介された。
「ええんだ。アタシも偽エリカ様騙ったんだ。アタシも悪い」
「あら、でも、あなたはそこらのエリカ様よりも、よっぽどエリカ様よ。あなたのお陰で、聖域は綺麗に保たれているわ。だったら、あなたが正式な山のエリカ様でいいじゃない」
「ああ、アタシ、学がねぇし、炊事洗濯もできねぇし、出来ることは、夜売るだけだぁ」
「山の男たちのあれ、全部きってやればいいのに」
男であるアインズ様と帝国の男はぞぞっと身を震わせる。
一生、縁のない豪勢な部屋は、居心地が悪かった。妖精の力か、回復してきたので、アタシはベッドから降りた。
「もう少し、休んだほうがいい」
「大丈夫だぁ。妖精たちが、いっつもアタシを治してくれるから、すぐ治るんだ」
「山の聖域については、王家が責任を持とう。もう、こんなことは二度と起こさせない」
「みんな、大昔の血に呪われてるだけだ。母ちゃんが言ってた。みんな、罪人の血、なんて蔑んでっけど、貴族だって、元をたどれば人殺しだって」
男爵令嬢だった母ちゃんは、酷い裏切りを受けたらしい。それは、アタシが生まれるまで、ずっと憎しみを抱いていた。
アタシが生まれてから、何かが抜けたようになったという。
「山の麓のヤツらだって、話せばいいヤツだって、言ってた。ただ、大昔の先祖がやったことを、いろんなとこで言われて、肩身が狭くなってるだけだって」
「いいお母様だったのね」
「人は絶対に憎むなって、いつも言ってた。そう言って、殺されちまって、それでも憎むなってのは、どんだけ酷いんだ」
同じ妖精憑きだからだろう。アタシは涙があふれる。やっと、わかってくれる人に出会えた。
妖精たちは、アタシに起こったことを逐一、最果てのエリカ様と帝国の男に語った。




