来る前に
村がざわざわとしていた。役人たちまで、何か話しては、アタシを見ている。空気というか雰囲気が悪い。
こういう時、決まってアタシ自身に悪いことが起こる。
『エリィ、まずいよ! アイツら、あんなにエリィに世話になったのに』
『エリィを殺そうなんて、相談してるよ』
『最低だ。こんな村のやつら、やっつけてやるよ』
妖精を通して、村の目論見は、アタシには筒抜けだった。
村ぐるみなので、ばれないように逃げるのは難しい。慰み者にされているけど、村の女たちには嫌われていた。
わざとなのか、リクは何かの使いで村の外に朝から出ていた。こうなると、助けてくれるのは、見えない友達である妖精である。
さりげなく、という風に、アタシは山の聖域へと向かう。たぶん、聖域は村人でも、そうそう、手を出さないだろう。リクが戻ってくるまで、聖域に引き籠れば助かると思った。
「エリィ、話がある」
何か感づいたのか、役人がアタシを呼ぶ。呼ばれたので、逃げられない。
仕方なく、役人について、いつもの小屋に連れて行かれた。
「おめぇのこと、どこの村にも記録がねぇんだってな」
上から下までいつもの嫌らしい目で見ながら、聞いてくる。
アタシはなるべくベッドから離れたところに移動する。
「母ちゃんが、どっかの貴族だったらしくて、父ちゃんと隠れ住んでたって話だ。それ以外は知らねぇ」
「ほぉ、貴族ねぇ」
どこを見ても貴族には見えない。そう、兵士の目が物語ってる。やかましぃ! 母ちゃんは、立派な貴族のご令嬢みたいに、綺麗だったよ!!
やることやって、さっさと追い出そうと、服に手をかけたが、それを兵士に止められた。無理矢理ベッドに押し倒される。
「ぐぇっ」
首を絞めてきた。
「わりぃな。お前みたいな女がいるって、王都のやつらにバレたら、何言われるかわかったもんじゃねぇ」
『こんの、恩知らずが!!』
「ぎゃぁああああーーーー!」
怒り狂った妖精たちが、兵士を吹き飛ばした。
助かった。そう安心したが、兵士の叫び声で、外にいた男たちが中に入ってきた。助かってない!!
この人数の男たちを相手することは山賊に捕らえられていたときには経験した。今は、そういうのはないが、誤魔化せれば、と服を脱いだ。
兵士は気絶していたが、普段から好色な男たちは、すぐにだまされる。時間がかせげる。
「おめたち、何やってんだ! さっさと、その女、始末しろ!!」
一番、誤魔化しのきかない村長の奥さんが、他の女たちを連れて、乗り込んできた。
今にもやろうとしている男たちを押しのけ、村長の奥さんが、持っていた木の棒を振り上げた。
そこから、アタシの意識はなくなった。