リクの母親
リクが無事に見つかったことは、もちろん、おばちゃんにも伝わった。すぐに、おばちゃんは迎えにきた。
「リクぅ、エリィ!」
泣いてアタシとリクを抱きしめる。おばちゃんは、アタシが偽のエリカ様をやっていることを村人に聞いていた。
「アタシたちが不甲斐ないばっかりに、ごめんよぉ」
「おばちゃん、リクを連れて帰ってくれ。リク、せっかく自由になったってぇのに、残るってんだ」
「俺はかえらねぇ」
「はいはい。わかったから、今日はゆっくりしよ。アタシがごはん作ってやるよ」
おばちゃんの手料理は、とても楽しみだった。
毎日のエリカ様の仕事は朝から夕方まで時間をかけて聖域を行き来するだけだ。
まだ、体力がついていないので、リクの手をかりて、往復していた。長いこと、山賊に閉じ込めあれていたので、不甲斐ないことこの上なかった。
だから、リクがいることは助かっていた。助かっていたが、いつまでも、甘えているわけにはいかなかった。
おばちゃんの手料理を食べた後、リクは別に用意された家に帰っていった。
小屋には、アタシとおばちゃんの二人だけだ。
リクがいなくなると、おばちゃんはいきなり、土下座した。
「すまん! エリィ!! アタシたちは、アンタの幸せを奪ってばっかりだ。アンタの父ちゃんと母ちゃんを殺して、食い物奪ったアタシたちは、山賊とかわんねぇ。なのに、アンタにぜぇんぶ押し付けて」
「知っちょる。けど、おばちゃんのごはんはうまいからええよ」
「聞いたよ。山賊どもの慰み者にされたって。何年もそんなことされて」
「最初は痛かったけど、あとはなんとも。そういう女を売りにするのもあるって、言ってた。アタシ、本当に何も出来なかったから、女じゃなかったら、殺されとった」
「エリィいいいい」
おばちゃんは泣いた。泣いて、ごめんばっかりいってる。
「おばちゃん、母ちゃんが言ってた。アタシが生まれるうんと前は、憎いばっかりだったって。それが、アタシが生まれてから、お腹いっぱい食べられるようになると、憎いとかそういうのは、なくなったって」
母ちゃんは男爵令嬢だったころ、相当酷い裏切りにあったらしく、憎しみばかり抱いてたらしい。
「腹が減ると、ダメになるんだって。山賊のやつらだって、腹減って、そうなっちまったんだよ」
「おめぇの母ちゃんと父ちゃん、みぃんなに傷つけられて、息も絶え絶えだってのに、いったんだ。どうか、娘をお願いします、って。命乞いもしなかった」
「そうか、さすが父ちゃんと母ちゃんだ」
人を憎んではいけない、いつも母ちゃんは言っていた。
しばらくは、おばちゃんが同じ小屋で寝泊りしてくれて、村の男どもが忍んでくることはなかった。
そして、おばちゃんは、一人で帰っていった。
「エリィ、全部終わったら、リクと帰っておいで」
「うん、リク引っ張って、帰るよ!」
『今すぐ帰ればいいじゃん』
『こんな村、見捨てちゃえばいいのに』
妖精の提案を絶対に受けてはいけない
アタシは母ちゃんの約束をしっかり守った。