偽のエリカ様
山賊は、やり過ぎた。なんと、聖域にまで手を出してしまった。聖域にたまたま来ていた山のエリカ様を誘拐してしまった。
そうして、役人が山に送られ、あっという間に山賊は壊滅してしまった。
アタシは見るからに被害者だったので、保護された。リクは山賊と一緒に捕らえられていたが、アタシが事情を説明して、解放してもらった。
「リク、リク、良かった!」
「ごめんよぉ、エリィ」
抱き合って、アタシは喜んで、リクは謝った。生きていれば、アタシはどうってことなかった。
山賊は壊滅したが、大きな問題が残った。誘拐された山のエリカ様が間違いで死んでしまった。
山の平民は、罪人の先祖を持つため、王都からの視線は厳しい。前代未聞のことに、兵士も困った。この兵士だって、山の平民だ。上司は都落ちした人らしい。
無体なことをした山賊は、それからすぐ、制裁をくわえられ、処刑された。
山のエリカ様はアタシとそう歳の変わらない女の子だった。山賊たちは、毎日毎日、アタシしか相手にしていなかったので、飽きていた。だから、新しい女が欲しがったところ、そこに山のエリカ様がいたのだ。運が悪かった。
「アタシがもっと満足させられてれば、こんなことにならなかったんだろうな」
「山賊やってる時点で、ダメなもんはダメだ。おめぇのせいじゃねぇ」
慰めてくれるリク。そうだけど、人が死ぬと、どこがダメだったのか、考えてしまう。
「こりゃ、どうすりゃいいんだ」
「ぜってぇ、何か言われんぞ」
「ちょっと前、エリカ様の金使ったやつらが、みぃんな処刑されちまった」
「どうするべ」
悩む村人たちが、ふと、アタシを見た。
年のころは同じ。性別は女。名前がエリカ様に似ている。
「おめぇ、次のエリカ様が決まるまで、偽のエリカ様になってくれねぇか?」
「ダメだ! エリィは山賊のやつらに慰み者にされたんだぞ。これ以上、可哀想なことはダメだぁ!!」
「大丈夫だ。山のエリカ様は、山奥の聖域を毎日見に行くだけだぁ。他は、村のやつらが面倒みてやる」
男たちは、好色な目でアタシを見ている。山賊とかわらない。
「ええよ。リクを助けてくれたし」
「エリィ!?」
「リクも村、帰れ。おばちゃんを心配さすな」
リクには帰る家がある。解放されるべきだ。
どうせ、山賊が村の男どもになるだけだ。服は貰えるし、食べるものとかそういうのもくれるっていうんだから、悪い話じゃない。
『エリィも村に帰ればいいじゃない。リクのお母さん、待ってるよ』
『そうよそうよ。リクのお母さん、エリィのこと、大好きなんだから』
「エリィが帰らねぇなら、俺は残る。俺は、下働きでもなんでも出来る。ここに住まわせてくれ!」
また、リクはアタシから離れなかった。
バカだなぁ。せっかく、自由になれるってのに。
こうして、アタシは偽の山のエリカ様になった。