幼馴染み
麓の村には子どもがいっぱいいた。それまで、誰かと遊ぶ、ということがなかったアタシは、見知らぬ子どもたちに手を引かれた。
「おめぇ、なんて名前だ?」
「アタシ、エリィ!」
「俺は、リクだ。おめぇ連れてきたでっかいヤツは、俺の親父だ」
「ふーん」
アタシは、村長であるリクの家でお世話になることとなった。
アタシが住んでいた小屋にあった食べられるものは、全て、村の人たちに分け与えられた。
父ちゃんと母ちゃんが冬を越すために作ったものなのに。
そう思うも、口には出さない。
『エリィ、気を付けなさい』
『エリィのお父さんとお母さんを殺したやつらだよ』
妖精は真実を教えてくれる。
麓の村についてすぐ、父ちゃんと母ちゃんの変わり果てた姿を見せられた。見分けがつかないほどぐちゃぐちゃに、山の獣に食い荒らされていた。
泣いて縋っても、随分とそのままだった父ちゃんも母ちゃんも冷たくなっていた。
「大丈夫だ。俺たちが、おめぇの面倒をみてやるよ」
リクの父親であり村長が、アタシの肩を力強くたたいた。その手で、アタシの父ちゃんと母ちゃんを殺した。
その年、たまたま、不作となってしまった。
山で暮らす平民は、何かと問題があった。だいたいが、罪人だった先祖がいる。
遠い先祖の罪を今も背負わなければならないようで、王都からの支援が届かないことが多かった。
この村も、支援が届かず、食うに食えない状態だった。
そこに、食料と何かを交換しに来た父ちゃんと母ちゃんがやってきた。どこも食べるのに苦しいというのに、父ちゃんと母ちゃんはそうではないことに、昔の罪がうずいたのだろう。
負い目があるのか、村の人たちは、アタシには親切だった。それもあるが、ともかく、手伝いはさせなかった。
洗濯をすれば、泥だらけにする、破く。
料理をすれば焦がす。
掃除をすれば壊す。
完全に、何も出来ない女だった。そんな子どもなので、外で遊ばせておくしかなかったのだ。
アタシの面倒をよくみてくれたのが、村長の長男のリクだ。リクはアタシの手を引いては、山を走った。
「エリィ、ほら、木の実を探すぞ!」
「うん!!」
妖精はいう。
『リクはいい子だ』
『リクとは仲良くするのよ』
妖精は嘘をつかない。
何故か、妖精たちは、リクのことを気に入っていた。村長のことはあんなに毛嫌いしているというのに、不思議だ。
たぶん、アタシの知らないところで、何か見たのだろう。
妖精には、順番を間違えて質問をすると、正しい答えが得られない。アタシはバカだから、いつも間違えるので、結局、真実を知るのは随分と先のことだ。
アタシは、リクと一緒にいつも山を駆け巡った。そして、山の実りを持って帰った。
だいたい、妖精が教えてくれるので、アタシはこれだけは役だった。
リクは、まだ知識がなかったので、毒キノコを持ち帰ったりして、よく笑われていた。
「エリィのお陰で、今日もいっぱい食べられるね」
「おばちゃんのお陰で、美味しいものいっぱいだ。アタシが料理すると、みんな、焦げちまう」
「ふふふ、ほら、このお肉も食べて」
「これは、リクが食べろ! リクはいっぱい食べて、でっかくなれ!!」
この頃は、アタシのほうが痩せていたけど、背が高かった。だから、肉を全部、リクの皿に置いた。
「バカやろう! 俺の父ちゃんは村で一番でかいんだ。俺だって、大人になりゃ、でっかくなる!! エリィなんか、すーぐ、追い抜いてやるからな」
「ほら、食べろ」
アタシは、この幼馴染みのことが、この頃から大好きだった。