山のエリカ様
昼間は、ずっと外を散歩している。ともかく、アタシが出来ることは、山奥にある聖域を見に行くことだけだ。
なにせ、それ以外で出来ることは、男を相手に夜を売るくらいである。
山歩きは、最初は辛かった。ものすごく道が悪かったりするので、転んだり、時には滑り落ちて、ざっくりと足を切ったこともあった。
何もかも不器用すぎて、幼馴染みのリクは、アタシに何もさせない。本当は、こういう山奥にある聖域の日参もさせたくない、と言っている。
だけど、それが、アタシに出来ること。
今日も山奥にある聖域は綺麗だった。木漏れ日に照らされて、安心できる。
両手を目の前に合わせて、お祈りする。それで終了。
『もう、行っちゃうの??』
「行かねぇと、暗くなっちまう」
『明るく照らしてあげるから、もうちょっといようよ』
『お話しようよ』
山の聖域を守る妖精たちが、アタシの髪やら服やらを引っ張る。可愛いこれらに、アタシは困った。
「けど、村の皆に心配されちまう」
『心配なんか、しない。だって、みーんな、嘘ばっかり言ってる』
『エリィのことなんて、これっぽっちも考えてないよ。リクも可哀想』
「んだ、リクが可哀想だ」
リクは、アタシのせいで、村に縛られている。
本当なら、村長の息子だったのに、アタシのせいで、村の下働きになったり、行商に出させられたり、と体を酷使している。
どうにかしてあげたい、慰めてあげたい、と毎日思っている。
『リクが来てくれれば、どうにかしてあげられるのに』
『ねえねえ、エリィ、こんな村、さっさと捨てちゃえばいいのよ』
『エリィに無体なことをする人間の、なんて汚らわしいこと』
『でも、リクならいいわ。だって、リクはエリィのことが大好きなんだもの』
『リクなら、確かに大丈夫』
「もう、帰るね」
妖精たちは、いつも、アタシを誘惑する。
死んだ母ちゃんが言っていた。妖精は嘘をつかないけど、悪いことをさせようと誘惑するって。だから、心を強く持たないといけない。
妖精たちは、アタシを力づくでは引き止めたりはしない。どうせ、明日も来るとわかっている。
例え、雨が降ろうとも、嵐になろうとも、毎日、山を上って、山奥の聖域でお祈りをしなければならない。
降りる時は、滑り落ちたりしないように気を付ける。最初は底が抜けた靴で大変だったが、リクが街で買ってきてくれた靴で、どうにか、山の上り下りは楽になった。
すぐに、山のふもとの村についた。
西の空は茜色に染まっていた。山上りは、昼になる前だったが、山下りはすぐに日が落ちてしまう。
アタシは、村の外れに建てられた小屋に帰った。中は、アタシが帰ってくる前に置いてったらしい夕餉があった。アタシは、本当に不器用で、料理すら出来ない。
有難くいただいて、体の汚れをとって、すでに洗濯された服に着替え、ベッドに横になる。
しばらくすると、村の男たちが、小屋に入ってきて、アタシにのしかかってきた。