恐怖政治
「知っていますか? 初代エリカ様のお母様は、血のマリィと帝国では恐れられているのですよ。私は、初代エリカ様、というよりも、血のマリィのほうに近いのです」
アタシがこれまで食べたことがないケーキとやらを手づかみで食べている横で、最果てのエリカ様(後で教えてもらった)が、鞭を持って立ち上がった。
何が起こるのだろう、と見ていると、早速、あの、偽エリカ様を名乗る女が放り出された。
「おやめください! 罰なら、私が受けます!!」
顔立ちのよく似ている女の人が泣いて懇願する。両手を縛られ、抵抗して動こうとするのを騎士たちがおさえこんでいた。
最果てのエリカ様は、鞭を笑顔でふるった。
「ぎゃぁあああああーーーー!!!」
偽エリカ様を名乗った女は、鞭一回で、ほっぺたが裂けた。
「いたいいいたいいたいぃいいいいい!!!」
「ほら、転がっていないで、座って。いっぱいいるので、後が詰まってしまいますよ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!」
「ちょっと、煩いので、舌を斬りましょう」
「ひっ!」
黙らされた。
また、鞭が振るわれ、大泣きする女の子。それを見て泣き叫ぶ女の人。
「ねえねえ、なんで泣いてるの? あんなの、全然痛くないのに」
不思議でならない。
きっと睨まれるので、アタシは言ってやる。
「アタシは、殴られたり蹴られたり、目も抉られたり、爪だってはがされたことだってある。ただほっぺを叩かれたくらいで、大げさだよ。アンタだって、アタシの頭踏んづけたじゃんか」
アタシは忘れてない。誰に何をされたか、しっかり覚えている。
「あそこにいる子たち、アタシに石なげてきた。やめてって言ってもやめてくれなくて、目を怪我した。あの男は、アタシを見ると蹴るの。アソコの男も。子どもはみんな、わざわざ海に来て、石を投げてくるの。やめてっていうと、遊んでやってるって言ってた。蹴ったり殴ったり石投げたりするのが、遊びなんでしょ?」
言われたこと、やられたことをそのまま言う。アタシは嘘をついていない。
「嘘つき! そんな痛いことが平気なんて、嘘つき!! そんなこと、やられてないんでしょ!!!」
「嘘つきは、アンタだ。アタシは、いっぱいいっぱいされた。ごめんなさいもした。何かあると、全部、アタシが悪いって、みんな言った。ごめんなさい、いっぱいした!!」
言えば言うほど、涙がこぼれた。嘘なんかじゃない。ものすごく酷い目にあったけど、それを伝えるのは難しかった。
第四王女は、泣いているアタシをよしよしと抱きしめてくれる。
「大人も子どもも、この街は全員、罰を受けてもらう」
「せめて、子どもたちだけは許してください!」
「お願いです!!」
女たちが泣いて嘆願する。泣いても許してもらえなかったな、アタシ。
「許しません。あなたがたのせいで、聖域に黒い妖精が誕生しようとしています。人としての生を終えた妖精は、聖域に戻り、羽のない妖精として縛り付けられます。あなた方が迫害していた子は、妖精の子。この子が迫害されればされるほど、聖域にしばられた妖精は怒り、黒い妖精となってしまいます。王女様が見た時は、まだ、聖域は赤く光っていたと聞きました。それが今では黒く光っています。いいですか、聖域が赤くなるのは、妖精が怒っているからです。あなたがたは、妖精を怒らせました。大人だろうと、子どもだろうと、許されません。だって、妖精には、そういうのは関係がないのです」
聖域が赤い理由を語られても、当時のアタシは理解できなかった。
ただ、赤いのは、アタシのせいではない、ということがわかって、ほっとした。
「なんだ、アタシのせいじゃなかったんだ。良かった」
「ほら、俺の分のケーキを食べていいぞ。ほら、もっと色々持ってこい!」
第四王女は、アタシが泣き止んだので、これ以上、泣かないように、と美味しいものをいっぱいくれた。
怨嗟の目を向ける街の人たち。だけど、アタシは美味しいものを食べられて幸せだった。
パシン! 鞭を鳴らす最果てのエリカ様。
「聖域を皆さんで汚したのです。妖精が許してくれるまで、罰を受けてください。大丈夫ですよ。傷は残らないように、帝国の魔法使いが作った軟膏を塗ってあげます」
それから、阿鼻叫喚の光景が続いた。
最後まで見るのかと思っていたが、途中で、第四王女がアタシを連れ出した。
「あれは教育に悪い」
「??? 悪いのか」
何が悪いのかはわからないけど、最後まで見てはいけないらしかった。




