最果てのエリカ様
「あらあら、可愛い子ね。お願い、その子を私にちょうだい」
『許さない』
「わかっています。でも、その子を大切にしている人がいるの。大切にするって、約束してくれたわ」
『………大事な大事な子』
「ええそうね、とっても大事な尊い子だわ。大丈夫よ、私を信じて」
『今度こそ、守って』
「ええええ、大事に大事に守りますよ。なんと、最後まで、責任をとってくれるそうです。良かったですね」
『………』
「成人するまでは、ちゃんと適度の距離をとりますよ。大丈夫ですよ」
どんな問答か、理解出来なかったけど、黒い何かは、迎えに来た女の人にアタシを渡した。
聖域は真っ暗で、どんな人なのかわからなかった。アタシは女の人の手に引っ張られるままに歩いて、外に出た。
外に出れば、太陽が真上にいた。そして、聖域の近くでは、街の全てと言っても過言ではない人たちが、拘束され、座らされていた。その奥では、ものすごい数の騎士たちが剣を抜いて、続々と拘束した人を集めていた。
それは、老若男女、全てだった。
その中には、孤児院の子たちや、シスター、神官までいた。
何が起こっているのかわからず、手を握る女の人を見た。
とても綺麗な、きっと、これがエリカ様がいう、女神様だと思った。
「初めまして、海のエリカ様。私、第四王女に言われて、帝国の魔法使いを酷使して、すぐに来ました」
「王女様は? もう、嘘じゃない??」
「あらあら、悪い人がいますね。嘘つかれたのですか。嘘つきは、私がしっかり罰しておきますからね。
ここは、ちょうどいい、予行演習になりますね」
とても優しい笑顔の女の人。アタシには暴力をふるわないので、安心した。
砂浜にテーブルと椅子を準備され、アタシは女の人と、遅れてやってきた第四王女と座った。椅子もテーブルも、久しぶりで、気恥ずかしかった。
「無事でよかった」
「あのね、崖から落とされたけど、無事だったの!」
「あぁん」
「第四王女様、顔、笑顔ですよ」
「こうか」
無理に口だけで笑おうとしている。笑えていないけど、アタシのために頑張ってくれているので、アタシは満面の笑顔を見せることにした。
「両手両足をぐるぐるして、落とされたの。でもね、海でほどけて、気づいたら、聖域の奥にいたの」
「母の愛ですね」
女の人だけは、アタシのことをアタシよりも知っているようだった。
首をかしげているアタシに、女の人はいう。
「あなたは、妖精と人間の間に生まれた子どもなのですよ」
「ようせいって何?」
誰も教えてくれないので、知らないことが多すぎた。
「妖精は、人ではありませんが、神様の使いです。とても尊いのですよ。まれにですが、妖精が人になることがあるそうです。妖精は、二つの羽をちぎって、神様に捧げると、人間になれるそうです」
「じゃあ、とうちゃんはようせい?」
「あなたの、その、かあちゃんが、妖精なのですよ。あと、あなたが思っているとうちゃんは、本当のとうちゃんではありません」
「ほんとう? 何?」
「難しいですね。今は、わからくてよいですよ。大事なことは、この王女様がぜぇんぶ、責任をとってくれます。良かったですね」
「俺と一緒にここを離れるぞ。もう、聖域にいなくていいんだ。この人が、お前を自由にしてくれた」
「うん、一緒に行く!」
第四王女の手を握って、何度も何度も頷いた。もう、大丈夫だ。
「さて、これから、予行演習としましょう」