隠ぺい
第四王女がいなくなると、また、監視の男が置かれた。そして、聖域の異様さに気づかれ、街の男たちが複数で、聖域のまわりを囲んだ。
「ほら、大人しく出てこい」
「出てこないと、もっと酷い目にあうぞ」
嘘ばかりだ。出ていったら、酷い目にあうのは、わかっていた。
第四王女に言われた通りに、聖域から一歩も出ない。それどころか、奥の奥に隠れた。
久しぶりのひもじさに、苦痛を感じた。ひもじいと、また、魚がアタシの前に飛び出してくる。でも、もう、それを食べることは出来なかった。
第四王女は美味しいものをたくさん与えてくれた。
第四王女は優しく笑ってくれた。
第四王女は痛いことをしなかった。
アタシは、ひもじくても、食べないで頑張った。第四王女は帰ってくるといった。だから、帰るまで出ないつもりだった。
どれほど時間が経ったのかわからない。時間の流れはよくわからないけど、一人で過ごすと、長いとも短いとも感じてしまう。
「おい、俺は、第四王女の使いだ。第四王女が呼んでるぞ」
「今いく!」
第四王女と聞いて、アタシは聖域を飛び出した。
外にいるのは、街の男たちだった。
アタシは呆気なく捕まり、両手両足を縄で拘束された。
「手間かけさせやがって。ほら、さっさとあの崖から落とそう」
「お前も親父の所に行けて、幸せだろう。死に方も同じで良かったな」
何を言われているのか、その時は理解出来なかった。ただ、殴られると思って、抵抗しないようにしていた。
複数の男の手で、崖に連れて行かれ、そこからぽいっと落とされた。
結果、アタシは死ななかった。アタシを拘束した縄は、海に入ると簡単にほどけてしまった。だけど、波が荒く、流されてしまった。
ところが、全然、苦しくなかった。
エリカ様の試練の時も、泳げないのに海に投げられたが、何故か、海の中でも苦しくなかった。見えない誰かが、口から空気を送ってくれていた。
そして、流れ流れて、アタシは聖域の奥に流れ着いた。
聖域の奥は、真っ黒に光っていた。闇とは違う、何かに染まっていた。
何かがいて、アタシの頭を撫でてくてた。
「王女様?」
姿が見えない。気配は違うような気がする。
『もう、誰も、あなたを傷つけさせない』
怒りに満ちた女の声だった。アタシのために怒っていた。
「エリカ様、じゃない」
声が違う。一体誰なのかわからないけど、闇に抱きしめられているようで、安心して、眠れた。




