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聖女の代理人  作者: 春香秋灯
海のエリカ
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抜き打ち視察

 もう、その時は何歳だったかわからない。学がなくて、物事がわからなかった。先代エリカ様が生きていた頃が五歳だったが、それから数えてくれる人はいなかった。


 服はもうサイズがあわなくっても、そのままだった。こじきのように食べ物を恵んでもらい、聖域で朝から晩まで祈る。それがアタシの毎日だった。

 辛いし、死にたい。もう、やめてしまいたい。聖域を出ると、いつも思っているが、そうはならない。

 不思議なことに、傷はすぐ治ってしまい、あの失明するんじゃないか、という目の傷も綺麗に治ってしまった。

 一度、街のやつらが、赤い目が気に食わない、と抉れるんじゃないか、というほど指を突かれたこともあったが、それも数日して、綺麗に治ってしまった。


「こいつ、聖域の力を自分に使いやがったな!!」


 そして、いわれのない理由となり、殴られて、傷だらけになった。

 毎日、それを繰り返され、マヒしてきたアタシが砂浜で動けなくなるほど殴られていると、

「こらー! 何やってんだ、テメェらーーー!!」

 遠くから、汚れたら大変そうな服を着た女が走ってきた。口調は男みたいだが、姿は女だった。

「大丈夫か!?」

「邪魔すんじゃねぇ!!」

 もちろん、止まらない街のやつら。相手が高貴そうでも手をあげた。

 それを女は持っていた傘で止めた。

「こんな十にも満たないガキに、大の大人がヒデェことしやがって」

「こいつはな、俺たちが金出して買ったんだ! どうしたっていいんだよ!!」

「王国では、奴隷は禁止だが、わかってるのか?」

「黙れ!?」

 さらに暴力に訴えようとした大人たちに、どこから集まったのか、剣を貫はなった騎士たちが包囲した。

「姫様、ご無事ですか!?」

 これまた高そうな服を着た男が、女の無事を確かめる。そして、動けないアタシを見て、目を見開いた。

「早く、この子の怪我を治療してやってくれ」

「だ、ダメだっ! アタシ、ここを離れちゃダメなんだ!?」

 どんな目にあうかわからない。アタシはない力をふり絞って、離れた。

 逃げないといけない。せめて、聖域に。

 怪我をして、力がないはずだけど、アタシは動けた。動いて、必死に聖域へと逃げ込んだ。

 聖域には、街の奴らも入ってこない。それで安心した。

「おい、そんな怪我してるのに、無茶するなよ!?」

 ところが、よそ者の女は、そんなこと知らない。聖域とは知らず、そのまま入ってきた。

「ダメだよ、ここ、聖域に、入っちゃ!!」

「ああ、大丈夫だって。俺、邪まなこと考えてないらしいから、どこの聖域も問題なしで入れたよ」

「………そうなの?」

「そういうお前はどうなの。入ってんじゃん」

「それは………」

 アタシはどう答えればいいのか悩んだ。

 表向きは、エリカ様は別に用意されていた。だから、よそ者には、アタシがエリカ様だと名乗ってはいけない、と強く言われていた。

 困ったアタシは、ボロボロと涙を流すしかなかった。

 女は、頭をガシガシとかいて、困っていたが、何か名案でも思いついたように笑って近づいてきた。

 殴られると身構えた。


 優しく、抱きしめられた。


「どうなってるのか、わかんねぇけど、もう、大丈夫だから。ここから離れられないなら、俺が来てやるよ」

 優しく頭を撫でられた。頭を殴られないのは、先代エリカ様が亡くなって以来、初めてのことだった。






 聖域の近くで、あの偉そうな女と、それに従う騎士たちが野営をとった。そこに、なんと、街の有力者やら貴族がやってきた。

「第四王女様、このような所ではなく、私の屋敷をお使いください」

 この女、なんと、国王の娘(当時は意味わからなかった)だった。

 第四王女は、同じく身なりのよい貴族と焚火をかこんで、魚を焼いていた。その傍に、何故かアタシは座らせられた。

 街の奴らだけでなく、貴族まで、忌まわしい者として見られ、アタシは逃げたくなった。

「この孤児が、何でも、ここから離れられないそうだから、保護してやってるんだ」

「それは、この街の孤児院で保護しますから」

「街の男どもが、この孤児に暴力をふるっていたんだが、それについてはどう弁明するんだ? しかも、俺まで殴りかかってきた。仕方がないから、騎士たちに拘束してもらって、そこにころがせてる。うまく説明してもらわないと、俺も困るんだが」

 魚の焼き具合を見ながら質問する第四王女は、誰とも目をあわせない。あわせないが、アタシには、優しく頭を撫でてくれて、焼けたらしい魚を差し出してくれる。


 第四王女が視察に来ることは、街を統治する貴族すら知らなかった。突然の視察に、偽装が出来なかったのだ。


 困ったことになって、弁明を考えるが、何も思いつかない。こういう時は、だいたい、ずる賢いやつが、悪案を思いつく。

「そのガキは、孤児院を飛び出して、街で盗みを働いてなんです! 何度も盗みをするので、体で教えるしかありませんでした」

「金で買った、と言ってたぞ。王国では、奴隷は禁止されてる。さて、そこにいる奴らを拷問にかけて、話を聞いてみるしかないな」

「ひっ!」

 捕まってころがされている男の傍を鞭が飛んだ。

「平民の勝手にやったことです。我々には」

「エリカ様の予算に手を出した時は、随分とたくさんの人間が処刑されたな。それは、貴族も平民も関係なかった。奴隷を容認されているような領地を管理している貴族が、何も罪に問われないと思っているのか?」

 言い逃れようとする貴族に、第四王女は追い打ちをかける。絶対に逃がすつもりはないようだった。

 その間も、アタシは熱い魚を食べられなくて、困っていた。周りで何を話しているかなんて、理解出来ない。そんな学、与えられていなかった。

 温かい食べ物は、先代エリカ様が亡くなって以来だった。食べてみると、とても美味しかった。

「おいしぃ、おいしいよぉー」

 泣きながら食べるアタシに、第四王女は頭を撫でてくれる。この人は、アタシを殴ったり蹴ったりしない。

 食べ方があまりにも下品で、貴族は顔をしかめるが、第四王女が睨むと、すぐに頭を下げた。

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