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聖女の代理人  作者: 春香秋灯
海のエリカ
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お前のせいだ

 先代エリカ様が生きていた頃、すでにアタシは街のやつらから暴力を受けていた。


「お前なんか、買ったばかりに、あのクソがまた来やがった!」

「今年は不漁にするなんて、お前のせいだ!!」


 大人たちは、謝れ、と殴っては叩いては酷かった。

 時々、エリカ様が気づいて、大人たちを止めてくれた。

「こんな小さい子に、なんてことするんだい!」

「俺たちが買ったガキだ。俺たちが何したっていいだろう!!」

「王国では、奴隷は禁止されているよ。このこと、王都に知らせるよ」

「はっ、誰が手紙を送ると思ってる。俺たちが絶対に送らせないからな!」

「なんてバチ当たりな!!」

 何を言っても、改めることはなかった。ただ、先代エリカ様が来ると、暴力は止んだ。


 エリカ様が見ていない所では、アタシが意識を失うまで暴力は振るわれていたが。


 大人たちだけじゃない。子どもたちは、アタシに石を投げた。それは、孤児院の子どもたちもだ。

 孤児院に近づくだけで、石を投げられ、片目がつぶれそうになったことがあった。

 それには、エリカ様が激怒した。

「なんで、誰も止めないんだい! この子が何をしたっていうんだい!! 酷い親に育てられてたら、死んでたかもしれないから、助けたってのに、殺す気かい!?」

「エリカ様、本当に申し訳ございません。我々も手がまわらなくて。気づいた時には、注意しますから」

「今、しかりつけな! あの子に謝らせなきゃいけないよ」

「すみません、我々では、どの子がやったのか、わからくて」

「………アンタたち、それでも聖職者か!? あんな小さい子を皆でいじめて」

 シスターや神官すら、アタシを助ける気がないことに気づいて、エリカ様は泣いた。


 小屋に戻って、エリカ様はアタシに頭を下げた。

「ごめんよぉ、本当にごめんよぉ。アタシがいっぱい謝るから!」

「クソみたいな親父の子なんだもん。仕方がないよ。エリカ様、悪くないから」

 額を床にこすりつけて泣くエリカ様。この人は、本当に優しい。寝る時も優しく抱きしめてくれる。

「アタシも悪いヤツなんだ。何故か、アンタがイヤな感じになっちまう。何故なのかは、アタシもわかんないんだよ! 先代からの教えがなけりゃ、アタシも街のやつらと変わらなかった」

「そっか」

 エリカ様はただ、耐えていただけだった。一番、アタシの近くで過ごしていて、街の奴らが感じる衝動をエリカ様も感じていた。

「アタシがずっと謝るから、頑張っておくれ!」

「エリカ様には、むちゃくちゃ優しくされたもん。頑張るよ」

 そう話して数日後、エリカ様が亡くなった。





 優しい先代エリカ様が亡くなると、アタシは小屋から追い出された。

「お前のせいで、エリカ様がお亡くなりになったんだ!!」

「亡くなったエリカ様のために、もっと聖域に行け!!」

「小屋で寝泊りなんて、お前は贅沢するな!!」

 何度も何度も泣いて頼んだが、誰も聞き入れてくれなかった。

 アタシは仕方なく、聖域で朝も昼も夜も過ごした。

 聖域には、誰も近づかないから、辛いことはない。殴られたり蹴られたりした傷も自然と治っていった。


 そして、どんどんと聖域が赤くなってきたことに、アタシは気づいた。


 頑張った。頑張って祈った。どうか、白く戻ってほしい、と。でも、少しずつ赤くなってきていた。


 先代エリカ様が亡くなってから、聖域近くに見張りが置かれた。そして、聖域が少しずつ赤くなってきていることに、街の奴らは気づいた。


「何やってんだ、テメェは!!」

「出てこい!!」


 怖くて、聖域から出られなかった。出たら、殴られるのはわかっていた。


 でも、お腹が空いて、ずっと聖域にはいられない。

 結局、食べ物の無心をするために出ると、捕まって、殴られた。

「聖域を汚すなんて、なんてことしてくれたんだ!!」

「ちゃんと、祈ってる!! アタシ、祈ってる!!!」

「どうやって祈ってる。ちゃんと、頭地面につけて、祈ってるのか!?」

「やってる!!」

「ほら、やってみろよ。俺たちが出来てるか、見てやるよ」

 言われて、必死に土下座した。その頭を男が踏みつける。

「もっと顔をつけろ! 俺たちの幸せを祈れ!!」

「はい!」

 必死で返事をして、許されるのを待った。

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