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聖女の代理人  作者: 春香秋灯
海のエリカ
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金貨十枚のエリカ様

 アタシが生まれる前に、何度か海のエリカ様選びがあった。ところが、全て失敗に終わってしまった。

 海のエリカ様になるには、試練を乗り越えなければならない。

 海で泳いで、聖域に行くのだ。

 危険な試練なので、跡継ぎを決める時には、複数の赤ん坊を育てることとなっていた。

 ところが、赤ん坊から育て、いっぱいいた子どもたちは、皆、試練に失敗してしまった。


 困ったのは、街にいる人たちだ。もう、自分たちの赤ん坊を出すしかなくなってしまった。

 そんな時に、流れ者の男が赤ん坊を連れてやってきた。

 これが、本当にヤクザな男で、酒は飲むわ、恐喝するわ、詐欺はするわ、手がつけられなかった。

 酷い男で、赤ん坊の扱いもいい加減で、いつもお腹を空かせて泣かせ、おしめも替えないので、汚かった。

 そんな男が、街で赤ん坊を必要としている、と聞いて、黙っているわけがない。


「俺の赤ん坊を売ってやるよ」


 流れ者のヤクザに言われて、街の人たちはついつい乗ってしまった。


「それはダメだ! 孤児がいないことを、王都に報告するんじゃ!!」

 もちろん、エリカ様は大反対。赤ん坊を金で買って、それを次代のエリカ様として育てるなど、人道に反していた。

「まあまあ、街の皆で金を出しあいますから。物は試してみましょう」

 街の有力者たちの説得は受け入れられませんでしたが、エリカ様は頷くしかなかった。

 男に連れられた赤ん坊が、あまりにも酷い状態だったからだ。金を掴ませて離してやらないと、赤ん坊の命はなかった。


 こうして、エリカ様の元に、赤ん坊のアタシは引き渡された。その時、街の奴らがアタシの親父に支払ったのは、金貨十枚だ。贅沢しなけりゃ、十年は普通に暮らしていける金らしい。


 これまでは、教会も手伝っての子育てだったが、そういう状況ではなくなった。

 なんと、孤児院とエリカ様の予算の横領が、その年に発覚した。それは、神官やシスターまで行っており、大処刑となった。

 街の有力者も手をつけてしまっていたので、いくつかの有力者が一家一族で処刑され、街の勢力図がかわってしまった。

 あまり、育ちの良くない者が有力者となってしまい、見えない所で悪さをするようになった。





 金貨十枚の価値を見せろ、と街に奴らは、赤ん坊から、ずっと、アタシに言い続け、エリカ様を怒らせた。

 アタシがエリカ様の手に渡った時は、聖域は真っ白で、とても綺麗だったらしい。その年は豊漁で、街の奴らは皆、湧き上がっていた。


「アンタたち、昔から言われている事を守らないといけないよ。取り過ぎていないだろうね」

 エリカ様はあまりの豊漁に、心配した。

 昔から、どんなに恵まれていても、これ以上は海の幸をとってはいけない、という暗黙のルールがあった。それ以上とると、決まって、次の年には不漁になるのだ。

「このガキには金貨十枚かかったんだ。取り返さないとな」

「バカなことして、どうするんだい! 来年が不漁になっても、知らないよ!!」

 エリカ様は激怒したが、街の人たちは誰も取り合わなかった。

 もう、口煩く言う有力者はいなくなり、やりたい放題だった。


 そして、次の年は例年以上の不漁となった。


 酷いことは続くものだ。あのヤクザのアタシの親父が、また、街にやつらに金の無心にきたのだ。

「前の年は儲かったんだろう。それは皆、俺のガキのお陰だ」

「今年はとんでもなく不漁なのは、お前のガキのせいだ!」

「前の年、採り過ぎたんだろう。そういうのはダメだって、俺だって知ってるぞ。まだ、俺のガキが豊漁にしてくれるさ。見ていろ」

 そうして、また、金を取られた。


 次の年は、豊漁となった。


 ところが、聖域が少し、赤くなったようにエリカ様は感じたという。街のやつらは、白いといったが、毎日見ているエリカ様には、赤く染まってきているように見えていた。

 豊漁となったので、また、アタシの親父が金の無心に来た。


 毎年、そんなことを続いて、アタシが五歳になる頃、先代エリカ様が亡くなってしまった。

 先代エリカ様は、聖域に行く途中、溺れて、そのまま流されてしまった。

 見つかった時には、息はなかった。


 先代エリカ様が亡くなったので、慌ててアタシは試練を受けることとなった。

 何も知らないアタシは、海に放り投げられ、泳げないのに、必死で暴れて、どうにか泳いだ。

 そして、気づいた時には、聖域に到着していた。


 こうして、アタシはエリカ様を受け継ぐこととなった。

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