海のエリカ様
海の聖域は、人の目に触れられるところがある。だから、聖域が良くなっているか、悪くなっているか、一目でわかってしまう。
アタシは、聖域を毎日見るけど、その輝きは日に日に赤くなってきている。
それは、先代エリカ様が亡くなってからだ。
アタシは何も知らないから、ただただ祈っているけど、聖域の色はどんどんと赤くなってきている。
その赤は、アタシの髪と瞳の色に、どんどんと近くなってきた。
アラシは知らないけど、こういうふうになるのは、初めてのことらしい。
だから、聖域を毎日、見回っている街の奴らはいう。
「この、出来損ないのせいで、聖域が穢れたんだ!」
「海が不漁なのも、この出来損ないのせいだ!!」
「土下座しろ!?」
見つかると、殴られ、砂浜で土下座させられ、それでも気が済まないから、蹴られたりする。
アタシは頑張ってる。頑張ってるけど、聖域の色は先代エリカ様の時みたいにならない。
先代エリカ様の時は、白くて綺麗だった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
必死に謝って、許してもらおうとしても、誰も許してくれない。
「今日もメシ抜きだ!」
「今日も、聖域で徹夜で祈っていろ!!」
「はい、ごめんなさい!」
謝って、走って、聖域に逃げ込む。
孤児院には、アタシの居場所がない。孤児院でも、同じ孤児たちが、アタシに石を投げる。シスターは、それを止めない。
先代エリカ様が暮らしていた教会横の小屋には入れない。入口のドアが釘でうちつけられて、入れないようになっている。
メシだって、作り方を知る前に先代エリカ様が死んでしまい、わからない。お腹が空いた、と訴えて、どうにかかびたパンが貰えるだけだ。
我慢が出来ないくらいお腹が空いたら、最後、生の魚をかじることもある。
今日もお腹が空き過ぎて、力が出ない。聖域の中だけが安全だ。不思議と、暑くも寒くもない。とても心地よいので、岩だらけのところだけど、とても安心する。
ここに街の奴らは絶対に足を踏み入れない。
「ううう、エリカ様、助けてっ」
もうこの世にいない、先代エリカ様に助けを求めるけど、届くことはない。
悪いことは全て、アタシのせいだ。
ジジイやババアが死ぬと、アタシのせい。
不漁になると、アタシのせい。
雨が降ると、アタシのせい。
嵐になると、アタシのせい。
子どもが病気になると、アタシのせい。
転んでも、アタシのせい。
神様なんていない。