重い愛
周りの目などお構いなし、任務中なのも無視、というか放棄して、私の横に跪くカイト。
周りを見てみれば、シスターや神官は、見守っている。ちょっと遠くで、ヤナたちが、興味津々と覗いている。
真正面に座る最果てのエリカ様は困ったように苦笑するだけである。
「エリカ様が引退する、と話を聞き、この使節の護衛に志願しました!」
「仕事しなさい、仕事!」
「先ほど、辞表を提出しましたので、仕事ではありません!!」
「ちょっと、辞表、破棄してください!?」
カイトの上司らしき騎士が、頭を下げて拒否した。なんですか、お払い箱のエリカ様の威厳って、もうないんですね。
私の手をとり、真剣な面持ちで、私を見上げる。
「どうか、俺と結婚してください」
言われてしまった!! 見ていた聴衆たちは、もう拍手するやら、はやしたてるやら。まだ、返事してませんからね!!
「私、両足が動かないんです。トイレもお風呂も一人ではいけないですよ」
「全て、俺がします」
人を雇う気はないらしい。ていうか、四六時中、一緒のつもりか!?
「私、足の切断がどうしてもイヤなんです」
「大丈夫です。この日のために、罪人の首を何百人と斬ってきました。うまいですよ」
斜め上の腕前を鍛えてきている。そういう返答は予想出来なかった。
「子どもだって、産めませんよ。ほら、万が一の跡継ぎとか」
「アナが無事、男の子を出産しました。二人目も頑張るそうです」
言っておいて何だが、聞いた私のほうが恥ずかしい。
「私、妖精憑きらしいです。きっと、聖域にいてほしいって、言われちゃいますよ」
「攫っていきます」
騎士団に入団したくせに、国王への忠誠心ゼロじゃん。大丈夫? 騎士団。
「私の産んで捨てた親、実は生きてるの」
「会いたいですか?」
「会いに来たら、どうするの?」
「………」
どうするんだろう? 笑顔で無返答が怖い。産んで捨てられたけど、私の親だといって、乗り込まれた時が心配。主に、実の親のほうが。
「えっと、あの、その、どうすればいい?」
「口づけすれば、わかりますよ」
私の許可などなく、カイトは強引に口づけしてきた。もう、周りも固められ、逃げるための足もない私は、カイトから逃げられない。
誰かの許可など求めず、力尽きている私をカイトは攫うように図書館から連れ出してしまった。上司らしき騎士は、通り過ぎる時、「頑張れ」と応援してくれた。何を頑張るの? 本当にどうなるの??
本当は引継ぎとかしなきゃいけないのに、カイトは待たなかった。全てを放り出させて、無責任なことになって、私が戻る、と言っても、
「俺を恨んでもいい。もう、戻さない」
私を離してくれなかった。恨まないけど、後に残った人たちが可哀想だ。
そうして、私はカイトにアナが治める領地へと誘拐された。誘拐されたけど、誰も探していない。アナは、時々、私の様子を見に来るが、助けてくれそうにない。
私の身の回りの世話は、本当にカイトが全て行った。
そのお世話の最初の仕事は、私の腐った足の切断である。
無理矢理、拘束して、私が怖がるといけないから、と目隠ししての切断である。もう、愛がおかしい!
「他の誰かにやられなくて良かった」
綺麗な切断に満足し、丁寧に治療してくれるカイトの愛が重い。
ものすごく重い愛に包まれて、私は、それなりに長生きすることとなった。