最果てのエリカ様
魔法使いって、本当にすごい。最果てから馬車ごと一飛びで最果てのエリカ様がきた。
王国側と帝国側から護衛としての騎士をたくさん連れていた。私は動けないので、お出迎え出来ないことをシスターから説明され、わざわざ、最果てのエリカ様は図書館まで足を運んでくれた。
「初めまして、中央都市のエリカ様」
「初めまして、最果てのエリカ様、中央都市はどうですか? と言っても、私、何も知らないですけどね」
「見るもの聞くもの、とっても目新しいものばかりです。中央都市の聖域は、なかなか特殊ですね」
妖精憑きなので、最果てのエリカ様は、聖域がどこにあるか、気づいた。
中央都市の聖域は地下にある。地下から流れる地下水は、王国全土にわたり、土地に活力を与えているという。
とても若い最果てのエリカ様は、図書館の本のあまりの多さに体をくるくるとまわした。
「すごいですね。さすが、知識のエリカ様」
「ですが、市井のはやりにはうとくて。なんでも、市井には、本にバラ派とユリ派があるそうですよ」
「それは、私も知りませんでした。世の中、本当にわかりませんね」
同じエリカ様同士、話はそれなりに盛り上がる。
当たり障りのない話をして、終わるかに見えた。
ふと、エリカ様は机の下に隠されている私の足を見た。
「噂では聞いています。足、切断されたんですってね」
「幼い頃の過ちです。ですが、一度の過ちは許されないのがエリカ様です。法の都市で間違えてしまいますと、また、無法都市になってしまいますから」
「それでも、こんなのは、酷いです。腐っていますね」
「私がいけないのです。痛くないからって、放置していたので」
「腐ったところは、もう、戻せませんが、悪いものは取り除けますよ」
「それは、噂の魔法ですか?」
経験したことがない魔法に、私は興味津々である。
「いえ、妖精の力です。この中央都市は、エリカ様のお陰で、とても綺麗に保たれています。妖精たちは、エリカ様にお礼がしたいそうです」
「すごいですね、妖精憑きって」
「あなただって、妖精憑きですよ」
「まさかー」
生まれてこのかた、妖精を見たことも、妖精の声を聞いたこともない。
冗談かと笑っていたが、最果てのエリカ様は笑っていない。
「わかります。あなた、世界が灰色に見えるでしょう」
それは、亡くなった先代エリカ様も知らないことだ。誰にも話していない。
私は生まれつき、世界が色が灰色にしか見えなかった。別段、困ることもなかったので、あえて、そのことは言わなかった。
それを言い当てられてしまうと、最果てのエリカ様の冗談ではなかった。
私と最果てのエリカ様の会話を聞いていた帝国も王国もざわめいた。
「あなたの目に、妖精が悪戯をしています。本当は、悪戯を止めてあげたほうがいいのですが、妖精は、あなたのことが大好きなので、やめたくないそうです」
「可愛い悪戯ですね。いいですよ、そのままで」
私は永遠に世界が灰色でかまわない。
「これから、私はお払い箱になるのですね。良かったです。もう、エリカ様を選ばなくてもいいし、憎まれ役もしなくてもいいし、せいせいします」
エリカ様を選ぶのは、本当に大変だ。問題事の解決は、双方、万々歳であるほうが珍しい。
「このまま、私は僻地で過ごすのですね」
「実は、そういうわけにはいかなくて、ですね」
どこか、歯切れの悪い最果てのエリカ様。何故か、後方を気にしている。
何があるのだろうか、と護衛騎士たちを見て、驚いた。
護衛騎士たちの中に、なんと、騎士団に入団したカイトがいたのだ。