表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の代理人  作者: 春香秋灯
中央都市のエリカ
32/67

元貧民の子どもたち

 知らないということは、本当に気の毒なことだと思った。

 さる貴族を廃嫡まで追い込んだ件の後、少年は、たくさんの親のいない貧民の子どもたちを孤児院につれてきた。

「いっぱいいますね。私、外には出られないので、こういう現状は知りませんでした。彼らのもといた場所を聞いて、調査してください」

 神官数人が私に言われた通りに動いていく。

 それを呆然と見ている子どもたち。子どもが大人を顎で使っているなんて、なかなか可笑しな光景である。


 でも、これが中央都市の日常だ。


 子どもたちは、私がいる図書館に一度、連れてこられた。まだ、汚れたままの子どもたち、はやく綺麗にしてあげたほうがよかったな、と後悔したが、遅い。

 その中に、件の男の子がいた。

「少年、働き手をこんなに連れてきてくれて、ありがとうございます」

「い、いえ、俺は、何も」

「私の力が及ばないところで、こんなに不幸があるとは。孤児となっても、街に行くことが出来ます。もし、不幸な子どもたちがいましたら、導いてあげてください。話は以上です。シスター、子どもたちを綺麗にしてあげてください」

 シスター数人が、馴れたもので、子どもたちを連れていく。その中には、片足が不自由な女の子が、件の男の子に支えられて、歩いていた。

「大丈夫ですか?」

 神官が、心配そうに私に聞く。

「可哀想な子たちですね」

 神官の意図を気づかないふりをして、私は新しい本を開いた。知識は常に蓄積しなければならない。






 件の少年は、なかなか良い家庭環境らしく、読み書き計算が出来た。最初は教育から入るのだが、件の少年と、その妹は私のお手伝いとなった。


 といっても、件の少年は図書館の整理、その妹は書類整理や計算係となった。


 頭痛くなるような決済を終わらせると、シスターがハーブティを運んでくる。私は甘味もあるが、それは、お手伝いする子たちに下げ渡す。

「少し、休みましょう」

「はい」

「ありがとうございます!」

 礼儀はきっちり教えられたのか、それとも、元からそうなのか、兄妹の言葉使いは良かった。

「エリカ様、このお菓子、食べないのか?」

「あまり動かないので、お腹がすかないんです。よく動く皆さんで食べてください」

「でも、少しは食べたほうがいいって。ほら、ちょっとだけ」

 机ごしにクッキーのかけらを伸ばしてくる少年。年上なので、いうことを聞いたほうが良いのかも。

 食べてみれば、甘い。それからハーブティで飲み込む。

「もしかして、エリカ様は甘いのが苦手?」

 顔に出てしまったようだ。バレた。

「甘すぎるものはちょっと。甘味は食べなくても生きていけるから、必要ありません」

「娯楽が減るじゃないか」

「また、小難しいことを知っていますね」

「娯楽は生きてくのに大事だって、親父が言ってた。エリカ様の好きな食べ物って何? 俺、買ってくるから」

 ここでは、働けばお小遣い程度の金銭は貰える。お金有り余っている教会と孤児院は、孤児にお金の使い方を実地で学ばせている。

 将来、ここを出ていく孤児たちだ。お金ぐらい使いこなせなければならない。

「いりませんよ。食べたいものは、神官かシスターに頼みます」

 でも、大事なお金を私のために使わせたくなかった。

「俺がエリカ様に買いたいんだよ」

「人が喜ぶことをするのは、尊いですね。でも、私はいりません」

 優しいことをいう少年に、私は遠慮した。

 窓の外を見る。今日は、天気がよくない、灰色だ。





 私がいらない、と固辞しているにも関わらず、少年は、お菓子や果物を持ってきた。せっかくのお金をこんなことに使うなんて、なんてバカなことをしているのか。

 そして、私がお気に召さないので、それらは兄妹で食べるか、他の孤児たちへ持っていくこととなった。


 人手はまだまだ足りない中、そんな可笑しなゲームが続くと、何故か、広がっていく。


 最低限の教育を終えた孤児たちは、ともかくがむしゃらに働いた。手伝った。そして、わずかばかりの金銭を受け取ると、私が気に入りそうかどうかわからない食べ物を買ってくる。

 そんな日々が毎日続くのに、私が辟易していると。

「エリカ様も教えてあげればいいではありませんか」

 止めない神官は、孤児たちの味方をした。でも、この神官は、私が欲しいものを知っているけど、教えない。まるで、私一人が悪いみたいじゃないか。

 人の機微は難しい。神官の意図に私は気づかない。





 夜遅くまで灯りがついているのに気づいた少年が、図書館にやってきた。

「エリカ様、まだ、お仕事ですか」

「いえ、そうではありませんよ」

 私はいつもの定位置で、本を広げていた。蝋燭の灯りだけで本を読むのは、目に悪いことだけど、やめられない。

「また、小難しい本読んで。頭カチカチになっちまうぞ」

「中央都市のエリカ様は、常に法をつかさどらないといけないので、知識は必要なのですよ。これ、読み終わったので、片づけてください」

「本当に、読みたい本なのか?」

 言われた通りに本を片づけるが、少年は、ふと、疑問を口にする。

 なかなか鋭いことを聞いてくる。こういうのを機微に聡い、というのだろう。

「私が読む本は、神官やシスターが選んできますね」

「え、自分で選ばないの?」

「私が選んだら、必要かどうかはっきりしないじゃないですか。こういうのは、大人がやったほうがいいのですよ」

「なあんだ、エリカ様って、頭いいけど、頭悪いんだ」

「経験が浅いんですよ。きっと、君たちよりも、世の中を知らない」

「じゃあさ、俺が選んでやるよ」

 何か、悪戯でも思いついたみたいに言う少年。まともな本であればいいけど。


 しばらくして、持ってきたのは、綺麗な挿絵がいっぱい入った本だった。


「これは、絵本ですね」

「読んだことがなさそうだから」

「残念ながら、エリカ様に選ばれる前に、だいたいの絵本は読み終わっていますよ」

「え、そうなの?」

「ありがとうございます。懐かしいですね」

 せっかく持ってきてくれたので、私は絵本を読み始めた。

「もう、休んでください。私は、もう少ししたら休みますから」

「ん、わかった」

 やはり眠かったようで、少年は素直に図書館を出ていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ