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聖女の代理人  作者: 春香秋灯
中央都市のエリカ
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中央都市のエリカ様

 教会の横の立派な図書館に、私は毎日、過ごしていた。目の前には、本だけでなく、書類まで山積みにされている。

 図書館だけど、私の前には、役人に連れてこられた男二人が立たされていた。

 一人は、かなり身分が高い貴族様らしく、身なりがよい。ちょっと太っているのは減点だ。

 一人は、いかにも家庭とか身内とかに問題ありそうな子どもである。身なりもボロボロである。磨けばいい感じの男の子になりそうなのに、残念だ。


 私情を挟まないのが、中央都市のエリカ様の役割である。見た目でも、身分でも、それを取り除いて、公平に、二人を見なければならない。


 そう、例え、エリカ様である私が、この中で、一番若い8歳だとしてもだ。


 貴族様は、子どもの私を嘲笑う。そうだよね、わかる。でも、私のほうが偉いのよ。不敬罪で牢屋に入れてやりたい。

 子どものほうは、明らかに自分よりも若い私を不安そうに見ている。


「それで、馬車に飛び出した子どもを殴ったんですね」

「危ないことをしたんだ。体で教えてやるのが、大人としての義務だ」


 確かに、危ないことをしてはいけない。貴族様の言い分はもっともである。


「あんな狭いトコをすごい速さで馬車を走らせてきて、何いってやがんだ! 俺の妹は、そのせいで、足が不自由になったんだぞ!?」

「はあ、それは可哀想に。では、地図を」


 同情するも、それはそれ、これはこれである。

 神官が持ってきた地図を机の上に広げる。

 貴族様は、立たされたままなのが気に食わないように、適当な椅子に座る。

「私は座ることを許していません。立ちなさい」

「俺を誰だと思ってる!?」

「私は国王より偉いんですよ。わかりました、国王にあなたの名前を伝えておきます。不敬罪な貴族がいる、ときちんと手紙で書いておきますから」

 実際、それで、一貴族が廃嫡になった。

 権力には権力で押し切られ、貴族様は慌てて立つが、遅い。もう、手紙で伝えることは決定なので、廃嫡決定だ。


 ただ、廃嫡になれればいいけど。


 それから、地図を見て、男の子が飛び出した、という所と、妹が怪我させられた、という所を確認する。

「中央都市では、安全のため、馬車は低速度で走らせる決まりがあります。また、狭い路地は、馬車のほうが避けるように、ということを周知させているのですが、ご存じなかったようですね。

 いいですか、中央都市では、馬車が人を引いたら、馬車のほうが悪いと決まっています。このことをもみ消した役人を調べてください」

「そんな、平民の、しかも貧民どもの命なんぞ」

「昔々、中央都市は無法地帯だったため、聖域が大変なことになったそうです。それを防ぐため、中央都市は、法の番人として、平等に裁くことを義務付けられました。貴族でも、商人でも、平民でも、貧民でも、ここでは、罪は平等に裁かれます。

 あなた、聖域が汚れても、責任とれますか? とれないでしょう。だったら、清廉潔白に生きるか、悪事を洗いざらい吐き出して罪を償う生き方をしてください。連れていってください。

 あ、その少年は残って」

 暴れる貴族様は役人たちによって、図書館から出ていってもらった。

 図書館には、私と、神官と、男の子だけが残った。

「妹さんの足は残念でした。残念ながら、名前だけのエリカ様ですので、あなたを救うことが出来ませんでした。本当にすみません」

「あんた、俺よりも小さいのに、謝る必要なんてないよ」

「でも、もう、馬車の前に飛び出してはいけませんよ。妹さん、これから頼る人はいますか?」

「………いない」

「そうですか。大人はいないのですか?」

「帰ってくるっていって、そのまま。でも、俺は何も悪いことはしてない! 俺も妹も、ちゃんと働いて」

「そうですか。でも、無理はしないで、孤児院に来なさい。教会も孤児院も、お金はあるのですが、人手が万年足りないので。それでは、次」

 まだ、何か言いたいことでもあるのか、少年は言っているが、神官によって、図書館から追い出されていった。



 審議が一段落して、私は束の間の休憩と、外を見る。

 私は白黒はっきりさせないといけない立場だというのに、私の世界はいつも灰色だ。

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